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セルゲイ殿下



「それにしても、セルゲイ殿下は本当に馬がお好きなんですね……」


 今いる場所は馬小屋近くの草原だ。

あの時もここにいて、甲斐甲斐しく馬のお世話をしていたのを思い出す。

馬の話をしている時はとても楽しそうだった。

それを考えると藁の上に落ちなかっただけでも、良しとしたい。


 レオン様も黒クマも周りを見渡しているが、セルゲイ殿下は見つからない。

一体どこに……?


 そう思っていると、後ろでドンっとなにかが落ちるような音がして振り向くと。



 少し離れた木の下にセルゲイ殿下が立っている。

木に登ってりんごを取っていたのか、服に葉っぱが付いていた。

手にはりんごを抱えている。

馬の餌にするのかもしれない。



「……なにしているの?」

 セルゲイ殿下は私たちを訝しむ。

確かにひとりはクマだし、変な組み合わせである。



「君は桜の邪魔をする……帰ってきたの?」

私を見ると不気味ににっこりと笑う。

桜様の邪魔をする人間と言う認識らしい。

黒クマは首を傾げている。

「セルゲイ、どうかした?」

その声を聞いて殿下も不思議そうに首を傾げている。


 ふたりが首を傾げあっている間に、隠れてスマフォを操作してメールを送ってみた。


『記憶を元通りにしてください』



 ――殿下が頭を抱えてしばらく蹲み込んだかと思うと、ハッと顔を上げた。


「僕は一体なにを……」

混乱しているのか、顔色が悪く視線が泳いでいる。

もう少し頭の整理が出来てから話しかけたいが、そうもいかない。

「殿下、もしかして記憶を変えられたのでは?」

「……変えられた?」 

「殿下は会ったことのない私を、異常なほど敵視していらっしゃいました。そう思い込まされていたのかと」

 そういうと殿下の顔色は更に悪くなった。



「誰にされたんですか?」

「……兄上の婚約者の彼女だよ」

 もう名前は呼びたくないようだ。

黒クマは頭を抱えている。

まだ婚約者であるということに同情した。


 殿下が信用できるかわからないが、とりあえず話だけは聞いておきたい。

そのまま続ける。

「なにか変わった事がありましたか?」

「うーん……その日彼女は珍しい形のネックレスを持っていた」

またネックレスだ。

しかし、珍しい形とはなんだろうか。


「どんな形でしたか?」

「……犬、いや猫かな?

 動物だとは思うんだけど」

 私は思わず黒クマを抱えて殿下の目の前に出す。

「……いやクマではないことは確かだよ」

はっきりと否定されてしまった。


 しかし、有力な情報である。

「携帯電話は貸しているのですか?」

「そうみたい。移動手段がないからって」

たまにここにも来ていた、と苦々しい顔をしていた。

記憶が戻ったことによって、更に嫌悪感が増しているようだった。


 来る度に私に会ったかと聞かれ、ある事ないこと吹き込まれていたらしい。

私は救国の乙女になりすまそうとしている偽物だから、捕まえてユティアーム殿下の手柄にすれば王位から逃れられる、と。


 それを聞いたらあの態度も納得だった。



 大体の話は聞いたので、ずっと黙って聞いていたふたりにそろそろ戻ろうかと声をかけた。

「早く戻らないと陛下がレオン様を待っています」

「……陛下の予想通りですね」

 と、レオン様は苦笑いしている。

「予想通り?」

そう聞き返してもレオン様はそれ以上教えるつもりはないらしく、答えてはくれなかった。


 殿下は黒クマとお話をしている。

どうやら正体を明かしたようで、クマと仲良く話をしていて微笑ましい光景だ。

もう少し見ていたいが、そうもいかない。



 帰りますよーと声をかけると、殿下は少し残念そうだった。

 


 殿下はメールを作成している私の背後に来ると、小さい声で言った。

「スズ、申し訳なかった。ありがとう」

 そういうと私の返事も聞かず、恥ずかしそうに馬のほうに去って行ってしまった。



 来た時と同じようにレオン様が黒クマを抱えて、私と手を繋ぐ。


 そのあと作成したメールの送信ボタンを押した。

光に包まれていく。


 痛みを覚悟して目を閉じると光が弾けた。



 

 ――すると、今度は陛下の上に座っていた。



 レオン様と黒クマは床に立っているのが不思議だ。

確かに手を繋いでいたはずだが。



 陛下は驚きの表情をすぐに引っ込めると、美しく微笑んだ。

「おかえり、スズ」

そう言って抱きしめられると平常心ではいられず、飛び上がるように逃げてしまった。






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