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シロクマと私



「部屋に戻りましょう、風邪ひいてしまいます」

 外は風があり涼しい。

こんなところにいては暑い時期でも、風邪をひいてしまうかもしれない。



 周りを見渡してもシャロさんはいない。


「先に部屋に戻っていると思うよ」

そう陛下が言うので、ふたりで陛下の部屋に戻ることにした。



 こんな真夜中に庭園を歩くなんて初めてだ。

月の明かりに照らされた草木が、神秘的な雰囲気を醸し出している。


 そこに神秘的な美しさの陛下がいると、かぐや姫のようにどこかに行ってしまうのではと不安な気持ちになる。


 ただでさえ、何が起きてもおかしくないのだ。


「……陛下、手を繋いでおきませんか?」

繋いでおけば、ひとりにさせることはない。

この不安も少し和らぐ。



「ふふ、繋ぐのははじめてだね」

そう言われるとなんだか緊張してしまう。


 確かに手に触れられたり掴まれることはあったが、繋ぐのははじめてだ。

手汗が心配になってくる。


「はい、どうぞ」

 陛下は立ち止まると私のほうに左手を差し出す。

その手のひらに、おそるおそる手を重ねるとそのままぎゅっと握られた。


 歩き始めると、なんだか恥ずかしい。

実は心臓は指先についていたのでは、と思うくらいにドクドクと脈打っているのを感じる。

陛下の手は大きくて、私の手はすっぽりと包まれていてそれが余計に異性だと意識させる。



「……どうしよう、可愛い」

 上からポツリと呟く声が聞こえたので顔を上げると、右手で口元をおさえる陛下と目が合う。

すると甘くうっとりとした微笑みを浮かべる。


 その瞬間、ぶわっと顔が赤くなったのが自分でもわかった。

心臓がドキドキとうるさい。

体の力が抜けて足も覚束ず、ふらふらしてしまった。


 

「……スズ、大丈夫?

 私に任せて」

 そう言うと繋いでいた手を離して屈んだかと思うと、体がふわっと浮いた。

 悲鳴を上げなかった私を褒めてもらいたい。


「陛下!重いのでおろしてください……」

陛下の服をぎゅっと掴みながら、訴える。

お姫様抱っこは顔が近い、高い。

「ふらふらしてるし、危ないよ。

 それに待たせているでしょう」

急がないと待ちくたびれているかもしれない。

しかし。

「……恥ずかしいのです」

「先日は自分でせがんだのに」

陛下は笑っている。


 せがんだ?

そんな覚えはない。

……あのお酒を飲んだ夜だろうか。

そんなこと私がした?

お姫様抱っこに、キス。

どんな流れでそんなことになってしまうか、想像もつかない。

お酒はこわいものだ。

他に変なこと言ってないだろうか。

 

 

「本当ですか?他に変なことしてないですか?」

 そう訊ねると陛下は微笑みながら悩む。

「……秘密。教えてあげない」

 そう言って陛下は教えてはくれなかった。


 それからずっと陛下は私を抱えて歩く。

重たいので腕が痛くなります、と言ってもおろしてはくれない。


 陛下の腕を心配する私に、では軟弱ではないと証明しないとね、と言って結局陛下の部屋までおろしてはくれなかった。


 護衛の方にはしっかりと口止めすることは忘れない。



 中ではシャロさんが待っていて、私たちの姿を見てとても嬉しそうにしている。

今こうして話せているのは、話を聞かせてくれたシャロさんのおかげだ。

「シャロさん。ありがとうございます」

「どういたしまして。

 弟をよろしくお願いしますね」

なんだか怖いので、その言葉の意味は聞かないことにした。




 皆でソファーに座ると、これまでのことを陛下に報告する。


 カリストス王国でセルゲイ殿下に会ったこと。

アリシャール王国でエミール殿下と出会い、協力してヴィルの記憶を戻したこと。

ヴィルの現状について。

桜様の協力者について。


 ひとつひとつ、自分も再度確認する意味も含めて説明した。


「そろそろ陛下の元にも桜様が来てもおかしくありません」

私がそう言うと陛下は嫌な顔をすると、口を開く。


「……いや、私より先にレオンの所に行く可能性はない?」

それはあり得ない話ではない。

陛下の記憶を変えて手に入ったと思っているなら、残っているふたりに行くかもしれない。

しかし、陛下の元に来てしまったら。


「少し待っていてください」


 そう言って部屋の隅に行くと、スマフォを取り出してメールを送り陛下の元に戻る。


「こちらを陛下に。御守りのお返しです」

私は手に握って銀色の髪留めを差し出す。

「効力があるかはわかりませんが、受け取ってもらえませんか?」

先程厄除けを願って出してみたものだ。

秘術除けも考えたが、いざという時私まで拒否されてしまうと困るのでやめた。

厄除けで効果があるかは心配ではある。


「もちろん。スズ、ありがとう」

 陛下は髪留めを嬉しそうに受け取ると、長い銀髪を纏めて留めた。


「これからどうするの?

 私としてはもうスズには危険なことをしてもらいたくないのだが」


 しかし、そういうわけにもいかないだろう。


「予想では残っているのはレオン様とカイルです。手掛かりがほしいのです」

でないと、皆も私も安心できないだろう。


「そうは言っても張り付くわけにはいかないでしょう?」

 夜もあるし、それは無理だろう。

どうしようかと悩んでいると。


「……私がレオンにつきましょうか?」

 ずっと黙っていたシャロさんが口を開く。

レオン、先程もそう呼んでいた。

仲が良いのだろうか。

その疑問が伝わったのか、シャロさんは続けた。

「レオンとは乳兄弟なんです。

 なので執務室は陛下に任せ、部屋は私に任せてください」

 乳兄弟だから陛下についているのかもしれない。



「レオンのことはシャロさんに任せて、スズは私と一緒にいればいいよ」

シャロさんはその言葉に何度も頷いている。


「しかし、カイルが……」

「あちらにはあの王太子がいる。問題ないよ」

それはそうかもしれない。


「とりあえず、スズは休まないといざという時動けないでしょう?」

陛下の言うことは最もだ。


 もう深夜3時になろうとしている。

慌てて陛下とシャロさんに謝る。


「陛下とシャロさんの睡眠時間まで奪ってしまいました。申し訳ありません」


「それは構わないよ。

スズ、シャロさん私のためにありがとう」

 陛下はそう御礼を言う。

この陛下の優しさが私は好きだと思った。




 

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