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エミール殿下

エミール殿下side



 彼女に滅びた国の話をした日の夜。


 再びヴィラールの護衛だった男、カイルが部屋を訪ねてきた。

入室の許可を出し部屋に入れるが、それでもカイルは酷く青い顔をしていた。

腕には何か布で包んだものを抱えている。

カイルが腕に掛けている布をずらすと、私は言葉を失う。


 その腕の中にはヴィラールと話してくる、そう言った彼女が意識を失ってぐったりとしていた。

予想だにしていなかった事態に頭が真っ白になる。


 すぐに冷静さを取り戻すとソファーにおろさせて、カイルに状況を確認する。

「なにがあったんだ」

「私のせいです……私が桜様に……」

カイルは酷く取り乱している。

落ち着くように声をかけると自分が脅されて桜様に協力していた、と明かした。

問題解決のためにスズ様が動いた、と。

脅されていた内容は大体想像がつく。


 しかしヴィラールに会った後カイルに会いに行くとは……。

「桜様が聖石になにかを願いました。

 スズ様が邪魔だ、と言って」

……厄介だ。

秘術も万能ではない。

ヴィラールの時ははっきりと記憶を失っていることが分かったから解けただけなのだ。



 意識がないため確認することも出来ない。

「あの女はどうした?」

ついあの女と言ってしまう。

「……気絶しています」

「は?」


 驚く私にカイルは一部始終を語る。


 スズ様が意識を失ったその時、私は床に倒れ込まないよう抱え込みました。

しかし同じくその場にいたクマは桜様に突進していき、倒れ込んだ桜様は気絶しました。


 スズ様が連れてきたクマは私の秘術で人間に戻してくれと頼んできたので戻しました。

そのクマの正体はカリストス王国の王太子、ユティアーム殿下でした。


 戻った殿下は自分の秘術で桜様を捕縛すると、スズ様からの伝言がある、と。

スズ様はエミール殿下を頼るように言った、と。

ですのでこうしてここに来ました。


 そう言うと、顔を伏せる。

守ることが出来なかった自分を責めているのだろう。


 しかしカリストス王国の王太子か。

捕縛してその後どうするつもりだろうか?

婚約者といえども相手は救国の乙女だ。

知られれば問題となるだろう。


 スズ嬢は一向に目を覚さない。

……ヴィラールと皇帝陛下には知らせるべきだろうか、かなりの確率で面倒が起きそうだが。

聖石を使い皇帝陛下に先触れの手紙を出すと、聖石の黄色はかなり薄くなっていた。

 

「カイル、秘術の力はどれくらい残っている?」

「まだ三分の二ほどございます」

 ……それだけあればなんとかなるだろう。

「では、デイル帝国へ連れて行ってくれるかい?

 私とスズ嬢を」

その言葉にカイルは眉を顰めたが、了承した。

ヴィラールに申し訳なく思っているのだろう。

連れて行きたいが、少々問題が多いのだ。


 知らせないのはさすがに可哀想か、とシャロに用意してもらった本にさらさらとスズ嬢の事を書く。

カイルもそれを横で見ている。



 すると、すぐに三文字が浮かんだ。

 ――部屋に――

今から部屋に行くといいたいのだろう。

いくら心配でも省略しすぎだ、と呆れてしまった。

あの弟にここまで大切にする人ができるとは、思ってもいなかった。

それはカイルも同じようで、呆れた顔をしながらもどこか嬉しそうだ。


 1分もしないうちに部屋に入ってくると、スズ嬢の元に駆け寄る。

相変わらず意識を失ったままだった。

ヴィラールは泣きそうな顔をしながら手を握っている。

「私達はこれからデイル帝国に行こうと思う。

 カイルの部屋に女と婚約者が居るそうだ、対応を頼んだよ」

そう言われて唇を噛み締めている。

ついて行けない理由は分かっているのだろう。


「カリストス王国の王太子とよくよく話し合って策を練ればいい。一応スズ嬢の味方だそうだ」

 ヴィラールはハッと顔をあげると、頷く。

人は恋をすると、こんなにもわかりやすくなるのだろうか。不思議なものである。

 


「では、早いうちに行こうか」

 カイルにそう声をかけると、ネックレスからライオンを出してこそこそと話をし始めた。

どうやら会話が出来るようだった。

初めて見るその秘術につい興奮してしまいそうになり、慌てて冷静さを取り戻す。


 カイルがスズ嬢を腕に抱えてライオンに座ると、私はその肩に手を置く。

カイルが声をかけるとあっという間にデイル帝国の皇帝陛下の執務室にいた。

ライオンはそれと同時に消えてしまった。



 私達が執務室に到着すると、陛下はスズ嬢に駆け寄りカイルの腕から奪い自らが抱える。

話に聞いていた通り、こちらもスズ嬢に夢中で才色兼備の賢王と噂の皇帝陛下も形無しだ。

隣にいる宰相が冷静になるよう耳打ちをしている。


「アリシャール王国の王太子殿、この度は我が国の救国の乙女を救っていただき感謝します」

 陛下はスズ嬢を大切そうに腕に抱えながら、そう私に御礼を言うが救えていない上何も出来ていない。

「いえ、私は守る事も出来ておりません。

 ……貴国の救国の乙女殿を危険な目に合わせてしまった事、どうかお許しください」

 そう頭を下げると、陛下はよいと言った。


「間違いなくスズは自ら動いたのでしょう。

 謝罪を受け入れれば私が怒られてしまいそうだ」

 そう困り顔をしながら続ける。

「私の怒りの矛先はそちらに残されている救国の乙女にのみです。

 そちらの国も被害を受けたはずなので、責任を問うつもりはない。

 カリストス王国には強く抗議しますが」

「ご配慮感謝いたします。

 我が国としても許しがたい行為の数々、国王に進言の上対応を協議いたします。

 そのためこちらのカイルを置いてこのまま帰国することをお許しください」

カイルを連れて帰れば、問題がややこしくなる。

あの女の件を終わらせるまでは、ここに居てもらう方がいいだろう。

 

「良い報告を待っています」

 陛下はそう言うと宰相に後を任せて下がる。

一刻も早くスズ嬢をベッドで寝かせたいのだろう。顔と態度には出さないがスズ嬢が心配で気もそぞろなようだった。

あのような目に合わせた女の顔を思い出すと。気を引き締める。


 ――早く対処しなげれば。


 そう思い宰相に挨拶をしてからカイルに後を任せると伝えると聖石を使い、アリシャールに帰る。



 そのままカイルの部屋に転移すると、もうあの女 は気がついていてギャアギャアと騒いでいた。



 ヴィラールとカリストス王国の王太子ふたりはスズ嬢に対して何をしたのか聞いているが、あの女に答える気はなさそうだ。

視界に入れるのも不快でそのまま弟に話しかける。

「ヴィラール、私は国王に婚約の解消とカリストス王国への抗議を進言するつもりだ。

 いいか?」

 一応本人の意思を確認しておきたかった。

「はい、私もそう望んでおります」

 そう答えているのを聞いた女は暫し呆然とすると、私を騙したのね!とまた騒ぎ始めた。

その様子に苛々してしまい、弟に同情した。


 私は足早に部屋を出ると、まだ仕事をしているであろう国王のもとへ急いだ。


「なんだ、こんな時間に」

 厳つい顔は眉を顰めるとさらに厳つくなる。

国王は父親ではあるが、執務では甘さなど見せない。


 それを知っている私は緊張しながらも目に余るあの女の行為の数々と、デイル帝国の救国の乙女の現状を報告する。


 報告の最後に婚約の解消を進言した。

決して安易な気持ちでヴィラールの婚約者にしたわけではないだろうが、慎重な陛下らしくない決定の早さだったのだ。

納得するだろうか、と不安に駆られた。

国王は溜息を吐くと、私を厳しい目で見る。


 やはり駄目だったか、と思った時予想外の言葉が聞こえた。

「……結局お前の言う通りだったな。

 私はあのヴィラールにとって最高の相手だと思ったんだ。救国の乙女は複数の男と婚姻する、それは無理に愛さなくても形だけでも他がいるので問題ない、気が楽だと……そう思い強引に進めたんだ。婚姻したい人が出来たというのも嘘だと思っていた。

まさかそんなことになっているとは……」


 そう呟くと、宰相を呼びすぐにヴィラールとあの女の婚約を解消するように指示を出した。

カリストス王国にはあの女に強く抗議をする書を持たせて送り返すと決定した。


 まさか父親としてヴィラールの事を心配した結果だったとは思わなかった。

宰相が部屋を出て行くのを見ると、父親の顔をしてすまなかったなと謝罪をされた。

謝られたのは初めてで目を見開く。


 陛下は責任を感じているのか酷く暗い顔をしていた。私はそんな姿は見ていられず、息子としての言葉をかける。

「ヴィラールはとても素敵な女性を選びましたよ。

 だから今度は話を聞いてあげてください。

 きっと面白い話が聞けますから」

そう言って笑うと陛下もそのようだなとつられて笑った。




 ……これであとは彼女さえ目を覚ませば、そう思った。




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