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黒いクマ



 ベッドが動いた気配がして目が覚めた。

顔をあげると、陛下は厳しい顔をしていた。


「……申し訳ありません!」

慌ててそう謝っても、表情は変わらない。


 しかし、手は力強く握られていた。

不思議に思った私は陛下の視線の先を辿る。



……と、彼女がいた。

 

「ここをどこだと思っている。

 入室の許可を出した覚えはないが?」


「私とシドランの仲で必要ないでしょ?

 あんなに愛し合ったじゃない」

 ……愛し合った?

胸の中がモヤモヤとする。


「誤解を招く発言をするな。

 私はお前を愛した事は一度たりともない」

陛下は見た事ない程冷たい顔をしていた。


 その様子に彼女は困惑していた。

記憶が戻っているとは思いもしなかっただろう。

「……そんなこと信じるかな〜。

 あの情熱的なキス、見ていたでしょ?」

彼女、桜様は明らかに私に向けて言っている。

その気にさわる物言いに腹わたが煮えくり返りそうになるが、必死に口角をあげてにこりと笑う。


「私は見ておりませんが……。

 夢でも見ていたのでは?」

精一杯の虚勢を張りながら、答えた。

陛下が手に力を込めたのがわかった。


 すると、桜様は逆上して口汚く罵り始めた。

「あなたはなにも知らないふりして、私に近づいたのね!男たらしの尻軽女が!身の程を弁えなさいよ、この嘘つき」

今まで誰かにこんな風に罵られる事はなかった。

聞こえるように私を嘲笑うだけだった。


 ぶつけられる言葉に落ち込み、少し俯いてしまった。


「いい加減にしろ、スズを傷つける事は許さない」

陛下がそう言うと桜様の体が光り始める。


 桜様はなにかを騒いでいだが、なにをいっているか全く理解できなかった。

しばらくすると、光が弾けて姿が消えた。



 なにが起きたのかわからずポカンとしてしまう。

「驚いたね。これが髪留めの効果?」

「……厄除けですが。

 こんな事ができるとは思っていませんでした」

 陛下がああいったことによって災いだと、認識されたのだろうか。

一時的に効果を発揮したのなら、また来る可能性もある。


 しかし、陛下に嫌な事をさせてしまった。

私がどうにかするべきだったのに。

一瞬落ち込んでしまった、役立たずだった。


「黙って聞いてる事は出来なかったよ、ごめん。

 これでどう出るのかまたわからなくなった」

陛下は申し訳なさそうに言うが、私が悪いのだ。

「申し訳ありませんでした。

 執務室にいきますか?」

「そうしようか。

 レオンと一緒にいるのが良さそうだ」


 私たちは軽く身支度を整えて部屋から出ることにした。



 部屋から出ると、護衛の方たちは嬉しそうにこちらを見ている。

主が嬉しそうだったからだろうか。

やはり陛下はとても慕われているらしい。



 陛下の部屋から執務室までは近く、あっという間に着いた。


 中には疲れ切った様子のレオン様がいる。

こちらに気づくと慌てて駆け寄る。


「陛下、ご無事ですか?

 スズ様の事覚えていますか?」

心配そうに尋ねていて、気苦労も窺える。

「心配かけてすまなかった。

 きちんと覚えている」

 

「それでしたら、安心しました。

 先程桜様が執務室に現れ、陛下がいないことに気づくと押し掛けて行かれましたので……。

 ついていく訳にもいかず、心配しておりました」

先にこちらに来たらしい。

ふたりともいると踏んだのだろう。


「桜様はなにかを持っておられましたか?」

「はい。手に収まるくらいの水色の四角の物を。

 すぐに仕舞われましたが」

やはりセルゲイ殿下の携帯電話で移動しているようだ。


 かなり使用しているようだが、力は残っているのだろうか。

カリストス王国に飛ばされたのか、はたまた別のところに飛ばされたのか知りようもないが、戻ってこないところを見ると余裕はないようだ。


「レオン様になにもなくて、良かったです」

そう3人で部屋の入り口で会話をしていると。



 ポスンっと間抜けな音がした。



 その音にまさか戻ってきたのか、と部屋の中を見ると床に黒いクマが座っていた。



「……あれ、スズ?一昨日ぶりですね」

 黒いクマはなにがなんだかわかってないようだ。

「どうしてここに?」

 むしろこちらが聞きたいのだが。

陛下とレオン様がいる執務室だということに気付いてないのだろうか?



「……君には私たちが見えないのかな?」

 陛下は少し不機嫌そうに声をかける。

「ああ!いたんですね、見えませんでした」

それを聞くとますます不機嫌そうになった。



 黒いクマはよっこいしょと声が聞こえそうなくらい頑張って立ち上がる。

手足が短いため、難しいようだ。



「ユティアーム殿下はどうしてここに?」

 声とクマの色、口ぶりでほぼ間違いない。

私はまだ部屋の入り口にいたので、黒クマがいるソファーに向かった。



「わからないんです。突然ギルバートに飛ばされてしまって」

 ギルバート殿下に?

「なにかあったんですか?」

 まだまだカリストス王国には着いていないはずだ。馬車では二週間はかかるという話だった。



「それが……」

そう言うとユティアーム殿下は話始めた。



 昨日から桜ともに、カリストス王国に向けて馬車に乗っていた。

桜は出発してからずっと機嫌が悪かったんだが放っておいたら、昼前に姿が見えなくなった。

しばらくしたら見つかったんだが、遅くなったためそのまま街の宿屋に泊まった。


 朝出発しようとすると部屋に桜の姿が見えないとまた騒ぎになり、総出で捜索をした。


 すると、探していた護衛が怒り狂った表情をした桜を街の森で見つけた。

それを聞いてすぐに、私とギルバートは向かった。

私たちの姿を見ると桜が胸元を探り、ネックレスのようなものを取り出してなにかしていた。


 その時焦ったような顔をしたギルバートは隠しながら携帯電話を触り、私に言ったんだ。

『クマなら、スズも安心だろう。

 しばらくは身を隠せ、あの女から逃げろと』



「そのあとこの姿になりここに落ちた」


 ギルバート殿下はおおよそ察したのだろう。

なぜ怒り狂っていたのか。

なにをしようとしていたのか。

……一番安全であろう場所も。

色々考えた結果、私のスマフォが完成した可能性が高いと踏んだようだ。



 ユティアーム殿下がわからないのも無理はなかった。




 


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