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気づいた気持ち



 しかし、まだその気持ちを伝える勇気はない。

気づいた気持ちに蓋をするように、無理矢理口角を引き上げて顔をあげる。

陛下は私の顔を見て、安堵の表情を浮かべた。


「彼を呼んで来るね」

と言うと、すぐに部屋から出て行く。

それがなんだか寂しくて、もう少し一緒に居たかった、と思ってしまう。

好きだと気づいただけで、こんなに気持ちが変わるのかと驚く。


 こんなことを考えている自分が恥ずかしくて、ひとりその場でぐるぐる回っていると。

いつの間にか扉の前に立っていた、ギルバート殿下が怪訝な顔でこちらを見る。

誤魔化すように咳払いすると、更に怪訝な顔で見てくる殿下に狼狽の色を隠せない。


 その後ろに遅れてやってきた陛下が見える。

姿を見ただけで顔に熱が集まるのを感じて、慌てて部屋に視線を移す。


 一部始終を見た殿下が笑ったのがわかった。

聡い殿下にはいつか気づかれるとは思っていたが、こんなに早くバレるのは予想外だ。


 居心地の悪さを感じつつ、殿下に勧められるまま、ソファーに腰を下ろす。

「陛下から話を伺いました。

 抗議を取り下げる、と。

 本当にそれでいいですか?」

陛下は予め話を通してくれていたようだ。

「はい」

短くそれだけ返す。

「承知いたしました。

 そのように対応します」

 殿下がそう返事をすると、隣に座っていた陛下は私にそろそろ失礼しようか、と言う。

すぐ横から聞こえる声に、少し動揺しながらスマフォを取り出す。


「……えっと、どこに戻りましょうか?」

 私の部屋から転移したが、陛下の執務室に戻るほうがいいだろうか。

ヴィル達はどこにいるのだろう。

「帰れば彼と話をするのでしょう?

 私は戻れば暫く時間が取れなくなると思う。

 だから、その前に私に時間をくれない?」

「……はい」

不審に思われないように視線を合わせると、いっぱいいっぱいで言葉が出てこない。

「ありがとう。

 では、庭園にお願いするよ。

 あとこの手紙を彼の元へ」

懐から四角に折り畳んだ紙を出し、私に差し出す。

軽く指先が触れ合うと、また顔に熱が集まった。

そんな私を見て陛下は微笑む。


 更に顔が熱くなり、慌ててスマフォに視線を落とすと、手紙をヴィルに届けるように願った。


 ――デイル帝国の皇城の庭園に移動したい――

 そのあと入力して顔をあげると。


 陛下と目が合う。

俯き加減に視線を逸らすと、殿下の姿が視界に入る。

またか、と言わんばかりの呆れた表情だ。

スイさんがいれば、また揶揄われていただろう。

気を取り直して殿下に挨拶をする。

「ギルバート殿下、この度はお世話になりました。お部屋にもお邪魔して、申し訳ございません。

ありがとうございました」

「私からも御礼をいうよ。

 ありがとう」

私に続けて陛下も御礼を言う。


「いえ、元は我が国の責です。

 ご迷惑をおかけしました」

 そう殿下が頭を下げると、陛下はもう済んだ事だ、と言い私の手を取ってスマフォを指差す。


繋がれた手に焦り、あわあわと送信ボタンを押すと、光に包まれる。

すると、陛下は背中に手を回して、私を腕に抱えるので更に慌てた。

そんな私達を、殿下は呆れたように苦笑しながら、見送っていた。



 陛下に抱えられたまま、庭園に優しく着地する。

昼を過ぎた時間だろうか、いい天気でちょうどいい気温だ。

「もう大丈夫です、降ろしてください」

そう訴える私をいなしながら、抱えて歩く。


 庭園の中でも一番華やかな、花の迷路のような道に入ると先へ進む。

普段より高い位置から見る花は、また違って綺麗だ。

いつも陛下が見ている景色はこの高さだろう。

同じものが見れていると思うと嬉しくなる。

同じ花を歩いて見たはずなのに、朝よりもずっと綺麗に見える。


 抱っこされているのが、恥ずかしいのに。

なのに、心の中は幸福感に満ちている。

「スズ?ごめん、そんなに嫌だった?

 今おろすから、許してほしい」

陛下は突然そんなことを言うと、私をおろす。

その顔は申し訳なさそうに私を見つめている。

「……泣かせてごめんね。

 スズの気持ち考えずに、無理矢理だったね」

泣かせて?

そう言われて自分の顔を触ると、指が濡れる。

それに驚いて両手で顔を触ると、やはり指が濡れた。

……私本当に泣いてる?

え、なんで?


「……もう戻ろうか」

陛下は眉を下げて、背を向け戻ろうとする。


 ハッとして、思わず陛下の服を掴んだ。

「あの、違うんです!

 嫌だったとか、そうではなくて……」

振り返りこちらを見る銀色の瞳は揺れている。


「スズ、無理しなくていいよ」

そう言って視線を合わせずに、前を向く。

いつもは目を合わせて微笑む陛下と、目が合わない。

それがもどかしくて、寂しくて、胸が締め付けられる。

「……違う、陛下が思っている理由じゃなくて、

 ……正反対なんです」

 羞恥や、不安、緊張、感情がないまぜになり、指先に力が入らず震える。

陛下は目を見開き、呆然として立っている。

鳥の鳴き声に我にかえったのか、視線を彷徨わせると、私と目を合わせる。

「……そんなことを言うと期待してしまうよ」

右手で口元を覆い、そう呟く。



 まだ伝えない、そう思っていた気持ちがぐらぐらと揺れて崩れかけていた。





いいね&ブックマーク登録ありがとうございます!

暫く忙しく更新が出来ない日があり申し訳ありません。

これからは毎日更新しますので、これからも読んでいただけると嬉しいです。

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