表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/137

侍女フェリスは暗躍したい



 私の名前はフェリス・ネイビスター。


ネイビスター伯爵家の三女、末っ子として生を受け、甘やかされて育った私は、十六歳の時に行儀見習いとして、皇城で働き始めた。

一番上の兄は現在二十九歳。

城内で働きながら、次期伯爵家当主になるべく、当主の仕事も学んでいる。

同じ伯爵家のご令嬢と婚姻して、二人の男児に恵まれた。


二人の姉は二十七歳と二十四歳で、それぞれ家庭を持ち、既に家を出ている。

そのためネイビスター伯爵家は、安泰だった。


 それが原因か否か、現在二十三歳の私はまだ未婚。

立派な行き遅れとなった。

行儀見習いで侍女として働くのが、楽しかったのもあると思う。

お父様からはせっつかれ、お母様からはお願いだから、と泣きつかれる毎日にうんざりしていた。

私は働きたい!そう言いたかった。



 そんなある日、侍女頭からとあるお方の侍女をしてほしいと内密に頼まれた。

公には出来ない方だと聞いて、気難しい方を想像し憂鬱になったが、それは杞憂に終わった。

 幼く見える顔立ちと、クルクルした瞳、この国では見ない黒髪黒目は神秘的だ。

片目を髪で隠しているのが、もったいないくらい。


 お世話をしようとしても、スズ様は慎ましい性格なのか、あまりさせてくれない。

一方で行動的な一面もあり、厨房にお酒を作りに行ったのは驚いた。



 でも、スズ様はすぐに居なくなってしまった。

部屋に来た陛下と他国の王子様の、お姿は見ていられない程だった。

 陛下は、あの容姿と柔らかな物腰に貴族令嬢からの人気は高く、皆陰で牽制し合っていた。

もちろん私は異性としての興味はないけど。

ただ、主君として尊敬していた。

人を魅了するあの微笑みの威力は凄まじく、笑顔で毒を吐く姿は圧巻だ。

そんな陛下の泣き笑いのような顔は痛々しい。

思わず隠れてしまう程に。

 陛下の秘めた想いが、見えたような、そんな気がした。


 ひと月半後にスズ様が戻って来ると、すぐにあの王子と旅に出られてしまった。


 出立された後、私は執務室に呼び出された。

そんなことは初めてで、なにか失敗した?クビ?と不安に駆られる。

部屋に入ると、出迎えた陛下が私の手を取り、顔がくっつきそうなくらいの至近距離で見つめる。

何事!?と内心焦る。

「……うん、合格。

 さすがあの侍女頭が選んだ侍女だ」

そう言うと、早速用件にはいる。

「君には、スズに贈るドレス、装飾品を購入してほしい。私がここに商人を呼んで購入すれば、要らぬ憶測を呼ぶ。だから私が関与しているとは知られたくない。できる?」

 陛下のその言葉に目を見開きそうになるも、平静を装う。先程の行動は、陛下を意識しているかの確認だったようだ。

スズ様を害す存在にならないか。

絶対にあり得ないことだった。

承諾した私は、すぐに街におりて高級店を巡る。

見せて貰ったドレスや装飾品を「相談して決めたいから」と紙に起こす作業を繰り返す。

中には冊子を貸してくれるお店もあった。


 それを集めた私が、翌日陛下の執務室を訪ねると、驚いた顔をされた。

「てっきり選んだものを持ってくるのかと……」

 そんなことは絶対しない。

陛下がスズ様に贈るのに、私が選んでは台無しである。陛下が選ぶことに意味があるのだから!

「ありがとう。

 今日中に目を通して選んでおくから、明日また来てもらえる?」

 選べることが嬉しいようで、微笑ましいと思う。

不敬だ、と必死に表情を隠してはいるけど。

お辞儀をして退室すると、私の対応が間違っていなかったことにホッと息を吐いた。


 翌日陛下が選んだ紙を持って、再びお店に入る。

既製品のドレスのリボンや、少しアレンジを加えてもらう旨を伝えると、高級店だけありどの店も快く了承してくれた。

「病気の妹のドレスだから」と言って、スズ様のサイズで仕上げてもらう。

一点だけオーダーメイドのドレスを依頼してほしいと頼まれていたので、希望を伝えながらドレスのデザインを書いてもらい、持ち帰った。


 そのデザインを陛下に見せると、スズ様が身につけた姿を想像したのか、少し顔を綻ばせていた。

なので、そのまま依頼しておいた。


 ……いつか、使われる日がくるといいな。

と思ったところで、ん?と思う。

 私はスズ様の侍女なのだ。

陛下の気持ちを知るのも、私だけかもしれない。

私がその未来に繋げるべきだろう!!

陛下に想いを諦めさせたりしない!!

私が恋のキューピットになろう!!


勝手に決意を固めた私は。

 

「ーーー絶対におふたりを幸せに!!」

そう誰もいない部屋で、宣言した。




 急遽スズ様が戻られると聞いた私は、内密に用意された馬車に乗り、お店を駆け回った。

 今用意できているドレス、装飾品を購入するためだ。お金は預かっている。

支払いを済ませると、再び馬車で城に帰り、スズの部屋に運び入れてもらった。

 

 これで、準備は完璧だ!!

部屋でお帰りを待つはずが、呼び出しをくらって遅くなってしまった。

数日ぶりのスズ様は、更に可愛らしくなっていて。

その原因があの王子だと思うと、メラメラと闘志が燃えあがる。

 

ドレスを身につけたスズ様は、花を身に纏っているかのように華やかで、目を惹く可愛らしさだった。

幼顔なので、少し背伸びをしたようなその姿は新鮮に映るはず。

こんな姿を見れば、陛下も諦められないのでは!?

とわくわくしてしまう。


 スズ様もこのドレスが気に入ったようだ。

さりげなく、陛下からだとアピールしておいた。

……本当は声を大にして言いたいけど。


 銀のネックレスが見えるように、髪を耳にかけて髪飾りをつけた。

緑のリボンはドレスに合わないので、すぐに箱に片付けて食堂へ向かった。

 

 食事を終えて戻ったスズ様は、どこかぼんやりとしていて、落ち込んでいるような様子だった。

 まだスズ様は私には気軽に話してくれない。

なにかあったのか、尋ねるのは憚れた。

私は侍女だ、無礼になってはいけないのだ。

 そう思い、とりあえずお風呂でゆっくりしてもらうことにした。


 お風呂から出てきたスズ様は「あの。……夜に陛下の元を訪れるのは、はしたないでしょうか?」と小さな声で聞く。


 ピンっときた私は「大丈夫です、私にお任せを!」と言うと、湿っていた髪をタオルで拭き整える。

 寝衣で出歩くのは褒められたことではないけど、普段見ない姿を見て、ドキドキさせるのもアリだ!

そう思い、気持ちばかりの羽織りを掛けた。



 執務室に入っていったスズ様を、ソワソワしながら廊下で待つ。


 寝衣に効果はあったかな。ああ、でも陛下は隠すのが上手いからな〜。

 そんなことを考えて待っていると。

スズ様が焦ったように出てきて、深呼吸をする。

その頬はほんのりと赤くなっていて、思わずにんまりと口角が上がってしまい、慌てて表情を消す。


 心の中で、作戦は上々だ!手応えアリ!と飛び上がったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ