表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/137

約束のキスは



「――では、言い訳を聞こうかな」

 そう言った陛下は笑みを浮かべているが、明らかに怒っていた。


 まずは、陛下に怪我をさせる原因となった、落ちてしまった布を拾う。

その布はスマフォで願ったら作れてしまった、透明マントだ。


「これを被れば、姿が見えなくなります。

 だからなによりも安全だと思いました」

「布が落ちることは考えなかったの?」

「…………。

 見守るだけの、つもりだったんです」

「では、スズは偶然目が覚めたの?」

「それは、ヴィルが起こしてくれました」

「……彼が、スズを危険に晒すとはね」

 予想外だったな、と呟いている。


「で、彼らは?」

「……部屋に戻ってもらいました」

 半ば無理矢理。私の留守中になにかあってはいけない!と、ヴィルを説得して、カイルにはヴィルの側を離れるべきではない!と訴えた。


「ヴィルに『救国の乙女』の規定について、聞きました。私を守るためのものだと。

 陛下は、……酷いです」

 私はまたポロポロと涙が流れるのを感じた。

陛下はハンカチを取り出して、涙を拭ってくれる。

怒っていても、そういう所は優しい。しかし。


「私の、返事も聞かずに、勝手に薬盛って!

 陛下は私と一緒にいてくれると、そう思っていたんです。ヴィルが起こしてくれなかったら、陛下になにかあったら、私はずっと後悔していました!

 私の意思を、無視しないでください……っ」

 抑えきれない感情に流されるように、言葉が口から出ていった。


「……スズ、ごめん。

 けれど、約束したでしょう?」

「薬を盛られた時点で、私の中ではなかったことになりました」

「……それは、本当に悪いことをしたと思っているけれど。スズが怪我するところだったでしょう」

「…………。

 でも!私がいなかったら、弾が当たっていたかもしれません!」

 陛下は盛大に溜息を吐くと、困った顔をする。


「レオン、どう思う?」

突然振られたレオン様はギョッとして、戸惑い目を泳がせる。

「……いや、私は、」

歯切れの悪いレオン様を、陛下は目だけで咎めた。

レオン様はひとつ溜息を吐くと、口を開く。


「……私は、おふたりとも動くべきではないかと。大人しく守られていてもらいたいです。

 薬を盛るのは、私もどうかと思いますが……。

 スズ様もいくら姿が見えないからといっても、無鉄砲だったのは事実です。助かったのも事実ですが、あのままでしたらスズ様が刺されていました。

 と、まあ。要するに、おふたりとも悪いです。

 私を痴話喧嘩に巻き込まないでください」


 言うだけ言うと、私達に背を向ける。

もう巻き込むなという意思表示だろうか。

しかし第三者としてのレオン様の言葉で、少し頭が冷えた気がする。

 痴話喧嘩は、酷いと思うが。


「……陛下。約束破って、ごめんなさい。

 怪我をさせて、ごめんなさい」

 泣くのは卑怯だと思うのに、勝手に出てきてしまう。

「私こそ、ごめん。

 この怪我は名誉の負傷だから、スズが謝る必要はないよ。それより、身体は大丈夫?

 薬で気分が悪くなったりしなかった?」

 自分の怪我は気にせず、私の心配をする。

陛下の心配に精一杯首を横に振ったあと、俯く。


「…………陛下が好きです。

 側にいられる権利を、くれませんか」

唐突すぎる言葉に、ふたりが驚いたのが伝わる。

襲撃されたあとで、レオン様もいて、部屋もボロボロで。ムードもなにもないと、わかっている。

今はそれどころではない、とも。


 それでも、自然に口から出ていた。

私の考えなしの行動で、嫌いとまではいかなくても、相応しくないと、あの言葉をなかったことにするつもりだったら……。

 そう思うと不安で陛下の顔は見られない。


「……レオン」

「承知しております」

 名前を呼んだだけで、なにか通じたようだ。


「スズ、本当に?

 今の言葉、後悔しない?」

「しません!

 ……陛下も、後悔していませんか?」

「する訳ないでしょう。

 私がどれだけスズの事好きか、分かってないね」

それを聞いて安堵の息を吐くと同時に、恥ずかしくて顔が赤くなる。


「ねぇ、スズ。

 あの時の約束は有効でしょう?」

 この流れで思い当たるのは、あれしかない。

「……今、ではない、……ですよね?」

それににっこり微笑むと、私の手を取る。

なんだか嫌な予感がして思わず後ずさるが、すぐに壁にぶつかってしまった。


「あの……、ここはその、部屋も荒れていますし、状況が、」

「そうだねぇ、これで見えないでしょう?」

 陛下は私を壁に押しつけて、顔の横に腕を置く。

腕の傷が心配になるが、陛下の綺麗な顔が近すぎて、言葉が出ない。

こんな距離で微笑まれては直視できないし、心臓がどうにかなりそうだ。

慌てて目を逸らすと、頬に手が触れた。


「スズ、今度は忘れないでね」

 そう言うと同時に柔らかい唇が触れて、優しく奪われた。

前も横も陛下しか見えず、なにもかも全てが陛下でいっぱいで、心拍数は上がる一方だ。


 食べられる、その表現がぴったりなくらいに深く

唇を重ねられると、もうよく分からなくて。

ただ頭がふわふわして立っていられず、無意識に縋るよう陛下の服を掴んだ。

 

「……ごめんね。嬉しくて、つい」

力の抜けた私の身体を抱きとめると、頬を緩める。

なんだか陛下の新たな一面を知った気分だった。

 

 最後にもう一度優しく唇を重ねて、名残惜しそうに抱きしめられた。私は恥ずかしくて、真っ赤な顔も見られたくなくて、そのまま顔を隠すように埋める。


「可愛い、……妬けるね」

陛下の呟きの意味がわからず、思わず顔をあげると目が合った。


 ぶわっと更に火照った顔を見て、陛下は嬉しそうに顔を綻ばせた。

抱きつくようにして顔を隠すと、小さく呟く。

「……陛下、お仕事が、」

「そうだね、レオンが待ってる」


 ……レオン、様?

慌てて顔を上げて陛下の後ろのほうを見ると、少し離れた場所に立っている。


 声にならない悲鳴をあげる私を、陛下は微笑んで見ている。

 私は恥ずかしいやら申し訳ないやらで、レオン様に顔向けが出来ない。

陛下と一緒にいると、周りを忘れてしまう。

気をつけなければ、と自分で自分に言い聞かせた。




 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ