侍女フェリスは暗躍する
数日後、スズ様の姿が見えなくなり心配していると、夜分遅くにおふたりで部屋に戻ってきたーー。
え、なんでこんな急展開に!?
とパニックになりつつも。
夜に、ふたりで、部屋に?
しかもなんだかいい雰囲気である。
ふたりはあからさまにお互いを意識している!
そこから、ひとつの答えが導き出す。
「すぐに!準備いたしますので!
陛下はこちらでお待ち下さい」
そう言ってスズ様を浴室に押し込んだ。
なるべく早く!
かつ、完璧に!
スベスベもっちもちの肌に仕上げる!
そう意気込むと、マッサージしつつ香油を丹念に塗り込めた。
寝衣も一番可愛らしいものを選んだ!
あとはスズ様が着るだけだ。
部屋で待っている陛下の元へ行き。
「私は朝まで、いえ、呼ばれるまでは部屋にはいりませんので!ご安心ください!
陛下の想いが伝わって良かったです。
では、失礼いたします」
そう伝えると、返事も待たず邪魔者は退散した。
私は使用人の部屋のある区画に着くと、廊下でスキップしながら歩く。
夜も遅い、誰にも見られることはない。
それだけ、喜ばしいことなのだ。
今だけは許してもらおう。
幸せな気分で布団に入った。
次の日部屋に向かうと、部屋の前に護衛騎士が立っている。
不思議に思い挨拶をすると「陛下が中でお待ちですよ」と言われてしまった。
心ここにあらずな様子で座っている陛下。
なんだか声を掛けづらい。
ハッとしたように私に気がつくと。
「……ああ、昨日の誤解を解いておこうかと。
ふたりでお酒を飲んだだけで、思っているようなことはないよ。スズは二日酔いで辛いだろうから、今日の授業は中止だ。ゆっくり休ませてあげて」
「……承知いたしました」
……嘘でしょ!?お酒を飲んだだけ!?
私の頑張りは無駄に……。
酔った勢いで、とかなかったの!?
スズ様はあんなにも陛下を意識していたのに!
じゃあなんで、陛下はこんなにボーッと?
そんな私の心の声が漏れていたのか、陛下は苦笑いをしている。
……いけない、いけない。
私のお淑やかな侍女像が崩れてしまう。
そう思って、スンっと澄まし顔を作った。
陛下が退室したあと、ドレスの用意をして掃除や片付けをしてスズ様が起きるのを待つ。
11時になろうかという頃、スズ様が顔を出す。
謝るスズ様に「大丈夫ですよ。陛下からも頼まれていたので」と陛下を強調して言ってみたが、特に反応はない。
本当になにも……と肩を落とした。
けど、その後の言葉に私は走る様に部屋を出た。
スズ様が、陛下に会いたいと!!
これは、なんとしても叶えなければ!
その一心で執務室を目指し、その旨を伝えると。
陛下は口元を緩め、結ってある髪を解いた。
「いつでも歓迎すると伝えて。
もし、スズから返事がなければ、これは必要なものだから返しに来て、と言って」
それを布を広げて受け取ると、急いで部屋に戻った。
陛下の想像通りの反応に笑ってしまう。
髪留めを見たスズ様も、嬉しそうに笑っていた。
本当にお似合いのふたりだけにもどかしい。
身支度を整えて、仕上げに髪飾りを広げる。
スズ様は迷っているようだったので、すかさず銀細工の髪飾りを推した。
髪飾りが見えるよう留め、完璧な仕上がりだ。
でも、執務室から出てきたスズ様は、とても声をかけられる様子ではなかった。
自分の中で整理がついていないのはわかる。
けど、寂しいし、心配で仕方がない。
レオン様と話しているスズ様は辛そうで、耐えられず泣いている姿に私まで苦しくなった。
……陛下がスズ様を忘れた。
先程あんな顔で笑っていた陛下が。
スズ様はなにか決意したように、レオン様を質問責めにすると、部屋から出て行ってしまった。
レオン様は申し訳なさそうな顔で私に告げる。
「すみません。しばらくスズ様は不在になると思います。戻られたら、またお呼びしますので」
しばらくは来なくていい、他へ行け、そういう事だろう。
私は唇を噛み締めると「承知いたしました」と部屋を出た。
城内は『救国の乙女』の話題で持ちきりだ。
スズ様は他国からの特使だと聞いているが、きっとスズ様が『救国の乙女』だ。
だから、また呼ばれる――、そう信じて他の部屋の掃除に取り掛かった。
お披露目式が一週間後に迫った頃。
再びスズ様の侍女に、とお声が掛かった。
私がスズ様の部屋に行くと、スズ様はとても嬉しそうに出迎えてくれた。
それが嬉しくて、一瞬仕事を忘れてしまった。
慌ててドレスの用意をして、化粧を施す。
本日のメインである、銀細工の髪飾りを台の上に置いて――。
それを見つめるスズ様は、恋する乙女だ。
真っ赤になる姿は可愛らしくて、早く幸せになってほしいと思う。
「この髪飾りを見せつけて、城内を歩けば……!」
思わず心の声が漏れた。
不思議そうな顔をするスズ様に慌てて誤魔化した。
この花の髪飾りは、スズ様が泣いたあの日につけていたものだ。
陛下が回収して、急ぎ作り替えて貰ったらしい。
嫌な思い出を残したくない――と。
以前は花ではなく、蝶のようなデザインだった。
スズ様は気付いた様子はないけど。
陛下が直接作り替えを依頼した結果、要らぬ憶測を呼んでいた。
ついに婚姻するつもりなのでは、と。
貴族のご令嬢達は、私こそと付き纏うようにアピールし、それに辟易しているようだった。
ここに来る前、執務室に呼ばれて髪飾りを渡された時にそう聞いた。
「つければ、スズに害なす者も出るかもしれない。しかし、スズが拒否しなければ、つけてほしい」
……私の唯一だと、言わなくても伝わるだろう。
そう呟いた。
だから私は、スズ様につけて城内を歩いた。
銀のものを身につける意味を、スズ様が知っているかは疑問なところだけど。
おふたりの邪魔をする者は、許さない。
不躾な視線を送る者達を、鋭い目で睨みつけた。
まだまだ私の役目は終わらない――。




