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協力者



 あれから二時間ほど経った頃。


 エミール殿下は漸く私とシャロさんが待つ部屋に帰ってきた。

随分時間がかかっていたが、なにかあったのだろうか。


「……どうでしたか!?」

 殿下が口を開くのが待てずに私は詰め寄るように聞く。

「うん、それが……」

 二時間前までははっきりとものを言っていた殿下が、珍しく歯切れが悪い。

余程言いづらい事なのだろうか。

飲み物の効果がなかった?それとも悪化した?

どんどん悪い想像ばかりが浮かんでしまう。


 それが顔にでてしまっていたのだろうか、殿下とシャロさんが心配そうにこちらを見ていた。



「良い話と悪い話がある。どちらから聞きたいかい?」

殿下は眉を下げて申し訳なさそうな顔をしている。

「……では、いい話からお願いします」

殿下は頷くと、話をはじめる。


「ヴィラールの記憶の件だけど、無事に戻っていそうだったよ。飲み物を飲んでからしばらくはいたが、混乱しているようだったので本とペンを渡すと帰ってきた」

あんまり長居すると怪しまれるからね、と付け足す。



 本の中に書いてあることに気づけば、連絡があるかもしれない。


 良い話が記憶の件ということは、なにか予想外のことでもあったのだろうか……。

知りたくないが知らないといけない。


「……悪い話というのは」

「先を越されていた。私が離宮を訪れた時にはすでに先客がいたんだ」

殿下は暗い顔をして話を続けた。


「桜嬢と国王陛下だった。

 正式に婚約者にすることが決まったようだ」

……婚約者。ヴィルの。

知らない言葉のようにうまく飲み込めない。

「あの時間にか?」

シャロさんは動揺からか敬語を忘れている。


「ああ。あんな時間に国王陛下と謁見するなんて普通はあり得ない。……まあ元々非常識な女性ではあったが、なにか勘付かれている可能性もある。

 しかしいくら記憶を変えられていても、一度承諾したものは覆すことは難しい。

 これでいよいよヴィラールは動けなくなった」

 部屋に沈黙がおちる。

 誰も言葉を発することができなかった。

 


「……本だけが頼りですね」

 やっとの思いでそれだけ言う。

 ふたりは軽く頷き、殿下がテーブルに置いてある本を手に取る。

覚悟を決めたように勢いよく開くと、二時間前とは異なり中には文字がびっしりと書いてある。

「……返事が来ている」



 ――記憶は戻ったか?

 失う前のことを詳細にこの本に書いて教えてくれ。


 そう出掛ける前に書いておいた、その下に返事がある。



 ――戻りました。

 兄上、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 失う前の事も失った後の事も覚えております。

 スズとの記憶があの女との記憶にすり替えられていたようです。

 しかし、失った瞬間に桜様にこれといって怪しい動きはありませんでした。

 そのあと私が聖石を貸しました。

 転移には四角いものを使っているようでした。

 スズの事は何かご存知でしょうか?

 まだデイル帝国にいるのでしょうか?

 私のことはもう良いので、スズを兄上の力で元の世界に返してあげられませんか?

 そうすれば危害を加えられないはずです。

 お願いします。――



 半分は私についての心配だった。

なぜ窮地に追い込まれているヴィルが、私の心配をする。

なぜいつも自分が犠牲になって、私を逃そうとする。


 あの時だって、自分だけ残って私を逃した。

私はそんな方法で守られるなんて絶対に嫌だ。


 いつだったかヴィルは私に聞いた。

他の誰かと婚姻してもなんとも思わないのか?と。

それが今現実になろうとしている。

あの時は仕方ないと答えたが、今は言えない。

……結婚なんてしてほしくない。

そう思ってしまう。


 よくわからない私の気持ちはおいておくとしても私はヴィルが幸せになれない結婚は絶対阻止する。

元の世界になんか絶対に帰ってなんかやらない!

ヴィルを犠牲になんかさせない。


 そう決意をすると、ふたりがこちらを見ていることに気がついた。

殿下はハンカチを差し出している。

疑問に思って頬を触ると涙が流れていた。


「……すみません」

慌ててハンカチを受け取ると涙を拭う。


「大丈夫かい?ヴィラールはこう言っているがどうする?」

殿下は心配そうな顔をして尋ねる。


「私は帰りません、絶対に」


「そうか、これにはどう返す?」



 ――四角いものというのは手のひらサイズ?

 絵に描いてくれ。色も教えてほしい。


 聖石を貸す時、"決まり"をした?――


 殿下が私がいう通りに書いてくれる。


 無理やり記憶を入れ替えられた人に対して、意地悪だろうかと思いつつも聞かずにはいられない。

知らないほうがいいこともある。

そうは言っても私の気持ちはモヤモヤしてしまうのだ。

せっかく字でわからないように殿下に書いてもらっているのに、気付くかもしれない。



 ――まさかスズがそこにいるんですか?――


 やはり気付かれてしまった。

だが、答えないところを見るとグレーだろうか。

殿下とシャロさんは何のことだかわからないので、不思議そうな顔をしている。


 ――絵は?――

それだけ返してもらう。


 すると、本にサラサラと絵が描かれていく。

わかりやすい絵で一目みて携帯電話だとわかった。


 ――色は青色だった――


 ああ。

やはり桜様の協力者はセルゲイ殿下だ。

 


 ――ありがとう。

 他に桜様は何か言っていた?――


 ――記憶を入れ替えられた時、これで4人目だと。

 スズはそこにいるんですか――


 4人目?

陛下とヴィル、セルゲイ殿下、ユティアーム殿下だろうか。


 ――ありがとう。

 スズはいない。お前には婚約者がいるだろう。

 記憶が戻ったことを悟られるなよ――


 ――はい――



 ヴィルからの返事はそれだけだった。

少し可哀想だったかと後悔するが、どちらにせよ今はどうしようもない。


 そう思って切り替えるとふたりと向き合う。


「おそらく協力者はカリストス王国第二王子、セルゲイ殿下です。しかし、記憶の件には使われていないとなると、ふたつの可能性があります」


 私と同じように別の秘術を持っているか。

もうひとつは別の協力者がいるか。

そういうと、ふたりは難しい顔をして考え込む。


「別の、というと秘術を持つデイル帝国の者しかいなくなる」


「もしくは知らない秘術があるか、です」

 殿下の言葉に付け足す。


 デイル帝国で秘術を持つのは、陛下とシャロさんのふたりだけだ。

疑いたくはない。


「そろそろ時間も遅くなってきたので、一度デイル帝国に帰ろうと思います。シャロさんにもついてきていただきたいのですが、いいですか?」


 シャロさんはわかりました、と頷く。



「こちらでも出来る限り調べておこう」


「ありがとうございます。

 本とペンは預けておきますね。

 何かあれば、聖石で呼んでください」


 それでは失礼いたします、そういってスマフォを出すとメールを送信した。


 ――私とシャロさんを陛下の元へ連れて行ってください


 ネックレスでは執務室へ行ってしまう。

陛下がいなければ意味がないのだ。

もうあまり時間がないのがわかったのだから。






 

 

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