侍女フェリスは暗躍したい
私の名前はフェリス・ネイビスター。
ネイビスター伯爵家の三女、末っ子として生を受け、甘やかされて育った私は、十六歳の時に行儀見習いとして、皇城で働き始めた。
一番上の兄は現在二十九歳。
城内で働きながら、次期伯爵家当主になるべく、当主の仕事も学んでいる。
同じ伯爵家のご令嬢と婚姻して、二人の男児に恵まれた。
二人の姉は二十七歳と二十四歳で、それぞれ家庭を持ち、既に家を出ている。
そのためネイビスター伯爵家は、安泰だった。
それが原因か否か、現在二十三歳の私はまだ未婚。
立派な行き遅れとなった。
行儀見習いで侍女として働くのが、楽しかったのもあると思う。
お父様からはせっつかれ、お母様からはお願いだから、と泣きつかれる毎日にうんざりしていた。
私は働きたい!そう言いたかった。
そんなある日、侍女頭からとあるお方の侍女をしてほしいと内密に頼まれた。
公には出来ない方だと聞いて、気難しい方を想像し憂鬱になったが、それは杞憂に終わった。
幼く見える顔立ちと、クルクルした瞳、この国では見ない黒髪黒目は神秘的だ。
片目を髪で隠しているのが、もったいないくらい。
お世話をしようとしても、スズ様は慎ましい性格なのか、あまりさせてくれない。
一方で行動的な一面もあり、厨房にお酒を作りに行ったのは驚いた。
でも、スズ様はすぐに居なくなってしまった。
部屋に来た陛下と他国の王子様の、お姿は見ていられない程だった。
陛下は、あの容姿と柔らかな物腰に貴族令嬢からの人気は高く、皆陰で牽制し合っていた。
もちろん私は異性としての興味はないけど。
ただ、主君として尊敬していた。
人を魅了するあの微笑みの威力は凄まじく、笑顔で毒を吐く姿は圧巻だ。
そんな陛下の泣き笑いのような顔は痛々しい。
思わず隠れてしまう程に。
陛下の秘めた想いが、見えたような、そんな気がした。
ひと月半後にスズ様が戻って来ると、すぐにあの王子と旅に出られてしまった。
出立された後、私は執務室に呼び出された。
そんなことは初めてで、なにか失敗した?クビ?と不安に駆られる。
部屋に入ると、出迎えた陛下が私の手を取り、顔がくっつきそうなくらいの至近距離で見つめる。
何事!?と内心焦る。
「……うん、合格。
さすがあの侍女頭が選んだ侍女だ」
そう言うと、早速用件にはいる。
「君には、スズに贈るドレス、装飾品を購入してほしい。私がここに商人を呼んで購入すれば、要らぬ憶測を呼ぶ。だから私が関与しているとは知られたくない。できる?」
陛下のその言葉に目を見開きそうになるも、平静を装う。先程の行動は、陛下を意識しているかの確認だったようだ。
スズ様を害す存在にならないか。
絶対にあり得ないことだった。
承諾した私は、すぐに街におりて高級店を巡る。
見せて貰ったドレスや装飾品を「相談して決めたいから」と紙に起こす作業を繰り返す。
中には冊子を貸してくれるお店もあった。
それを集めた私が、翌日陛下の執務室を訪ねると、驚いた顔をされた。
「てっきり選んだものを持ってくるのかと……」
そんなことは絶対しない。
陛下がスズ様に贈るのに、私が選んでは台無しである。陛下が選ぶことに意味があるのだから!
「ありがとう。
今日中に目を通して選んでおくから、明日また来てもらえる?」
選べることが嬉しいようで、微笑ましいと思う。
不敬だ、と必死に表情を隠してはいるけど。
お辞儀をして退室すると、私の対応が間違っていなかったことにホッと息を吐いた。
翌日陛下が選んだ紙を持って、再びお店に入る。
既製品のドレスのリボンや、少しアレンジを加えてもらう旨を伝えると、高級店だけありどの店も快く了承してくれた。
「病気の妹のドレスだから」と言って、スズ様のサイズで仕上げてもらう。
一点だけオーダーメイドのドレスを依頼してほしいと頼まれていたので、希望を伝えながらドレスのデザインを書いてもらい、持ち帰った。
そのデザインを陛下に見せると、スズ様が身につけた姿を想像したのか、少し顔を綻ばせていた。
なので、そのまま依頼しておいた。
……いつか、使われる日がくるといいな。
と思ったところで、ん?と思う。
私はスズ様の侍女なのだ。
陛下の気持ちを知るのも、私だけかもしれない。
私がその未来に繋げるべきだろう!!
陛下に想いを諦めさせたりしない!!
私が恋のキューピットになろう!!
勝手に決意を固めた私は。
「ーーー絶対におふたりを幸せに!!」
そう誰もいない部屋で、宣言した。
急遽スズ様が戻られると聞いた私は、内密に用意された馬車に乗り、お店を駆け回った。
今用意できているドレス、装飾品を購入するためだ。お金は預かっている。
支払いを済ませると、再び馬車で城に帰り、スズの部屋に運び入れてもらった。
これで、準備は完璧だ!!
部屋でお帰りを待つはずが、呼び出しをくらって遅くなってしまった。
数日ぶりのスズ様は、更に可愛らしくなっていて。
その原因があの王子だと思うと、メラメラと闘志が燃えあがる。
ドレスを身につけたスズ様は、花を身に纏っているかのように華やかで、目を惹く可愛らしさだった。
幼顔なので、少し背伸びをしたようなその姿は新鮮に映るはず。
こんな姿を見れば、陛下も諦められないのでは!?
とわくわくしてしまう。
スズ様もこのドレスが気に入ったようだ。
さりげなく、陛下からだとアピールしておいた。
……本当は声を大にして言いたいけど。
銀のネックレスが見えるように、髪を耳にかけて髪飾りをつけた。
緑のリボンはドレスに合わないので、すぐに箱に片付けて食堂へ向かった。
食事を終えて戻ったスズ様は、どこかぼんやりとしていて、落ち込んでいるような様子だった。
まだスズ様は私には気軽に話してくれない。
なにかあったのか、尋ねるのは憚れた。
私は侍女だ、無礼になってはいけないのだ。
そう思い、とりあえずお風呂でゆっくりしてもらうことにした。
お風呂から出てきたスズ様は「あの。……夜に陛下の元を訪れるのは、はしたないでしょうか?」と小さな声で聞く。
ピンっときた私は「大丈夫です、私にお任せを!」と言うと、湿っていた髪をタオルで拭き整える。
寝衣で出歩くのは褒められたことではないけど、普段見ない姿を見て、ドキドキさせるのもアリだ!
そう思い、気持ちばかりの羽織りを掛けた。
執務室に入っていったスズ様を、ソワソワしながら廊下で待つ。
寝衣に効果はあったかな。ああ、でも陛下は隠すのが上手いからな〜。
そんなことを考えて待っていると。
スズ様が焦ったように出てきて、深呼吸をする。
その頬はほんのりと赤くなっていて、思わずにんまりと口角が上がってしまい、慌てて表情を消す。
心の中で、作戦は上々だ!手応えアリ!と飛び上がったのだった。




