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シロクマと兄


 シャロさんと手を繋ぐと、光に包まれたので目を閉じる。


 するとまたもや、ボスンっと落とされた。

今度は柔らかいような固いような、なにかの上だ。

真夜中だからか薄暗くて目が慣れずよく見えない。

 

「いたたた……」

 落ちる衝撃でシャロさんと手が離れてしまった。

この転移は本当に優しくない。



「君はあの時の……」

私の下で声がした。

目を凝らすとぼんやりと陛下の姿が見える。

……これはもしかして寝ている陛下の上に乗っているのでは。


 そう思い至り、慌てて退こうとする。


 が、慌てたせいで布団に足を取られてしまい、体が前に倒れ抱きつくような姿勢になってしまった。


 目が慣れてきたせいで、近くにある陛下の顔がよく見える。

戸惑っているような顔がいつ冷たい顔になるのか、それが怖かった。

「ごめんなさい、すぐに退きます」


 そう言って退こうとすると、手を掴まれた。


「君はなんだろうね。

 会った時から気持ち悪さが消えないんだ。

 桜が好きだと思っているのにどこか違和感を覚えて、君が嫌いだと思っているのに好ましく感じて目が離せない」


 陛下は困った顔をして言葉を漏らす。


 その言葉に、涙が滲んでしまう。

陛下は私を忘れても、今私を桜様のように冷たくは扱わない。

そう思うと心がざわざわする。


 陛下は涙が溢れそうな私をみて、焦ったように目元を袖で優しく拭う。

「……泣かないでくれ。

 なぜか君の涙は見たくない」


 その言葉で私の涙腺は崩壊した。

忘れているくせに。

陛下は忘れていないと錯覚してしまう。


 顔を見られたくなくて俯くと、髪が落ちてくる。

その髪に触れる手が髪を耳にかけると、首筋にそっておりていく。


 その指がなにかに触れ、引き出した。

「……このネックレスは」

もらった銀色のネックレスだ。

陛下は目を見開き、指先が震えている。


 そのまま口元を塞ぐと、綺麗な銀色の瞳から涙を流す。

「……スズ、ごめんね。私はスズに……」

乗っていた私を押し退けると、ベッドから降りる。


「陛下?」


「私は少しでてくる。

 スズはそこで休んでいいよ」

 そう言って部屋から出て行ってしまった。


 突然の変化に戸惑う。

ネックレスを見てから様子が変わった。

思い出した?

しかし、そんなに安堵した様子はなかった。

本当は思い出したくなかったのだろうか。

そう考えると、酷く落ち込む。


「……スズさん」

 その声にハッとする。またやってしまった。

陛下からは周りを忘れさせる魔性の何かでも出ているのだろうか。申し訳ない。


「シャロさん!すみません、私……!」

「いえ、それはいいんです。

 少し心配なので追いかけてもいいですか?

 スズさんも一緒に」

先程の陛下の様子を思い出すと躊躇う。

「しかし、私が居てはまた……」

 

「隠れていればいいんです」

シャロさんは悪戯っぽい頬笑みで、私を促す。


 シャロさんは部屋の前の護衛を確認すると、私にスマフォを使うように言う。

ひとりであれば窓から行けるが、私がいるためそのほうがいいだろうという判断だった。

こんなところで使っては勿体なくないだろうか。

しかし、今のところ力が減っている様子はない。


 それではとスマフォを使うことにした。


「では庭園へ向かってください」

庭園?こんなに暗い夜に?

考えていることが伝わったのか、シャロは続ける。

「シドは何かあると庭園へ行くんです」

さすが、お兄様である。



 スマフォを取り出して、メールを作成する。


 ――皇城の庭園まで連れて行ってください


 メールを送信すると、体が光り出す。

シャロさんと手を繋ぎ、光に包まれ弾けると。


 いつも通りボスンっと落とされた。

「……いたい」


 次は尻餅をつくまいと頑張ったが、やはり耐えきれなかった。

草の上らしくチクチクするし、固くてお尻が痛い。

シャロさんは平然と立っている。

どうやら尻餅はつかなかったらしい。



 庭園は月明かりがあり、意外と明るい。

100メートル程先に以前座ったガーデンテーブルがある。

そこに陛下の姿があった。


「私はあちらに行くので、スズさんはあのアーチの後ろにでも隠れてください」

シャロさんはそう言うと陛下の元に向かう。


 私もその近くにあるアーチに身を隠した。



「シド」

「……なぜサーロ兄上がこんなところに」

 盗み聞きしているようで落ち着かない。

「色々あってな。シドはなんかあったのか?」

「……」

「記憶が戻ったのか?」

 記憶が戻った?そんなことがある?

「……レオンに聞いたんですか?」

「まあな。嬉しくないのか?」

「それはホッとしているよ。

 だけれど、その間に私がしたことは消えないでしょう」


「したこと?」

「彼女に冷たくしてしまった」

「それは彼女もわかっているだろう?」

「それだけではない。

 彼女の前で……他の女性とキスしてしまった」

「……それは」

「私は浮かれていたんだ。

 その前の晩に酔った彼女が私にキスをしたから。

 会いたいと言われて、そわそわしていた。

 そこに来たんだ、あの女は」


 衝撃的な内容に驚いて頭に入ってこない。

キス?私が陛下に……?

全く記憶にない。

どんな流れでそうなったかもわからない。

 

 

 だから、私は。そう言って陛下は頭を抱えている。

「……あんな女追い返すべきだった」

陛下はずっと後悔しているのかもしれない。


 あれは記憶を奪われていたのだから、仕方がない。そう言えばいいのに、陛下は言わない。

だから、私は。私は……?

その続きが出てきそうで出てこない。



 しかし、これ以上は聞きたくない。


 アーチから飛び出すと、後ろから陛下に抱きついた。

陛下は驚いて振り向く。

「スズ……?なんでこんなところに?」

そう言ったあと、急に焦り始めた。

「どこから聞いていたの!?」

「サーロ兄と言ったところから」

本当は最初から聞いていたが、聞いていた証拠になるところを挙げた。


「……では」

「聞いた。……ごめんなさい。嫌ではなかった?」

「嫌なわけないでしょう?

 ただ、スズがショックを受けないか心配だった。

 今となっては初めてのキスがあんな女でなかったのは救いだ。スズのおかげだよ」


 あんなキス忘れてしまえばいいのに。

そう思ったところでハッとする。

なにを考えているのだろう。

これでは、私が嫉妬しているみたいだ。


 抱きついているから変な気持ちになるのだ、と慌てて離れようとする。

「どうしたの、急に」

そう言って振り返る。 


「い、いえ、なんでもないです!」

 陛下の顔を見ると安堵とともに緊張する。


「スズはあの時に私にぶつけた言葉の通り、もう関わってほしくない?」

陛下は下を向いていて表情は窺えない。

ただ落ち込んでいるようには見えた。



「あれはつい口にしてしまっただけで、そんなことは思っていません」

「まだスズを好きでいてもいいの?」

「……応えられないかもしれませんよ」

「それでもいいよ」

 陛下はなぜか嬉しそうに笑っていた。






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