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離宮にいるクマ




 またもや、ボスンっとなにかの上に落ちる。

携帯電話での移動はなぜか雑な着地だ。

お尻に優しくない。


「いたた……」



 目を開けると、豪華な部屋のソファーに座っていた。


 ヴィルの元にと願ったのに、ヴィルはいない。

そして使用人がいてもおかしくないが、誰もいない。

 

 どうしたものか、と頭を悩ませる。

とりあえず部屋で待っていれば帰ってくるかもしれない、とソファーの背に隠れて待つ。



 もう外は夕方のようで、空が夕暮れに染まっている。


 このままだと今日はとてもハードな一日になりそうだな、と考える。

陛下とヴィルはどうしているのだろうか。

陛下は何を言っていたのだろうか。

桜様は無事に城を出ただろうか。


 考えても仕方のないことが頭を巡る。



 ソファーに隠れてから、2時間ほど経っただろうか。


 部屋の主が帰ってきたのか、廊下の方で物音がし始める。


 部屋の扉が開き、中に入るとその人は足を止めた。


「そこに隠れているのは、誰?」


 気づかれている。

しかし、ヴィルとは違う声だった。


 姿を現していいものなのか悩むが、騎士が出てきても困る。


 私は立ち上がり、姿を見せる。

立っていたのはやはりヴィルではなかった。


「……貴女はもしかして」

 金髪で黄色の瞳をした男性は、私を見て目を見開いている。

どこかヴィルに似た雰囲気があるところから、兄弟の誰かだろうか。


「私はアリシャール王国の王太子、エミール・ミシャリオス。貴女は?」


 王太子!ヴィルのお兄様!

前に陛下が頭の切れる王太子と言っていた方だ。

正直に名乗っても良いのだろう。

「鈴原鹿乃と申します。

 驚かせてしまい、申し訳ございません」


「やはり貴女が"スズ"なのですね」

殿下は少し悲しそうに呟いている。


「私をご存知なのでしょうか?」

「ヴィラールから聞いたんだよ。

 婚姻したい相手がいると。

 まあ今は会話ができる状態ではないが」


 会話ができない?

 ヴィルは今どうなっているんだろうか。

「ヴィルは、今……」

「今は離宮に閉じ込められている。

 戻ってくるのが一歩遅かったんだ」

 ヴィルが閉じ込められている……?

 なぜ。どうして。

 しかし、それならどうにかしないと。


「エミール殿下。私はヴィルを助けたいのです。

 詳しく教えていただけませんか?

 お願いいたします!」


 頭を下げて必死に頼む。

エミール殿下は眉をさげ困ったような顔してしばらく目を閉じて、開く。



「……貴女はヴィラールと婚姻する気があるのかい?」

 予想外の問いだった。

私は答えられない、答えを持ち合わせていない。

ずっと結婚する気はなかったのだから。

王族と結婚すれば、苦労することがたくさんあるからずっと嫌だと思っていた。

それに結婚するなら好きな相手ではないと嫌だ。


 だから、何度ヴィルに好きだと言われても頷かなかったのだ。



「……正直少し前の私なら、ないと言ったと思います。しかし、今は言い切ることができません」

きっとこんな答えは求められていない。

しかし、嘘はつきたくない。



「そう。……では、協力しよう。

 ヴィラールのためにも」

 殿下は覚悟を決めた様子笑うと、まずは座って話をしようとソファーを勧めた。


「私が知っている事を教えるよ」


 ヴィラールは条約の件でアリシャールに帰ってきたかと思うとすぐにデイル帝国に戻った。

 

 それからひと月過ぎた頃だろうか、カリストス王国に救国の乙女が現れたと情報が入った。

それを知った国王は必ずヴィラールを婚姻させろと、私に迫ったんだ。

私はどうにも納得できずかわしていたのだが、半月後にその女性がこの国を訪ねてきて国王に言った。

ヴィルと婚姻したい、と。


 それからは国王はヴィラールのいるデイル帝国に使者を送り、救国の乙女である桜嬢と婚姻することを求めた。

しばらくしてから、ヴィラールは血相を変えて戻ってきた。

聖石を使うほど急いで。

「私には婚姻したい方がいるのでお断りします」と。

国王は話を一切聞かず、離宮に閉じ込めた。


 私はすぐに離宮に会いに行ったが、監視がいるため迂闊なことは話せない。

 ただ「スズと婚姻したいんだ」とそれだけ。


 それからは桜嬢がたまに訪れているようだった。

デイル帝国にいるので、頻繁に訪れることが出来る距離ではないはずだが。

 

 閉じ込められて今日で5日目。

あの翌日である2日目からヴィラールの様子が変わってしまったんだ。


 ――だからもしかしたらそのうちに離宮から出されるかもしれない。


 殿下はそう言って話をまとめる。


 ヴィルの様子が変わった。

その詳細を言わなかったのは、私に気を遣ってだろうか。


「確認してもよろしいでしょうか?」

 殿下はなにを聞かれるのか分かっているように。困り顔をして頷く。

「ヴィルは、私を忘れていましたか?

 桜様が好きだからとおっしゃいましたか?」


「……ああ」

 小さい声で短く一言だけで返事をした。


 まただ。

ずっと一緒にいたヴィルまでもが私を忘れた。

なぜこうなってしまったのだろう。

ヴィルはずっと好きだと言ってくれていた。

 

……私を忘れて桜様を好きだと思っている方が、いっそ幸せなのだろうか。

 私みたいな好きになってくれる保証がない者より、好きと言えば好きと返ってくる方が。


 陛下とヴィル。

私の中でそれほど大きい存在だったのか。

そのふたりに忘れられて、マイナス思考は止まらない。



「そんなに驚かないんだね」

 殿下に声をかけられて、ハッとする。

ネガティブな感情に囚われそうになっていた。


「……2人目ですから。

 そうではないかと、予想しておりました」

何事もないかのように取り繕う。


「2人目?」


「はい。もうひとり、私を忘れた人がいます」

 それを聞くと殿下はなにか気づいたように、考え込み始めた。


「……。それ、詳しく教えてほしい」

 殿下は真剣な目をして迫ってくる勢いだ。


 私は誰かは明かさなかったが、レオン様に聞いたことを話した。


「……まさか、聖石をそんなことに」

 殿下は少し顔色が悪くなっている。

確かに普通の人はそんなことに使わない。

しかし、便利なものは誰かに悪用される危険も伴っているのだ。


「では、やはりヴィラールは……」

 そう呟くと、顔をあげてこちらを見る。


「記憶を変えられる前に、聖石を渡すとは考えられない。それにあの離宮では聖石が使えないようになっているんだ。……もしかすると、他の秘術を使われたのでは?」

 それは考えなかった。

言われてみれば、ヴィラールがそんなに簡単に貸すとは思えない。

ましてや、自分が閉じ込められている状況で。


 ……桜様には協力者がいる。



 そう思うと辻褄が合うのだ。

大変なことになってきた、と思ってしまった。






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