婚約者
陛下案内のもと部屋のお風呂に着くと、すぐに扉を閉めた。
寄りかかりながら溜息を吐くと、ドレスを脱ぐ。
皇帝陛下のお風呂なので、広いしやはり豪奢だ。
意匠を凝らした湯船や壁、見ただけで高価だとわかる代物だ。
ささっと身体を髪を洗うと綺麗に流して、少しだけ湯船につかると一息つく。
……先程の態度は変に思われてないだろうか。
それだけが気にかかる。
親切にしてくれた初対面の相手に嫌な態度を取るなんてどうかしている。
しかしなぜあんな態度をとってしまったのか全くわからない。
はあ、と溜息を吐く。
切り替えるように、サバッと湯船から上がると身体を拭いて着替えと一緒にもらった布を開く。
中にはやはり下着のシュミーズが入っていた。
未使用のようではあるが、いいのだろうか。
スズさんに申し訳なく思いつつ腕を通してみると、サイズもぴったりだった。
簡易ドレスもぴったりでどうやら体型も似ているらしい。
だから陛下も間違えているのかもしれない。
そう思うと胸がズキズキするようで、なんだかおかしい。
考えるのをやめようとタオルで念入りに髪を拭いてから、扉を少し開けて顔を出す。
と、扉のそばで陛下が待っていた。
私の姿を見ると可愛いと微笑んでくれた。
私ではなくスズさんを見ていると分かっていても、顔が赤くなってしまう。
「スズ、こちらにおいで」
そう言って私の手を取ると、部屋のほうに歩き出す。見れば見るほど広い。
お風呂の扉から数歩歩いて曲がると部屋らしい。
部屋の中には男性が三人いた。
「あ、ギルバート殿下!」
その姿を見つけて駆け寄ると、皆なぜか驚いた顔をしていた。
突然手を離された陛下は俯いていた。
「……は?スズ?」
殿下は目を見開き、呆然としていた。
なぜ殿下までスズと呼ぶのだろうか。
「なんで私の名前を呼んでくれないの?」
殿下は困り果てたような顔をして陛下と他のふたりに視線を送っているが、陛下はずっと俯いている。
他のふたりには目を逸らされていた。
しばらく沈黙が続き、ひとりの男性が口を開いた。
「……とりあえず座って話しましょう」
その声に殿下がソファーに座ると赤髪の男性はその後ろに控えるように立つ。
殿下の従者、スイさんだっただろうか。
その正面にもうひとりの男性、独立したソファーに陛下が座った。
私も慌てて殿下の隣に腰をおろす。
「スズ、そこの彼がギルバート殿下?」
陛下に確認するように訊ねられたので、頷く。
「……はい。私の婚約者です」
なんだか恥ずかしくて目を伏せながら、そう答えると陛下も私から顔を背ける。
「では、そこのふたりは?」
「初めてお会いしました」
その言葉にそう、と返すとふたりに名乗るように促す。
まず正面に座る紫の瞳をした身体のがっちりした男性が名乗った。
「デイル帝国の宰相を務めております、レオン・マグレイズと申します」
私も東堂桜と申します、と返した。
「私は……護衛騎士のカイルと申します」
赤髪の男性は何か悩んだ様子でそう名乗るが、その名前は私が知っているものと違う。
「……スイさんではないんですか?」
そう聞くと、カイルさんは固まってしまった。
誰もその言葉には答えてはくれない。
殿下も黙ったままだ。
「……前にカイと呼ばれていたから、聞き間違えたのかもしれないね」
見かねたように陛下が答えてくれた。
そう言われればそんな気がしてくる。
私は思い込むところがある、気をつけなくては。
殿下は私のほうを見てくれなくて、何かしただろうかと不安になってくる。
そんな気持ちを隠しながら、座っていると。
「スズ、レオンを連れて庭園に行ってくる?
私は彼と大事な話をしなくてはならないから。
花でポプリを作るのもいいと思うよ」
陛下がそう提案してくれた。
陛下と殿下はお仕事で忙しいらしい。
邪魔してはいけない。
初対面の人とふたりは辛いが、花とポプリに惹かれて頷いてしまった。
レオン様と一緒に庭園へと出掛けることにした。
なんだか殿下は元気がないようだから花でお土産でも作ろうか、と楽しみになってくる。
どんな花があるのかも楽しみだ。
道中レオン様が部屋に用事があると言うので、寄ってから庭園に出た。
庭園には色とりどりの花が咲いている。
前は薔薇だけだったのに……前?
どこかと勘違いしてしまったみたいだ。
気を取り直して、花を見て楽しみながら歩く。
レオン様は花に詳しいようで、花の名前や豆知識を教えてくれて楽しめた。




