ふたりの兄
「どうしたら……」
協力者がいるとなると、迂闊に動けない。
私に仕掛けられたらもうふたりをなおすことも、ふたりを思い出すことも出来なくなる。
そう考えると、背筋が凍る。
「心当たりはないのかい?」
そう言われても、ひとりなのかもわからない。
私が知っている中で秘術を持っているのは4人だ。
危害を加えられたといえば、ユティアーム殿下だが桜様には興味がなさそうだった。
利害の一致があればわからないが。
その弟のセルゲイ殿下は、なにしてもおかしくない雰囲気ではあった。
が、関わりも少ないし確証はない。
ギルバート殿下は除外していいだろう。
陛下のお兄様であるシャロさんも陛下に危害を加えることはしないだろう。
「私が知っている秘術が使える4人の中で、疑っているのは2人です」
「4人?」
それを聞いて殿下は首を傾げる。
「はい。カリストス王国のユティアーム殿下、セルゲイ殿下、ギルバート殿下と……シャロさんです」
シャロさんは言ってもいいのだろうか。
どこの国とも言っていないので許してもらいたい。
「……シャロ?
もしかして、デイル帝国の皇帝の兄のこと?」
何と言っていいか分からず、固まる。
本当の名前は知らないが、気づかれるなら近い名前なのかもしれない。
「ああ、心配しなくても大丈夫だよ。
彼の共犯は私だから」
……共犯?
まさか、あちらの世界に転移させたのは。
シャロさんがずっと隠していた協力者の存在。
「……協力者だったのですか?」
「まあ、そうだね。
兄のように慕っていたから」
思い出したのか、目を細めると懐かしそうに笑う。意外だった。
他国の王子同士だともっとギスギスしているものかと、思っていた。
「……彼もここに呼ぶ?」
殿下は驚くようなことを言い始めた。
「私の持つ聖石はきっと役に立たない。
念には念を入れたほうがいい。
貴女もなにかあるのだろう?」
聖石は離宮で使えない。
それはわかるが、なぜ知っているのだろう。
背中に冷や汗が流れる。
「秘術の話を始めてから、ポーチに18回は視線をずらした。そこに何かあると見て間違いないだろう?」
数えられて……?
というか無意識で18回も見るなんて驚きだ。
「……はい。実は秘策のような、いざという時のためのものはございます」
王族ってこわい。
陛下もエミール殿下もギルバート殿下も、口に出さずとも、全て理解してしまうところがある。
「やはり呼ぶか?」
少し考える素振りをすると、再びいう。
「しかし、ご迷惑になるのでは……」
「それは心配しなくていいだろう。
あの方は弟君が誰より大切なんだ」
弟のために、自分を犠牲にするほどだ。
弟のためだと言われたら、飛んできそうである。
……!?私陛下だとはいっていない!
「なぜそれを!?」
「薄々そうかと。だから鎌をかけてみた」
本当に油断ならない。
私は隠し事に向いてないのかもしれない。
ため息を吐くと、もうこの話はやめようと話を戻した。
「しかし、どうやって呼び出すのでしょうか?」
「それは役立たずの聖石で連れてくるんだ」
離宮で役に立たないだけで、決して役立たずの聖石ではない。
「まあ、見ててよ」
エミール殿下は濃い黄色のブレスレットを見えるように出すと、目を閉じる。
私に教えていいのかと思わなくもないが、じっと見つめる。
――光が現れてパァンっと弾ける音がしたかと思うと、その床にシャロが座り込んでいた。
その顔は完全に戸惑っている。
「お久しぶりです」
エミール殿下はそれにはお構いなしで、挨拶をしていた。
「……なにしてるんですか、エミール様!
誰かに見られていたら、どうするんですか!」
シャロさんは状況を察したのか、ハッとするとエミール殿下に怒っている。
シャロさんは無理やり連れてこられたことではなく、人が消えた所を見られてないかが心配らしい。
……やはりとても良い人だ。
「まあ、落ち着いてください。
そんなことより、弟君の危機ですよ」
心配をそんなことよりと言っている。
シャロさんと陛下は本当に親しいらしい。
今は王族でなくても、丁寧に話している様子から慕っているのがわかる。
「シドになにかあったのか!?」
陛下のことをシドと呼んでいたのか。
再会の時はよそよそしかったので、知らなかった。
エミール殿下はシャロさんと再会できたことを喜びながら、記憶を変えられたこと、ヴィルも同じことを説明している。
……私のことには、気づいているのだろうか。
「で、まだ秘術は持っていますか?」
「……まあ、廃嫡されたわけではないし」
「では、彼女に力を貸してあげてほしい。
ヴィラールの婚約者なんです」
婚約者にはなっていない。
……しかし、この状況はなんとも言えないな、と改めて思う。
告白してきたふたりのお兄様とこんな形で話すことになるとは思わなかった。
「……ん?」
シャロさんは私の顔をまじまじと見ている。
私のドレスは修羅場を乗り越えボロボロだが、顔の化粧は保てているはずだ。
素顔しか見てなければ、分からないかもしれない。
「……お久しぶりです、シャロさん。
スズです」
そういうととても驚いた顔をしている。
女心はなんだか複雑だ。
「なぜ、スズさんが婚約者?」
……なんと説明すれば良いのだろう。
もうそこには触れないでほしい。
そう思っていると、シャロさんは続ける。
「そんなわけないでしょう。
シドが振られるなんてあり得ない」
すぐ旅に出たはずなのに、なんでそんなことを知っているのだ!!
「えっ、弟君は彼女が好きなんですか?
それはそれは。ヴィラールが焦るわけだ」
エミール殿下はおもしろい話を聞いたとばかりに食いつき、笑っている。
八方塞がりの状況に頭を抱えたくなったが、これだけは言っておきたい。
「今はおふたりとも桜様が好きです!」
思わず声が大きくなってしまい、慌てて口を押さえた。
それを見てふたりは申し訳なさそうな気持ちと嬉しそうな気持ちが混ざったような顔をする。
なぜ嬉しそうなのか分からない。
なんだか居心地が悪く、咳払いをして話を変えた。




