滅びた国
陛下は逃げられたにも関わらず嬉しそうに笑っている。
それをレオン様と黒クマは横で呆れたように見ていた。やはり転ぶことなく、衝撃に耐えたようだ。
私も体幹を鍛えるべきだろうか。
移動する度に痛い思いをするのは嫌だ。
陛下にセルゲイ殿下のことを話すと、思うところがあるのか黙考している。
確実に秘術を持つ誰かがいる、その事実は明らかだ。
国としても決して看過できない重要な事柄なので、早く解決したいはずだ。
桜様にもこれ以上好き勝手されたくない。
「陛下は心当たりがありますか?」
なにか引っかかる事があるようなそんな表情をしていたので、聞いてみる。
「……心当たりと言う程の事ではないのだけれど。
二十五年前だろうか、滅びた国があるんだ。
もしかしたらと思って、ね」
……滅びた国。
それならば秘術があってもおかしくはない。
だが、誰が――
そう、考えていた時。
体からぶわっと光が溢れてきて、光に包まれる。
エミール殿下に呼ばれている、そう直感した。
眩しくて目が開けられないので、皆がどんな表情をしているのかも分からない。
黒クマは置いて行ってもいいのだろうか、そう疑問には思ったが間に合わない。
誰にも声をかけられず、飛ばされてしまった。
着地した気配を感じ、目を開けるとエミール殿下の部屋だろうか、ソファーに座っていた。
驚くほど衝撃がない優しい転移だ。
スマフォにも見習って欲しいくらいである。
周りを見渡すが、エミール殿下の姿はない。
廊下から音が聞こえたような気がして扉の前で耳をすませると、扉越しに誰かの会話が聞こえた。
ひとりはエミール殿下のようだ。
口調からしてなにやら揉めているようだった。
「本日よりエミール王太子殿下の専属騎士になるよう、命令がございました。疑われるのであれば陛下にご確認ください」
「君はヴィラールの護衛だっただろう?
疲労している状態の護衛など要らない。しっかり休息をとって明日から働いてくれれば良い。
何度も言わせるな、これは命令だ」
聞き覚えのあるような声だが、よくわからない。
なかなか立ち去らないので、殿下は困っていたようだった。
話も決着がついたようだし、盗み聞きは褒められたことではないのでソファーに戻った。
しばらくすると、疲労困憊な様子のエミール殿下が扉から入ってくる。
以前のキラキラしい雰囲気が翳っている。
優しげな垂れ目の下の隈が目立つ。
問題も山積みで多忙だったようだ。
殿下は漸く私に気がつくと突然呼び出してすまなかった、と謝罪した。
「こちらこそ無理を言って申し訳ありません。随分とお疲れのようですが、なにかございましたか?」
エミール殿下は眉を顰めると、溜息を吐く。
「あれから色々伝手を使って調べて分かったのだが、二十五年前に滅びた国の秘術が使われている可能性が高いと判断した」
「……皇帝陛下もそれを懸念しておられました。
なにか情報が掴めたのですか?」
殿下が詳細を調べず、呼び出すことはないだろう。
重要なことがわかったはずだ。
「ああ。……生き残りがいるようだ」
そういうと殿下は詳細を話し始めた。
二十五年前、今のアリシャール王国とカリストス王国の下側にステリア小国という小さな国があった。
その頃国を治めていたのはマジャルス・ステリア。
約十一年間国王を務めていた。
賢王とまではいえないが、その国王の間ステリア小国は自然に溢れて栄えた国を維持していた。
が、マジャルス国王は病気のため、三十歳で逝去。
前王も若くして亡くなっているため、短命な血筋なのか王族も少なかった。
その後に王となった王弟が原因で国は滅びることになる。
王弟は自分の望みを叶えるための法を作り、国民から反感を買った。
その内容は酷いものだったようだ。
作物や金銭を国に納めることを定め、その量は収穫量の五割。
納めることが出来ない家の女性は、王城の後宮に入るように、と御触れが出た。
これには国中から反発があったが、国王は覆すことはなかった。
そして耐えられなかった国民は反乱軍を結成し、王城に攻め入った。
王弟と少ない王族は討たれステリア小国は滅びた。
今はその先導者が王となり、平和な国になっている。
だが、問題はそのステリア小国のマジャルスには息子が産まれていたことだ。
まだ産まれて数ヶ月の息子が。
マジャルスの王妃は攻め入られた混乱の最中、その息子だけは誰かに預けた。
王妃は自ら犠牲になった。
無理矢理に王弟の妃とされていたので、逃げ場はなかったのだろう。
カイリン・ステリア。
それがその息子の名前だ。




