生まれる疑惑
手を繋いだまま、三人で執務室に向かう。
薄暗い道も陛下がいれば、怖くはなかった。
来た道と同じ経路で執務室に戻ると、レオン様は陛下に報告を始めた。
公爵領の邸に送った騎士達は、無事に任務を終えたと連絡があったようだった。
想像よりずっと早くて、驚いた。
「公爵領の騎士達を戻しますか?」
「そうだね、……スズ、頼める?」
「はい。この部屋でいいでしょうか」
頷いたのを確認すると、すぐに準備に取り掛かった。戻すことはしたことがないので、少し不安だ。
そう思いながらも、スマフォを操作する。
レオン様には向こうの騎士達に行きと同じように手を繋いで、荷物は身につけてもらうように連絡を頼んでおいた。
――リーベルド公爵領の邸に送った騎士達をこの部屋に戻してください――
そう入力すると、レオン様にあちらが準備できたことを確認して送信ボタンを押した。
なにも起こらないことにドキドキするも、行きも数分かかっている。
荷物が増えている今、もう少しかかるはず。
そう自分に言い聞かせながら、待つ。
ふたりも心配そうにしながらも、黙って待っている。
--待つこと数分。
光の粒が上から降ってきた。
その量がどんどんと増え始めると、光が弾けるように眩しくなって目が開けられない。
ガチャガチャという音に恐る恐る目を開けると、そこには大量の荷物を背負った騎士達がいた。
なんとか上手くいったようだと息を吐くと、陛下から御礼の言葉が聞こえて頷いた。
すると、騎士の皆も膝をつき、口々に御礼を言い始めて。
なんだか気恥ずかしくて照れ笑いを浮かべると、何人かはぽかんと口を開けて固まっていた。
それを不思議に思い、首を傾げると。
「駄目だから。この意味、わかるね?」
陛下がにっこりと美しい笑みで、騎士達にそれだけ言うと、皆慌てた様子で下を向いた。
レオン様は苦笑いしながら、ひとりの騎士と話しかけているようだった。
「集めた荷物はこの部屋に置いて行ってください。報告すべきことはありますか?」
「すべて報告した通りでございます」
「そうですか」
レオン様がそう言うと同時に、陛下が口を開く。
「皆、ご苦労だった。感謝する。
あとはゆっくり身体を休めてくれ」
その言葉に騎士達は頭を下げて、退室していった。
荒れた部屋に荷物の山が増えて、レオン様は遠い目をしている。
「……どうしたものか。
とりあえず、問題の箱を確認しようか」
陛下の言葉で、荷物の山を漁る。
書類が多いため、あっという間に見つかった。
その箱は木で出来ていて、報告の通り紋章のようなものが、蓋と箱に彫られている。
その上で、赤色と青色に塗られているようだった。
蓋を開けると、中はワタと布が敷かれているだけで、物はなかった。
「これはなんの箱なの?」
「聖石が入っていたのではと」
「聖石?」
「願うと道具に形を変えるという、希少な石らしい。アリシャールだけのもので、詳しくは知らないけれど」
そういえば、ヴィルに聞いたことがある。
出会ったばかりの頃、家電を見て不思議そうにしながら、言っていた気がする。
これが重要な証拠だとすると。
「……あの眼鏡や銃、ナイフは聖石だった、ということですか?」
「おそらく。……あの飛び道具は、銃というの?」
「私はそう思いましたが、」
「あれはこちらでは見ないものだった」
その言葉にドクンと心臓が跳ねて、固まった。
陛下とレオン様は、顔を顰めている。
それが意味することは、あちらの世界を知っているものが関わっている可能性が高いということだ。
「私ではありません!」
思わず、そう口にすると。
「それは心配していないよ。
現状あちらの世界を知っているのは、カリストスの『救国の乙女』とシャロさん。
――あと、アリシャールの王子である彼」
「……!それはっ!」
「シャロさんは除くとして、実質ふたりだけ。
……特に彼は、私が邪魔だろうね」
ヴィルはそんなことをしない!そう言いたいのに、予想していない言葉に、喉が張り付いたように声が出なかった。
ずっと陛下の側で黙っていたレオン様が、見かねたように口を開いた。
「しかし、かなり協力的かと」
「それも作戦のうちかもしれないでしょう」
そう言われてしまうと、何も言えないだろう。
「……ヴィルは、違うと思います」
掠れたような小さな声で、そう口にした。
そんな私を陛下は困ったような顔で見ている。
「そうは言っても、ね」
そうだね、とは言ってくれなかった。
陛下はヴィルを一番疑っているようだった。
確かに桜様は今回のことを教えてくれたから、疑いがあまりない。シャロさんを疑う気は毛頭ない。
そうなると、必然的にそうなってしまうのはわかる。
だけど、ヴィルではない。
絶対にヴィルではない、そう言い切れるくらいに、私はそれを信じている。
――あの時の女性に聞けば、なにかわかるかもしれない。そう思った私は。
「あの、襲撃してきた女性とお話することは、できませんか?」そう口に出していた。
そんな私の言葉にふたりとも目を見開き、すぐに反対した。
「出来るわけないでしょう。
いくら武器を奪ったと言っても、なにかあったら困る」
レオン様も同意見のようで、黙ったままだ。
「でも彼女は、私を嫌っているようでした。
なにかボロが出るかもしれません」
そう必死に説得を試みる。
その言葉に陛下が揺れたのを見逃さなかった。
「危険がないように、近づくことだけはしません。ひとりでは行きません」
だからお願いします、そう言うと。
「……わかった、一度だけだよ」
深い溜息とともにそう答えてくれた。
****
扉を通り先程と同じように、右側に檻左側に壁の道を進んだ先に、騎士と人がいるのが見えた。
その人は黒い服を着ていて、間違いなく襲撃してきた少女だ。
「リーベルド公爵令嬢」
私がそう声をかけると、鋭い視線が向けられた。
暗闇でも輝くような金色の髪に、目尻が釣り上がった目元をした少女。
その少女は廊下を歩いている時に、よく私を見ていたひとりだった。
「なにしに来た」
キッと鋭い目つきで私を睨んでいて、それにたじろぐ自分をなんとか奮い立たせて口を開く。
「どうして陛下を狙った?」
「わたしを!公爵家を!蔑ろにしたからだ!
こんな取るに足らない女に、うつつを抜かす皇帝など国を滅ぼすだけだ」
「……と、お父様が言っていました?」
その言葉に腹を立てたのか、カッと顔を赤くして「このっ!クソアマが……っ!」と叫んでいる。
公爵令嬢のはずだが、とんでもなく口が悪い。
「お前のせいで……っ!
わたしが『救国の乙女』になるはずだった!」
「あなたには、なれないでしょう?」
「お前が現れなければ!
計画通りに……!」
「計画?」
「……っお前に話すことなんかない!
サッサと消えろよ……っ!」
もうこれ以上は無理だ。
そう思い無言で身体の向きを変え、出口に向かう。
「――くっそ、マシンガンにでもすれば……」
呟いた声に、思わず振り返った。
だが、きっともう話してはくれないだろう。
今だってまともに会話をしてくれなかった。
そう思い、ゆっくりと前を向き直すと、扉から出た。
扉を閉めると、パサッと脱ぎ捨てる音がした。
私が頼んだ通り、陛下は透明マントを被って隠れてくれていたのだ。
しかし、心臓がバクバクと嫌な音を立てている私は、それどころではなく。
上の空で謝罪を口にした。
「決定的なことは聞けませんでした。
……申し訳ありません」
「スズは、なにか引っかかっているのではない?」
「確信がありません」
というより、知りたくないのかもしれない。
「構わないよ」
「……マシンガンってありますか」
あると言って欲しい、そう思いながら口に出す。
「いや、私は聞いたことがない」
陛下から返ってきたのは予想通りの答えだった。
そうなると、先程の言葉は――。
「……陛下、帰りましょう」
心配そうにこちらを見ている事に気づいていたが、今はそれには触れたくなかった。
――とにかくここから離れたい。
その一心で執務室へと足を動かしていた。




