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展開と疑念 




 GWも終わった5月10日、出勤や登校がなから終わり人通りに落ち着きがみえる午前9時頃、目撃者の話では2リットルほどのペットボトルが数本入ったビニール袋をもって男は現れたという。


 泣き桜の周りには自殺者を悼んだ追悼品が置かれていたために、花見も等に過ぎて葉だけになった泣き桜に、同じく供養の品を持ってきたのだろうかと思ったそうだ。



 だが、暗めな服に身を包んだ男は桜の前でペットボトルを取り出すと二つほどを桜にかけたという。


 遠巻きにきついアルコールの匂いがしたそうだが、非常識だとは思ったものの、故人がお酒が好きでそのためにやっているのかと、まさか火をつけるとは思っていなかったために注意することなく放置したそうだ。


 周辺で目撃した人物がほぼ、こうした感じの思いを抱いたか、無関心だったために、その後の凶行へと繋がってしまった。


 男は残りのやや大口にみえるペットボトルの蓋をあけると頭から中の液体を被ったという。


 目撃者たちもびっくりしたようだが、その直後、燃え上がった男が泣き桜に抱き付いてそのまま泣き桜ごと焼死してしまったという。



 燃え盛る泣き桜から燃え落ちる葉や、飛び交う火の粉の中で、喉も焼かれたろう男の呪詛のようなものがずっと聞こえていたと目撃者が語っていた。





 「DNA鑑定はまだこれからみたいっすが、歯形からほぼ間違いなく田川宗介みたいっす。スピリットみたいな高濃度のアルコールを被って火をつけたらしいんで顔は真っ黒焦げで判別不可能だったみたいすけど」


 監察医による検死結果を見ながらイカれキャリア様が報告してくる。

 田川は梓組に襲われた経緯で周辺警戒のパトロールがされていたが、本人を監視していた訳じゃなかった。


 これまで報道を控えていたメディアも、流石に名勝とされ、自殺者多数で話題になった桜ごとの焼死はスルー出来なかったのか、それとも黒川に見切りをつけたのか田川が店に遺した遺書とともに嘘のように加熱した報道合戦を繰り広げており、なんなら俺まで勝手に報道されている。


 容疑者と一緒にヤクザに拉致られた挙げ句、怪我で療養中に容疑者に自殺された間抜けとして。


 「遺書には黒川の疑惑の証拠の隠し場所と、一連の自殺への関与も書いてあったんすよね。酷いっすよね。さっさと本庁の人間で回収して俺らには見せてくれないくせに、報道には内容開示しやがって」


 イカれキャリア様が怒っているが、結局のところは怪我で数日動けなかった俺がまともな指示を出さなかったミスだ。


 「色々と思うところはあるが仕方ない。幸いに赤池真理さんは意識を取り戻したらしいし、その後の経過も良好だそうじゃないか」


 実のところ、俺と田川が拐われた時、偶然なタイミングではあるが4人目の自傷者で、意識不明だった赤池真理の意識が回復していたらしいのだ。

 予後も順調で暫くすれば退院だと聞いている。


 「確かに、被害者のひとりが意識を取り戻して回復したのは良かったっすけど、被疑者死亡でこの事件は幕引きっすよね。田川は遺書で自供したわけっすし」


 イカれキャリア様の言葉に、俺は引っ掛かっていた疑問を話す。



 「武藤がな、調べたんだよ。泣き桜の花や散った後についた葉、それから許可を得て採取した皮とかをな」

 

 「えっ、いつの間にっすか」


 俺の言葉に驚いたイカれキャリア様だが、俺も結果を貰ったのは退院してからなんだ。田川の自殺のゴタゴタで話すのが遅れてしまっていたが。


 「結論から言えば、田川の論文に書かれていた、あの香水なんかに入っていた成分は検出出来なかったそうだ」

 

 「えっ、捏造だったんすか。なら、あの成分はなんなんすか」


 「海外で十年ちょっと前に出回りはじめた幻覚作用のある合成物質だそうだ。当時から今にいたるまで日本では規制されてないし、それほど強い効果も無いらしい」


 「えっ、本当に完全な捏造じゃないすか」


 「なんでそんなことをしたかは良くわからん。本人も死んでしまったしな。ただ、当時の教授たちは精神を病んでしまったゆえの暴挙だろうと不問にしたらしい。論文の原本が大学に残っていたのはたまたまで、処分したものと思ってたらしいからな」


 なんとも言えない沈黙の中で、俺は改めて疑問をぶつけることにする。


 「なぁ、本当に田川だったんだろうか、今更なんだが、自殺者たちが自殺したのには他に何か要因があったとしか思えないんだよ」


 俺がそういうと、イカれキャリア様は不満そうな顔を全開した。


 「いや、確かに因果関係はあやふやっすけど、実際に薬を使ってたわけっすし、動機だって黒川への復讐って、はっきりしてるっす。なにより遺書で自供してるっす」


 「確かに田川は自分の意思かは別として関与してたんだろう。でもなー、武藤も言ってたが、いくら条件が揃っても、死ぬ、って暗示を人にかけて実行させることはほぼ不可能に近い。それこそ、術者に対して信仰のような感情を抱いてないとな」


 「なら、田川は顔もいいし、スタイルもいい。悲劇の主人公みたいなバックグラウンドもあるんすから、本当に女の子たちがメロメロになってたかもっすよ」


 アホみたいなことを言うイカれキャリア様に呆れるが、意外とそんなアホみたいことが真実だったりもするんだよな。


 「モテないからって僻みを言うのは余計にモテねーぞ」


 余計な一言くらいは忠言すんのは勘弁してくれな。


 「僻んでねーっすよ」



 ブーブー言うイカれキャリア様を無視して、俺は回復した赤池真理へのコンタクトを決める。


 

 「確か、病院は港区の大学病院だったよな。恵愛医科大付属病院か」


 スマホのメモを確認し、面会のためのアポをとるべく病院へと電話する。退院はまだ先のようなので、数日中なら病院での面会となるだろう。


 問題なく面会予定もとれ、事件の事後処理として動くなか、赤池真理が姿を消したとの一報が届くことになる。



 


 

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