カイルの事情
「私、カイルに会いに行ってきます!」
宣言すると勢いよく立ち上がる。
ヴィルは先程と打って変わって心配そうにこちらを見上げる。
「早く解決しないと、これまで通りの距離感で話せません。なので今すぐ行ってきます」
婚約者の存在がチラついて落ち着かないのだ。
私はポーチからスマフォを出すと、カイルの元まで飛ばしてもらうようにメールを送信した。
包まれた光の中で、ヴィルの気をつけて、という声だけが聞こえた。
バサッという音と共に体が着地する。
どうやら植物の上に落とされたようで、お尻は痛くないがチクチクする。
木の上だったらどうしようか、とおそるおそる目を開けたら目の前にカイルの顔があった。
思わず体が飛び跳ねそうになったところを、カイルが慌てて支えてくれた。
「こんなところで、何をしているんですか?」
カイルは不審な目をしてこちらを見る。
こんなところと言われ周りを見渡せば、少し離れたところで剣を構えて訓練している騎士達がいる。
ここは騎士団の訓練場らしい。
確かに一歩間違えれば、即牢屋行きである。
少し離れた場所にある花の木の上だったので、助かったようなものだ。
ドレスは引っかかり葉っぱがついているが、安全の方が大事である。
「ご相談があるのですが……」
カイルはそれを聞くとすぐに人気のない木の生い茂った場所へと誘導した。
「続けてください」
なんの話をされるのか気づいているような態度だ。
「カイル、お困りではありませんか?」
予想外の言葉に驚いたのか、僅かに目を見開く。
その反応を見て少し安心した。
カイルは白だ、そう漠然と考える。
「……私はヴィルが信じているカイルを信じます。
ですので、ヴィルが信じている私を信じてもらえませんか?」
その言葉にカイルは目を瞬くと、息を吐く。
無理があっただろうか。
「……それはズルイですね」
意外なことに困った顔でそう言いながらも承知いたしました、と呟いた。
「なにから話しましょうか。
……私の出生はご存知のようですね」
「はい、勝手に聞いて申し訳ありません」
「気にしておりませんよ。
全てお話いたします」
桜様が私の元に訪ねてきたのは、アリシャール王国に発つ前のこと。
公爵領での事件の報告のために、皇城に来てからのことでした。
謁見を終えた後、殿下に言われた通り部屋で休んで居ると桜様は訪ねてきたのです。
貴方カイルよね、と。
それが救国の乙女たる所以でしょうか、私が名乗らなくても名前を知っていました。
……私の本当の名も。
そうして、桜様は言ったのです。
カイル、貴方の秘術を私に貸して協力して、と。
あり得ないと丁重にお断りすると。
出世のことを公すれば、どうなるかしら?
秘密裏に匿ったヴィルは、廃嫡されるかもしれない、いいの?
それは脅しでした。
殿下は私の恩人です、どうしても守りたかった。
なので、秘術を渡しました。
私の秘術はネックレスだと嘘をついて。
幸い桜様は秘術の詳細は知らないようでした。
本来はネックレスのライオンが秘術であり、ライオンを呼び出す事で願いが叶う。
あのネックレスには三回だけ願いが叶うようにしておく事で怪しまれないようにしたのです。
……まさかあんなことに使われるとは思いもせずに。
殿下を守るつもりが余計に苦しめる結果になり、自分を責めました。
だが、秘術がない今私は無力です。
ネックレスを取り戻したい、だが公にされたら……。
殿下にも言えず、誰にも言えません。
傷つけて申し訳ございません。
「……カイル、貴方を責めるなんてあり得ません」
人を苦しめる行為を桜様が平気でしている事に憤りを覚える。
カイルは良心の呵責に耐えられず、王太子の護衛騎士に替わろうとしたのだろうか。
自分の思い通りに逆ハーレムの関係を作りたいから、とこんな方法を取っても幸せになれるはずはない。
カイルとも結婚しようとしているなら尚更だ。
もう私と桜様の関係は修復不可能なところまできている。
ネックレスの使用回数は三回だけ。
一回目はセルゲイ殿下、二回目はヴィル、三回目はおそらくユティアーム殿下だ。
ユティアーム殿下に使おうとした時に、ネックレスは反応したはずだ。
……ギルバート殿下が一歩早く効果がなかっただけだろう。
改めて使おうとした時に使えない事に気づき、カイルの元へ来る可能性が高い。
来るとしたらカリストス王国に向かう馬車が街に入り、宿屋に着いてから。
今はもう夕暮れだ。
あの桜様のことだ、今日来る可能性もある。
それならば。
「カイル、部屋に行きましょう。
そこに私を隠れさせてください」
カイルは突然そんな事を言い出した私に驚いて戸惑っている。
「巻き込めば殿下に怒られてしまいます」
「私が怒らせません。
早く解決する方がヴィルにとってもいいはずです」
たぶん、と心の中で付け足す。
ヴィルも陛下も怒りそうな気はするが、なんとか私が治めれば大丈夫と自分に言い聞かせた。
「……それはそうですが。
スズ様がしなくても」
なかなか納得してくれないカイルを時間がないから、と急かしカイルの部屋に向かった。
移動中に誰かに見つからないかヒヤヒヤしたが、なんとか無事に着き安堵の息を漏らす。
部屋の中にはまだ誰もいなかった。
急いでポーチからスマフォを取り出し、メールを送信した。
今思いつく対策はこれくらいだった。




