赤池真理 1
碓氷軽井沢IC近くの全国展開しているファーストフード店へと車を入れる。
「あーっ、いるっすね神オジ」
駐車場には練馬ナンバーの英国製ラグジュアリーSUV、マットな質感のシックなゴールドカラーの存在感しかない車が停まっている。
「ファーストフード店に停まってるのは違和感しかないな」
「でもレンジローバーって、不思議と反社臭もDQN臭もしなっすよね」
「警察官の口から出る感想じゃないだろ、それ。まぁ、言いたいことはわかるが」
先輩の車の横へと駐車し、一応はと店内に居るだろう先輩にトークアプリで着いたことを告げる。
即既読になると同時にキモいスタンプが返ってきて少し苛つきつつも、らしいなと店内へと向かうことにする。
「おー、こっちこっち」
入店するとすぐに声をかけられる。
「取り敢えず、俺はコーヒーだけでいいから頼んどいて、後は好きなもん頼め」
財布から二千円ほど出してイカレキャリア様に渡すと、いいんすか、と嬉しそうにレジカウンターへと向かう。良いとこの出で、一般警官に比べても高給取りのくせに金ない中学生か高校生みたいな喜び方するんだよな。そういう所が憎めないというか、本当に人たらしだと苦笑いしつつ、先輩の座るテーブルへと向かう。
「無茶を言ってすみませんでした、先輩」
「気にするな、久しぶりの軽井沢観光がてらだよ。後輩の頼みで動いてるなんて、最高の御題目だ」
ひらひらと手を振りながら先輩はにこやかに答えてくる。テーブル席のソファーにやや深めに腰掛けて足を組んでいるが、身長180中頃で手足が長く、やや筋肉質な先輩はレザーの七分丈のパンツに足元は白のコンバースのハイカット。胸元を大きくあけたイタリアンカラーの黄色味の強いライトグリーンのカジュアルシャツで、チラッと見えるインナーは暗めな赤のタンクトップだ。程好く鍛えられた細身の筋肉の上にゴールドチェーンが首元に光っている。
控え目にいっても、チャラい。でなければ、反社の臭いしかしない。ワイルドなチョイ悪オヤジというより、強面系のイケメンな風貌とガタイのせいで、本職にしか見えない迫力があるんだよなー。
あんなんが普段あまり見かけない高級外車に乗って現れたら、そりゃこうなる。
「先輩の周りだけ、ガラガラなんですけど」
「たまたまだろ」
「先輩は見た目はいいんですから、もうちょっと年相応の格好をされたほうが」
「相変わらず固いなー。きっちりタイまでして、この暑い日にジャケットもしっかり着てるもんなー。あのお子ちゃまキャリアなんてシャツ一で袖まで捲ってるじゃねーか」
「小玉警部は暑がりですし、俺は反対に汗をかきにくい上に寒がりなだけですよ」
確かに今日は日射しが強く、この時期としては暑い日だ。とはいえ冷房の効いた車の中で移動していたのだから、ジャケットを着込むのも可笑しなことでもない。ましてや暑がりなイカレキャリア様が「暑いっすねー」と宣ってクーラー全開だったんだ。正直言えば寒かった。
「相性のいいコンビで良かったじゃねーか。噛み合わせが悪いくらいのほうが噛んだ時にはでっかく傷つけられるってもんだ」
「言ってることが矛盾してませんか」
「してねーよ、四角四面同士組んでも噛み合う所が無くて滑っちまうだろうが、まぁ、お前もバカ真面目過ぎて変な所でズレてるし、あのお子ちゃまは大概全部ズレてるしで、変人同士丁度いいだろ」
「変人の最たる者みたいな先輩だけには言われたくないですね」
「はっは、言うじゃねーか」
随分な会話をしているとイカレキャリア様がやって来る。レジカウンターは空いていたと思ったから、少し遅いなと感じたりしたが、まぁ、こいつのことだ。渡した金以上に頼みまくったんだろう。
「お久しぶりっす、神オジ」
「お前、それ本人にも言うのか」
「ん、なんか間違ってるっすか」
「久しぶりだなお子ちゃま。間違ってねーよ、お前はお子ちゃまだから、なーんも問題ねー」
「なんすか、二人して俺をバカにして、問題しかねーっすよ。まぁいいっすけどね。あっ、これコーヒーっす」
そういって、あきらかにグランデサイズのアイスコーヒーを三つテーブルに置くイカレキャリア様。
「確かにサイズは指定しなかったけど、なんでこんなバカでかいのを、一応訊くが、三つあるのは先輩とお前の分もってことだよな」
「当たり前っすよ」
何が当たり前か判らんが、向かいで先輩は爆笑しつつ、ありがとな、なんて言っているあたりは正解なんだろう。
おそらくはこのドリンクだけで渡した金は終わってるだろう。俺と先輩の分はブラックだったが、イカレキャリア様のはなんかクリームやらなんやらが盛大に乗っている。キャラメルマキアートとかの類いだろうか、そういうの飲まないから詳しくないんだよな。
注文用の番号がついたプレートをテーブルに置いて座るイカレキャリア様に、やっぱり、あれこれ時間がかかるもの頼んだなと。
「何、頼んだんだ」
「いやー、地域限定の季節限定キノコのライスバーガーなんてあったんで、思わず全種類頼んじゃいました。3種あったんで、それぞれポテト、オニポテ、サラダのセットで」
「全部食う気か」
「ポテトとオニポテは皆で食べる用っすよ、バーガーは全部食いますけど。言うてバーガー三つなんてオヤツっすよ」
けろっと言ってのけるあたりが流石としか言えんな、本当。
「取り敢えずだ。これに調べたことと、こっちに来てからの動向について纏めてある」
先輩は早速届いたポテトをつまんでいるイカレキャリア様を横目にUSBを取り出して渡してくる。
有り難く受け取り、頭を下げるとその頭上に声が降ってくる。
「大方、お前の読み通りだな。勘が鈍らなきゃ、良かったんだがな」
顔を上げた俺に真剣な顔の先輩の言葉が刺さった。




