白いクマ
翌朝目をあけると、部屋が明るく飛び起きる。
外を見てみると太陽が上のほうにある。
完全に寝坊だった。やってしまった……。
疲れていたとは言え、大人失格である。
「おはようございます。スズ様、入ってもよろしいでしょうか」
フェリスの声だ。
物音がしただろうか。
「どうぞ、起きるのが遅くてすみません」
「お疲れだったのでしょう。無理なさらないでください。体調は悪くありませんか?」
「大丈夫です」
フェリスが用意してくれたお湯で、顔を拭きながら答える。
「それなら安心しました。
起きてすぐに申し訳ございませんが、お昼のお食事を陛下がご一緒にとお誘いがあり……。急いで着替え準備しなくてはなりません」
「え!?どうしましょう?」
「スズ様はドレスを持ってらっしゃらないので、こちらにあるものを調節して着ます」
フェリスの言う通りに、服を脱いでつけていた下着の上に、さらにロング丈のシュミーズを着る。
その上に用意された薄ピンクのドレスを着て、フェリスにセットしてもらう。
仕上げは胸の下についている紐を引き締めて、背中でリボン結びをしている。
ドレスは少し前上がりになっており、透けるくらい薄いシュミーズの繊細な刺繍が見えて可愛い。
なによりコルセットもパニエもつけてないから楽だ。
「ありがとうございます」
フェリスさんに化粧をしてもらい、髪を整えてヒールをはく。前髪を横に流されてセットされてしまったので、落ち着かない。右目を出しているのはいつぶりだろうか。
「変ではないでしょうか?」
不安で何度も確認してしまう。
「とてもお似合いですよ。
そろそろ食堂へ行きましょうか」
食堂へ着くと皇帝陛下は席についていた。
相変わらず、とても美しい。
隣には30代くらいの男性が控えていた。
昨日は見なかった顔だ。
先程フェリスに教えてもらった通りに、ドレスの裾をつまんで、カーテシーで挨拶をする。
「ご招待いただき、光栄でございます」
「急で悪かったね、座っていいよ。
堅苦しいのはここまでにしよう」
「レオン、料理は並べて人払いをして」
隣の男性が陛下の指示を侍従に伝えてているのが見える。
しばらくするとワゴンに料理がのせられ、テーブルの上に並べられる。
パンとスープ、お肉だ。フルーツもついていた。
お腹がすいているので、早く食べたい。
「この男は、レオン・マグレイズ。この国の宰相だよ。なにか困ったことがあれば、レオンへ」
「はい。ご配慮感謝いたします」
陛下はカトラリーを手に取り、食べ始めたので私もパンを口に運ぶ。
肉は塩漬けのようでパンによく合う。
朝食も食べずに寝ていたため、食がすすむ。
「この城は退屈ではない?」
「とても快適に過ごしております」
食べながら陛下が会話を振ってくれる。
「食事のあと、庭園を見るのはどう?
ちょうど息抜きをしようかと思っていたんだ」
陛下は皇帝らしくない話し方だ。
「今は薔薇が見頃らしいよ、花弁でポプリでも作ると気持ちも紛れるでしょう?」
……不安な気持ちに気づかれているのだろうか。
ポプリと聞いて庭園に気持ちが傾く。
「お邪魔でなければ、ご一緒させてください」
「そうと決まれば、早く行こう」
陛下が立ち上がるので、食事を終わる。フルーツが食べられなかったのが悔やまれるが、仕方ない。
陛下はレオンを残して、私と護衛をふたり連れて歩く。
外からお城を見るのは、初めてでまじまじと見てしまった。想像より無骨な外観で要塞のようだ。
しかし、庭園には綺麗な薔薇が、植えられているのがちぐはぐなようでおもしろい。
薔薇は様々な色が植えてあり、薔薇のアーチまである。
「ガーデンテーブルでお茶をしようか」
よく来るのだろうか?
白いテーブルセットが置いてあった。
そこに座るといつの間に頼んだのか、侍女がハーブティーを持ってきた。
お菓子はクッキーだ。薔薇が練り込まれているのか、香りがする。
薔薇を見ながら、薔薇のお菓子を食べる。贅沢だ。
護衛ふたりは離れた場所で、周りを警戒している。
陛下がそう指示したのだろうか。
薔薇を楽しみながらお茶を楽しんでいると。
「ねぇ、君はもうひとつの世界から来たの?」
突然そんなことを聞かれ、心臓が跳ね上がる。
「えっと……なんのことでしょうか?」
「昔ある人が言っていたんだよ。この世界の他にもうひとつの世界がある、と」
「……」
「教えてくれない?その世界への行き方」
「私はなにもしりません……」
そう……。というと陛下は俯き、徐に私の手を取りじっとなにかを見つめている。
手がとても熱い。
そういえば、顔も先日よりほんのり赤い気がする。
「陛下、体調が悪いのでは?
少し休まれてはいかがでしょうか」
目を見開き、驚いているようだ。
「人々の期待を裏切ることはできない。
才色兼備だと持て囃されて、ここまできてしまったけれど、私は少し顔がいいだけで凡庸なんだよ」
すこし……?この顔では謙遜が嫌味になりそうだ。
凡庸だと思うからこそ、人は努力をするのではと私は思う。慢心されるよりよっぽどいい。
だから、人々に信頼されるのだろう。
疲れが溜まると、マイナス思考になっていく。
この方こそ、一度クマになって自由に周りを見てみると変わりそうだ。
――そんなことを考えていたときだった。
触れていた手がバチンッと弾かれたと思うと。
――銀色に輝くシロクマが現れた……。
私はなにもしてない。確かに考えはしたが!
どうしよう!?
ここ庭園、騎士いる、陛下いなくなる。
……捕まる要素しかない。
不敬罪?処刑されたり……しないよね。
シロクマさん、ちゃんと話せるよね?
「あの、もしかして……」
「なにこれ?」
陛下は自分の手をまじまじと見ながらいう。
「……シロクマでしょうか?」一応答える。
「なぜ?」
デジャブ。クマがシロになっただけだ。
「とりあえずまだ庭園にいるので、どうにかお城に帰らなければ。正直にいって信用してもらえるか……」
「レオンを呼んでもらおう。
護衛には知られないようにしたい」
「では、私が伝えてきます!
見えないようにしていてください」
陛下にそう言うと、椅子から立ち上がり護衛のほうに向かった。
――しばらく待っていると、レオン様が見えた。
護衛と入れ替わり、こちらに歩いてくる。
「陛下!大きな袋に本を数冊欲しいとはどういうことです!?……ってあれ、陛下はどちらに?」
周りを見渡したあと、私に聞いてくる。
「ここだよ」
そう言ってテーブルの下からシロクマは顔を出す。
「は?」
それが普通の反応だ。わかります、その気持ち!
陛下が一通り説明する。
持ってきてもらった袋に入り、城に帰るしかない。
レオン様はまだ納得できないようだが、シロクマが陛下だというのは分かるらしい。
しかし、綺麗な銀色の毛だ。
髪の色がそのまま毛の色になるのかもしれない。
ヴィルもクマみたいな髪の色をしている。
触りたいが、それは不敬だろう。
罰せられたくないのでやめておく。
「では、一旦陛下の執務室まで戻りましょう」
レオンの言葉に皆が頷いた。
これからは毎日更新しようと思います。
初投稿なので、上手く表現できているかわかりませんが、感想や評価などいただけると幸いです。




