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正反対なふたり



 寝室から出て、部屋のソファーに腰掛ける。

勝手に部屋にいるのは気が引けるが、侍女も不在で心配だ。

外はカイルがいるだろうから、いいだろう。



 二時間くらい経った頃、扉からカイルの声が聞こえた。

「陛下がいらっしゃいました」

いつか来るような気はしていた。

仕方なく扉を開けて、廊下に出る。

「スズは寝ていますが」

「そう。で?君はなぜここに?」

陛下は訝し気な視線を向ける。

「……護衛を。騎士も侍女もいないようなので」

「それは申し訳なかったね。

 今すぐに手配するので安心して」

 陛下は微笑み、そう言う。

「……いや、それは」

「まさか、またスズになにかしたの?」

疑いの眼差しで私を見られ、たじろぐ。

それを見るなり、盛大なため息を吐かれた。


「ここにいては、スズが気になるでしょう。

 私の護衛と君の護衛に任せて、隣の部屋で話をしよう」

 スズが目覚めたら教えて、と護衛に指示を出すと、隣の部屋に案内された。


「で、君はどうしたいの?」

どうしたい、か。

「私は、スズしか考えられません」

その先が聞きたいのだろうと分かっているが、答えられない。

「そう。私はスズを待つと決めている。

 幸いなことに、スズは『救国の乙女』になると言ってくれているのだから」

『救国の乙女』は複数婚できる。

たとえ誰かと結ばれても、まだ可能性は残る。

それは、勝者の余裕だろうと苛立つ気持ちと、それでもいいと思える器の大きさに嫉妬する気持ちが、混ざった。

「スズと婚姻の約束ができた貴方はそう言えるだろう」

嫌味のこもった言葉と言葉遣いに、驚いた様子で目を瞬く。

「……誤解しているようだけれど、約束などしていないよ。まだスズには、その気はない」

今度はこちらが驚き、目を瞬く。

「もし君が先にスズと婚約しても、私はスズのために祝福するよ。

 私が悲しい顔をすれば、スズは決意を鈍らせる。……それが私でなく、君でも同じだと思う」


 その推察に、悔しいが強く共感してしまう。

スズは優しさ故に、ひとりが悲しむ姿を見れば、想いをひた隠して逃げそうだ。

そうなれば、誰も望まない結果になる。

それに一歩近づいているのが、今の状況だろう。

「私もその覚悟を持って、行動します」

「その言葉を違えないでね。

 では、私は執務に戻るよ。

 この部屋は好きに使って」

頷く私に安心したのか、そう言うと部屋を出ていった。



 先程までのモヤモヤとした気持ちは、綺麗さっぱり無くなっていた。

悔しくて仕方ないが、さすがだと感心した。

私ではたどり着かない答えを持っている。

正反対の性格だからだろうか。

だからこそ、陛下のような人間を目指すのではなく、自分らしくいたいと思った。


 ぼんやりと宙を眺めながら、スズはどうしているだろうかと考える。

早くスズに謝りたいと思うが、ゆっくり寝てほしいとも思う。

そんな矛盾した思いを抱えつつ、ソファーに腰掛けていると夜は更けていった。



 次に意識を取り戻した時には、窓から柔らかい光が差し込んでいた。

そのままソファーでうたた寝をしてしまったようだ。

慌てて立ち上がり、部屋の外に出る。

スズの部屋の前には、護衛とカイルが立っていた。

私の姿を見ると、カイルが扉の前で声をかけた。

「来客がございますが、よろしいですか?」

返事とともに扉が開いた。

「……あ」

スズはそう声を漏らすと、気まずそうに視線を彷徨わせる。

「おはよう、スズ。

 少し話をさせてほしい、いいか?」

頷くような素振りを見せると、少し体をずらした。

そこから、部屋に入るとスズの言う通りソファーに腰掛けた。

それを見てから、スズは向かいに腰掛ける。

この距離が心の距離のようで切ない。

そんな思いを片隅に追いやると、切り出した。


「スズ、昨日はすまなかった。

 突然のことに、冷静でいられなかった」

そう言って頭を下げて謝る私に、スズは慌てたように違うよ、と訴える。

「ヴィルはなにも悪いことはしていないよ!

 私の不用意な発言で傷つけてごめんなさい」

先程は気づかなかったが、スズの目は充血している。

赤みが痛々しくて、聖石に冷やすものを出すように祈った。

手のひらに現れた四角のものを布で包むと、手を伸ばしてスズの目にあてた。

スズは不思議そうな顔をしながらも、おずおずと目の上の布に手をおく。


「冷たい。これ……前にも見たような」

呟いてそれを目から外してじっと見つめる。

「いいから、目を冷やせ」

私がそう言うと、慌てて目にあて、スズは口を開いた。

「……前にもくれた?」

スズのその言葉に無言を貫く。

あまり思い出して欲しくない。

「陛下と街に出かけて、ヴィルの機嫌が悪かった、その次の日の朝、同じものをフェリスがくれた。

 あれはヴィルからだったの?」

完全に気づいているようだ。

「……ああ、あの時も泣かせてしまった。

 そんなスズに出来ることはこれしかなくてな」

私がいい淀んでいることに気がついたのか、スズは布を外すと、こちらを見る。

「ヴィルは私のことを思って、くれたんでしょ?

 だから嬉しいよ。ありがとう」

そう言って笑うスズに、胸が苦しくなった。

そうしていると、すぐにスズは落ち込んだ顔をした。

「……先に陛下に返事をしてごめんなさい」

スズはそれを一番気にしていたのかもしれない。

だが、それは仕方ないことだ。


「気にするな。

 私はスズが好きだ。

 危なっかしいところもあるが、いつも誰かのためを思って行動する。

 誰にでも優しく、素直なところも。

 私はそんなスズと支え合える関係になりたい。

 ……スズの正直な気持ちを教えてくれ」

不安と緊張で心臓は嫌な音を立て、握った拳には力が入る。

スズは顔を赤くしたかと思うと、すぐに頭を振って真剣な目をする。

「……ごめんなさい。まだ、わからない。

 ちゃんと考える、考えるからあと一週間待ってもらえないかな?」

 スズは真っ直ぐに私を見る。

一週間後、予定通りであれば『救国の乙女』のお披露目式だったはずだ。

偶然だろうか。

すぐに断られないだけでも、救われる。

「……ありがとう。待っている」

自然と笑顔が溢れた私に、スズも遠慮がちに笑う。

笑ってはいけないと思っているのだろう。

気にしなくていい、は本心だ。

好き、という気持ちに気づいたのだから、いいことなのかもしれないと思えるようになった。


 はやる自分の気持ちを落ち着けるように、もう一度笑みを浮かべるとスズも笑ってくれた。




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