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クマと赤クマの御守り



 廊下に出ると、カイルとフェリスが待っていた。

「部屋に戻ろう」というヴィルの言葉に、皆は静かに動き出す。

 ヴィルは私の隣を歩いてくれた。

ジャケットのおかげなのか、ヴィルのおかげなのか、行きよりも視線を感じなかった。

 ただひとり、嫌な視線を送る女性がいた。

ブロンドの髪に紫の瞳と目が合うと、カイルがスッと間に入った。

それにホッとして、気が楽になった。


 部屋に戻るとすぐにジャケットを脱いで、ヴィルに返した。

 ヴィルは苦笑いしていたが、私はようやく解放されて心に平穏が戻るとホッと息を吐いた。


 フェリスが昼食を用意してくれたので、それをヴィルと一緒に食べた。

その間もフェリスはこの後の用意があるのか、バタバタと忙しそうで、申し訳ない。

食事がおわり、ソファーで一息ついていると。

「そういえば、朝は何か用事があったの?」

あのまま陛下と消えてしまったし、私もバタバタしていてヴィルとは話さなかった。

「ただスズに会いたかっただけだ」

滅多に言われない言葉に恥ずかしくなると同時に、何か別の理由があるのではと疑ってしまった。

 

私の護衛のため、とも考えたが、ヴィルが来た時にはまだ陛下と話していなかった。

 そんなことを考えていたせいで、返事をしそびれた私をヴィルは不審な目で見ていた。

ヴィルの後ろに控えるカイルは、相変わらず平然としている。

「あ、そういえば!少し待ってて」

カイルを見て、しなくてはならないことを思い出し、ソファーから立ち上がると寝室へ向かった。

 

 ベッドに腰掛けると、ポーチからスマフォを取り出して、御守りをくださいとメールを打つ。


 すると手の中にコロンと現れたのは。

――緑色をしたブレスレットだった。


 もう一度メールを送ると。

――今度は赤いカフスのようななにか。


 ふたつを掌に乗せて眺めながら、考える。

同じ内容のメールを送っただけなのに、なぜか違う物が現れた。

 色からなんとなく誰に渡すものなのかが、わかってしまう。

確かに最初に願ったのはヴィルにあげる御守りだったが、メールには打っていない。

 しかも、なぜ物が違うのか。

なんとなく、なんとなくだが。嫌な予感がする。

「まさか……相手に対する気持ちの違いとか、言わないよね?」

 独り言のように呟きがこぼれた。

 優劣とまでは言わないが、明らかに指輪だけ特別で。

 人の気持ちに優劣をつけるなと、怒りたい。

とても失礼だと思う。

かと言ってふたりに指輪が渡せるかと言われれば、難しい気もするが。

 陛下には躊躇いはあったものの、渡した。

なんだか知らなかった自分の気持ちに、気付かされているようで少し不快だった。

 

 陛下になにを渡したか知られくても、今ふたりに渡せばお互いのものが見えてしまう。

それに常に一緒にいるふたりであれば、つけると一発でわかってしまうだろう。

 カイルの気持ちを知ってしまった今は、傷つけそうで怖かった。

「どうしよう……」

 はあ、と溜息を吐いて考える。

 ……いや、ブレスレットとカフスボタン(たぶん)

どちらが上かは個人差があるかもしれない!

それに物が違う意味に気づかれなければ、大丈夫。

そうであってほしい、と言い聞かせるように結論を出して、ひとつずつ握り締めると。

 そのままの勢いで扉を開けると、驚いたようにこちらを見るふたりと目があった。


 ズンズンとソファーに向かい腰を下ろすと、拳をふたつ差し出した。

突然の私の行動に、ふたりは何事かと目を瞬く。

「右手がヴィルで、左手がカイルね」

 ふたりは困惑の表情を浮かべている。

ヴィルの戸惑いながら差し出された手にコロンと落とした。

「カイルのもあるのですが」

 なかなか手を出してくれないカイルに、そう言うが「いえ、私は……」と固辞されてしまう。

「お願いです。御守りなんです」

 受け取ってくれないカイルに、必死に頼み込む。

「カイル」

ヴィルのその一言で、渋々ではあるが受け取ってくれた。

「ふたりとも、きちんと身につけてくださいね。

 御守りなんですから」

 そう伝えたところで、フェリスが呼びに来た。

「では、私たちはこれで」とふたりは部屋から出て行った。

 

「スズ様にはこちらで湯浴みとマッサージを受けていただきます」

 浴室に案内されて、突然そう言われ戸惑う。

確かに浴室の中には見慣れない台のようなものが置かれている。

 浴槽の中も寝湯のようになっている。

嫌だなと思いながらも、待ち構えているフェリスの圧に負けて服を脱ぎ始めた。


 フェリスはすぐさま、私の身体を磨くように洗い、流す。

「では、そちらの台にお座りください」

言われるがまま、タオルを巻いて腰を下ろす。

 フェリスはそばに用意してあった瓶を取る。

その瓶を傾けると、琥珀色のトロトロした液体がフェリスの手に乗る。


 それを私の足に塗り付けると、掌で広げるようにのばした。

まるでオイルマッサージのようで、気持ちがいい。

凝り固まった筋肉がほぐれるようだ。


 両足が終わると、腕、背中と続いた。

長いこと揉み込まれ、ほぐされ。

私の肌は自分のものではないくらいに、プルップルンになっていた。

 そのまま浴槽で横になるよう言われると、次は髪を念入り洗って何かを塗り付けている。

 他人に洗われるだけで気持ちいいのに、お湯に横になると気持ち良くて眠くなってしまう。

うとうとと眠気と闘っている私に「失礼いたします」と顔に温かいタオルが掛けられた。


「スズ様、スズ様」

 呼び掛ける声が聞こえて、ハッとした。

いつの間かタオルは取られて、顔にも何か塗られていた。

「……ごめんなさい」

眠気に負けて意識を失っていたようだった。

「とんでもございません。

 寛いでいただけて安心いたしました」

 実はあまり得意ではないので、と眉を下げて笑うフェリスは可愛い。

 美人で笑うと可愛いなんて、世の男性たちは放っておかないだろう。

「フェリスは婚約者がいるのですか?」

「残念ながら。

 今は仕事がとても楽しいので」

私の髪を拭きながら、そう答えるフェリスは本当に楽しそうだ。

「スズ様の侍女になれて、幸せです」

 こんな私のお世話をしてもらって申し訳ないくらいなのに、フェリスは優しい。

「これからもよろしくお願いします」

 フェリスは「身に余る光栄でございます」と微笑んでくれた。


 身体を拭いて寝衣を着て部屋に戻ると、窓から見える外は夕暮れ時だった。

長いこと浴室にいたらしい。

フェリスはすぐに食事を用意して、私を座らせる。

 今日の食事は野菜中心のメニューだ。

肌荒れしないようにだろうか。

 サラダを一口食べると、美味しくてどんどん口に運んでしまう。

物足りないかも、と思っていたのが嘘のようにお腹がいっぱいになってしまった。

 食べ終わると、私の前にカップが置かれた。

甘くて柔らかい香りは、覚えがある。

「昨日のあの紅茶ですか?」

「はい。陛下からでございます」

 昨日と同じ香りに、また陛下を思い出す。

そのうちこの香りを嗅ぐ度に、陛下をおもいだしそうだ、とクスリと笑った。

 フェリスはまた「愛ですねぇ……」と意味ありげに呟いた。

 私もまた恥ずかしくなり、寝室に逃げ込むと布団を被る。


 いつもより早い時間にも関わらず、すぐに夢の中へと落ちていった。




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