スイさんは暗躍する
「手に入れたんだろ?」
殿下は私に遠回しに聞いてくるが、スマフォの事だろう。そう思い、それに頷く。
「なら帰りはそれを使えよ」
そう言うと、シロクマに見えないように隠れて自分の携帯電話を取り出した。
「行きは場所がわからないだろ。
私が近くまで転移させる」
シロクマに見えないよう、ポチポチと入力しているようだ。
なにからなにまでお世話になりっぱなしだ。
今度なにかお礼をしようと心に誓う。
今は転移に備えなければとしゃがんでシロクマと目線を合わせると声をかける。
「陛下、私に抱っこさせてください!」
「え?それは……」
転移のためと安全とほんの少しの下心からの言葉だったが、なんだか嫌そうな様子に落ち込む。
「……スズ、違うよ。
私が抱っこできたら、と思っただけ。
戻ったら今度は私にも抱っこさせてくれる?」
上目遣いのようにこちらを見るシロクマにたじろぐ。
シロクマになっても威力があって困る。
陛下に抱っこされるのを想像すると、顔が勝手に熱くなる。
それを誤魔化すように顔の前でバツを作ると。
「私、重いので、それは駄目です」
なんとかそれでやり過ごそうと口に出たが、やはり陛下が上手だった。
「力には自信があるから心配しないで。
それなら、いいでしょう?」
そう返されると、何もいい答えが出てこない。
否定すると陛下まで否定しそうだ。
恥ずかしいからと言えば良かった、と思うがもう遅い。
どうしようと私は頭を抱えていると。
「……毎回毎回、なぜ私の前でイチャつくんだ」
イチャ!?イチャついていない!
相変わらず、王子とは思えない俗っぽい言い方だ。
私が否定しようと口をもごもごさせると、殿下は呆れが混じった顔で溜息を吐いている。
「またまたー、殿下もじっくりと見ていたじゃないっすかー!」
「見てねぇよ!」
またやっている。
仲がいいな、と微笑ましく眺めていると。
「あれでまだ恋人にはなれないんですから、なんの参考にもなりませんよー」
その言葉を言った瞬間、またシロクマがスイさんを蹴り上げた。
もう躊躇はいらない存在になったようだ。
明らかに喧嘩を売っているような発言だった。
スイさんも陛下相手によく言えると、感心してしまう。
「……早く行け!」
殿下にそう言われて、慌てて私はシロクマを抱えるとスイさんは私を掴もうとする。
が、それより先にシロクマに掴まれていた。
それにスイさんはニヤニヤしているが、見なかったことにする。
「では、気をつけろよ」
直後光に包まれた。
次に目を開けると、廊下だろうか、通路の陰に立っていた。
転ばないようにスイさんが身体を支えてくれたようだ。
「私が先に行くので、しばらくここでお待ちくださいー」
そう言ってスイさんは姿を消すと、奥の方で人が倒れる音がする。しかし、声は聞こえない。
なにをしているのか、知りたくない。
邪魔をしないようシロクマを腕に抱きながら、静かに待った。
五分程経ち、スイさんが戻ってきた。
「さあさあ、こちらですよー」
軽い調子で、先の部屋のほうを指しながら歩く。
その部屋の前にはぐったりとした騎士がふたり横たわっている。
寝ているのだろうか、意識はないようだ。
スイさんは早々と部屋の扉を開けて待っている。
何やら声がするので足早に部屋の中に入ると、扉を閉めてもらう。
聞こえてしまえば、
中では桜様が後ろ手に縛られて、口を塞がれていた。
口を塞がれているのが、怖い。
「いやぁ、暴れるし騒ぐしで大変でしたー」
とは、のちのスイさんの言葉である。
スイさんは私達が部屋に入った途端に姿を消してしまった。
とりあえず、桜様が口を塞いでいる布だけ取ると。
「あなただったのね!ふざけんじゃないわよ、こんな事して許されると思ってるの!?」
すごい剣幕で怒っている。
廊下にまで聞こえていないか、心配になるほどだ。
「えっと……」
口を挟む暇もなく、喋り続ける。
「さっさとあっちの世界に帰れば!
記憶がないならただの役立たず!
皆あんたの物ではないわ」
「……ふざけるな!
勝手に人の記憶変えて、どれだけ皆が悩んで傷ついたと思っているの!?その気持ちが理解できない貴女にはヴィルも陛下も渡さない」
「あなたの許可なんて必要ないわ!
だって私が主人公なんだもの」
そう言って桜様は余裕の笑みを浮かべた。
主人公、その言葉が心に重くのしかかる。
「先程から聞いていれば……。
私はスズに出会えて幸運だったよ。
何をしようが、私が他の女性を望むことは二度とない。もうスズを離さないと決めてるからね」
「それ、その声、その台詞は……!」
桜様は青ざめて唇を震わせていた。
シロクマが陛下だと、気づいただけではないようだ。
その台詞?
そう疑問に思っていると、ふとポーチが光っているのが見えた。
ポーチからスマフォを取り出して、画面を開くと。
桜様は更に顔を青ざめさせた。




