黒クマの弟
ただ、その話を聞いた陛下の反応は違った。
「そのまま術にかかったほうが幸せだったのではない?彼女はその気なのだから、そのまま婚姻すれば良かったのでは?」
などと、殿下と言い合っている。
それを横で聞きながら、考える。
桜様は胸元からネックレスを出した。
その言葉からそのネックレスがなんらかの力を持っていることになる。
携帯電話で出したのだろうか?
……いや、それなら限定的になるはずだ。
携帯電話では出したあとから願う事はできないし、対象の変更もできない。
ヴィルに作ったジュースや陛下に渡した髪飾りのように。
ギルバート殿下からもそう聞いている。
出した物に願えば叶う、それは携帯電話ではできないのだ。それは聖石も同じである。
そうなると、ヴィルに使った後にユティアーム殿下には使えない。
何個もあったのなら可能かもしれないが。
その点変則的なものが作れるのは、デイル帝国の秘術だ。
――それとも、なにか別の秘術があるのか。
「陛下、私にくれたようなネックレスを桜様に渡しましたか?」
「渡す訳ないでしょう。そもそも会ったのはあの時だけ」
そこまで言ったところで、陛下は黙った。
「……スズ、そんな顔しないで」
私?
そんな顔とはどんな顔だろう。
無意識に嫌悪感が表情にでてしまったのだろうか。
あの時のことは思い出したくないのだ。
私は余程彼女の事が嫌いらしい。
「……申し訳ありません」
そう謝ると、違うことを考えることにした。
「ユティアーム殿下、セルゲイ殿下とはどのような方ですか?」
セルゲイ殿下のことがわかれば、なにか対策ができるかもしれないと考えてのことだった。
「……セルゲイ?
ギルバートのように頭がいい訳ではないけど、穏やかな性格をしていて人当たりも良い。
王位も望んでないから私とも仲良くしてくれる。
あ、とてつもなく馬が好きですね」
私が知っている姿とは全く違った。
兄弟だからだろうか?
「では、セルゲイ殿下と桜様は出会った時から仲が良さそうでしたか?」
なんとなく気になり聞いてみる。
「全く。桜が馬を気持ち悪いと言うのも許せないようだったし、セルゲイは桜の態度を不快に感じているようでした。国を出るまでそうだったから今でも変わらないと思います」
そう聞いて、ひとつの可能性が浮かぶ。
――もしかすると、セルゲイ殿下があの秘術の第一被害者だったのでは、と。
そうなると色々な仮定が変わってしまう。
セルゲイ殿下の前に他の協力者がいる可能性が高くなるのだ。
陛下もそう思ったのか、眉を顰めて黙っている。
ギルバート殿下がどこまで勘づいているのか、話をしたいが無理だろう。
桜様と一緒というのが心配ではあるが、スイさんもいるし狙ってないので大丈夫だと信じたい。
そうなると。
「ユティアーム殿下、一緒にカリストス王国に行きませんか?」
唐突すぎただろうか?
黒クマは固まっている。
「スズ、なに言ってるの!
されたことを忘れた訳ではないでしょう!?」
陛下は厳しい顔でこちらに来て、説得しようとしている。
「しかし、陛下もお気づきですよね?」
そういうと顔を顰め、黙った。
やはり気付いているのだろう。
「確かめたいのです」
陛下の目を見て、お願いする様に見つめる。
「そのクマは信用ならない」
「……セルゲイ殿下のためには必要です」
私も全面的に信用している訳ではないので、否定はできない。
「私もついていこうか?」
その言葉に驚き、動揺してしまった。
「それはできませんよ、陛下。
書類も沢山ありますし、外交問題になります」
私が動揺している間にレオン様が答えてくれた。
「私がスズを害することはもう二度とありません。
よくわかりませんが、弟のためにもお願いします」
ずっと黙って聞いていた黒クマがそういうと、陛下はわかったと呟く。
「レオンも連れて行って」
え、レオン様は離れていいのだろうか?
「そうすれば、私も安心だし、スズもすぐ戻ってくるでしょう」
安心なのはわかるが、なぜ私がすぐ戻る?
よくわからず首を傾げていると、レオン様は苦笑いをしている。
「はあ……。では、今のうちに面倒事は終わらせてしまいましょうか。
スズ様、お願いします」
そう言われて、慌ててスマフォを取り出す。
黒クマが本体を見るのは初めてのようで、興味深そうに見ていた。
レオン様はすかさず黒クマを捕まえると、腕に抱えた。
私が抱っこしようと思っていたのに残念だ。
しかし、また陛下の機嫌を損ねては困るので黙っておくことにした。
メール画面を開き、願いを打つ。
『カリストス王国第二王子セルゲイ殿下のもとへ連れて行ってください』
「あ、出る前にひとつご忠告を。
落ち方が荒っぽいのでお気をつけてください」
送信ボタンを押す前にふたりに伝えると、レオン様と手を繋ぐ。
「では陛下、行ってきますね」
気をつけてね、と言われたので笑顔で返しボタンを押した。
3人で光に包まれると、レオン様が私を胸に引き寄せる。それに慌てているうちに光が弾けていた。
衝撃をあまり感じず不思議に思って目を開けると、レオン様と黒クマの上に座っている状態だった。
「申し訳ありません」
急いで上から退くと、謝る。
「スズ様を守るためにしたことですから、お気になさらず。大丈夫でしたか?」
レオン様は紳士だった。
レオン様は騎士のような体格をしているので、私を庇うことも余裕だったのかもしれないが。
なんせ筋肉が凄かった……。
見た目はゴツくないのに凄かったのだ。
私は筋肉から離れるため、頭を振る。
「殿下もレオン様も、ありがとうございます。
助かりました」
一応潰してしまった殿下にもお礼を言っておく。
それが伝わってしまったのか、クマは無言だった。




