反撃開始
「そろそろ反撃しようか」
陛下はレオン様のほうへ行き、そう告げた。
私は黙って陛下の後ろに隠れるように立つ。
「状況はどう?」
「まだ見つかっておりません。
どういたしますか?」
「見つかり次第、動きたい。
すぐに動けるように騎士団の手配を、出来るだけ少数精鋭で。
あとスズの部屋にいる彼に、スズはこちらで預かっていると伝えておいて」
「承知いたしました」
極秘事項のため、レオン様が動くようだ。
レオン様は廊下にいた護衛ふたりと代わり、部屋から出て行った。
「スズは私の側にいてね。
…そのほうが安心だということを、知ったから」
「もう勝手なことはしません!
陛下が傷つくのは嫌だから……」
「きちんと、私に守られていて」
少し拗ねるように言った私に、子どもに言い聞かせるよう簡潔に釘を刺す。
もう私のせいで、陛下に傷を負わせるのは嫌だ。
だからしませんと言っているのに、信じていないような気がする。
「もう庇われるようなことはしません!
腕の傷は大丈夫ですか?」
「…………。
擦り傷だから、ね。もう痛みもないよ」
「落ち着いたら、きちんと手当てしてくださいね」
ノーコメントなのが気になるが、そこには触れないことにした。
本当はすぐにでも手当てしてほしいくらいだが、今大事にしたくないのだろう。
動けなくなるのは困るはずだ。
陛下は穴のあいたソファーの無事な部分を叩くと、そこに私を座らせてくれた。
窓から一番離れていたため、破片も飛ばなかったようだ。
私の隣に腰を下ろすと、徐に手を握られた。
「怖い思いをさせて、ごめん」
「……私は陛下を失うほうが、怖かったです。
それに陛下はなにも悪くありません」
「指輪があるから、私は心配していなかったけれど」
「……効力はないかもしれませんよ」
「スズが願ったというだけで、なにより御利益がありそうでしょう」
そう頬を緩めた陛下に、私の顔が熱を持つ。
視界の端に護衛達の姿があり、慌てて取り繕う。
「……レ、レオン様、遅いですね?」
不自然すぎる話のすり替えに、陛下はクスクスと笑っている。
恥ずかしくなりながら陛下を見上げると、弧を描いている口元に目がいってしまった。
それは先程のキスを思い出させて、更に熱が集まるのを感じた。
あれは陛下の見た目からは想像できない、少し強引に溶かされるような、そんなキスで。
それなのに、甘くて幸せに酔うような……。
そんなことを思い出して無意識に、口元に手をやってしまった。
「……ねぇ、スズ。なに考えてたの?」
私は顔を真っ赤に染めて、口をおさえたまま硬直した。
陛下は蠱惑的な微笑みを浮かべて、まるで答えられないことを知っているように続けた。
「スズ、駄目でしょう?
そんな可愛い顔は私とふたりの時だけ」
護衛達に聞こえないように、耳元で囁かれる。
いつもより甘さを含んだ声は、心臓に悪かった。
特にあんなことを考えていたあとは。
これ以上ないほど真っ赤になってしまった顔を手で隠すと「……もう本当に、」と呟く声が聞こえた。
その続きを聞き返そうとしたところで、レオン様が戻ってきた。
入れ替わるように護衛ふたりが出て行く。
それに少し安堵の息を吐くと、レオン様に見られないようにまた陛下の後ろに隠れた。
「それぞれの騎士団に腕の立つ信用できる者を選出させて、特別編成で準備をさせております。
アリシャールの王子殿下への伝言も問題なく」
陛下にそう報告すると「あちらの件ですが」と続けた。
「皇都にある公爵邸からはなにも出ておりません。しかし伯爵邸からは、聖石の偽造取引書が発見されました」
「……弱いね。
決定的なものは残していないのか、それとも領地に隠しているか」
「叩く前に領地の公爵邸に派遣しますか?」
「……少し時間がかかりすぎる。
叩く前に気づかれる可能性が高い」
ふたりは考え込むように黙る。
「あの、私なら移動させられるかと……」
少し火照りが落ち着いた私は、陛下の陰から顔を出してそう言うと、陛下は驚いたように目を見開いたあと少し顔を顰める。
「間違えて一緒に転移したり、しない?」
「……大丈夫だと、思います」
ふたりとも、疑わしい目で見ているのはなぜ。
陛下に至っては溜息を吐いている。
「……仕方ないか。スズ、お願いできる?」
渋々感が満載だ。なんだか、解せない。
陛下だけでなくレオン様までそんな目で見るなんて、信用が地に落ちているようだった。
****
「派遣する部隊を、この部屋に。
皇都の公爵邸にいく部隊も向かわせて」
そう言った陛下の指示通りに、部屋には二十人程が集められた。
騎士達は円になり、両隣と手を繋ぐ。
その光景は知らない人が見れば、かなり危ない集団だと思うだろう。
陛下が顔を伏せて目を瞑るように騎士達に言うと。
「この移動方法だけは、他言しないように。
では『救国の乙女』殿、頼むね」
私の存在を強調するかのように言葉を告げる。
私はスマフォを取り出すと。
――目の前で円になっている騎士達を、リーベルド公爵領の公爵邸へ移動させてください――
そうメールを送ると、騎士達は光り始めた。
人数が多いせいかいつもより時間がかかり、完全に姿がなくなったのは数分経ってからだった。
「……良かった」
時間がかかっていたので、失敗したのかと不安に駆られてしまった。
レオン様は小さな本のようなものに、ペンで何かを書いている。
――それは以前シャロさんが作ったものにそっくりだ。
「……もしかして、それはシャロさんが?」
「うん、その上潜入まで買って出てくれてね。
これはその連絡手段として」
元王子とは思えないスキルだ。
「責任を感じているのだろうね。
……なにも悪くないのだけれど」
「責任?」
「リーベルド公は皇太子派の筆頭だったからね」
そういえば襲撃してきたあの人も、陛下がリーベルド公爵令嬢だと言っていた。
リーベルド公爵といえば、あの時に突っかかってきたあの人だろう。
「どうして今更……」
「私もそれが不思議でね。
なにか気づいたのか、誰かに唆されたのか……」
どちらにしても、皇帝に手を出すのは重罪だ。
なぜ御令嬢までもが、しかも自らなんて。
不可解な点が多く、だからこそ証拠が集めているのだろう。
「公爵邸、制圧したようです。
リーベルド公爵も捕縛しております。
ダンケル伯爵邸にも向かわせますか?」
レオン様が本を開いて報告する。
あれは騎士団とも繋がっているようだ。
「とりあえず、公爵をこちらに連行して。
残りの騎士で公爵邸にいる使用人の監視を。
伯爵邸には別の部隊を向かわせよう」
「手配いたします」
そう言ってレオン様はバタバタと部屋を出て行った。
もう外は暗くなってきている。
ふたりとも疲労が見え隠れしていた。
ずっと忙しくしていたのだろうか。
早く解決することと騎士達の無事と帰還を祈りながら、陛下と部屋で待った。




