頼みのクマ
泣いていたのがバレないように、目を冷やしながら廊下を歩いて先を急ぐ。
聡いのですぐに気づかれるかもしれないが、しないよりかはましだろう。
部屋に着くと、護衛騎士にはひとりにしてもらい声をかけた。
「入れ」
返事をもらい、すぐに入って扉閉めた。
あまり公にできる存在ではないからだ。
「スズ様、どうかしましたか?」
外行用の態度で用件を尋ねられたので、私がひとりだと言うと言葉遣いを崩す。
「で、なんだ?」
「ギルバート殿下にご相談があってまいりました。お忙しいところに申し訳ありませんが、貴国にも重要な案件でございます」
こちらが態度を崩すわけにはいかない。
これからすることは褒められたことではないのだ。
「……言え」
ギルバート殿下は姿勢を正し、眼光鋭くする。
「まず、これからお話することは、決して口外されないようお願いいたします」
「約束しよう」
ポーチから先程用意した簡単な誓約書を取り出すとサインを求める。
国の秘術に触れるため、念には念をいれておく。
殿下は嫌な顔ひとつせず、サラサラとサインしてくれた。
それから話し出す。
桜様から聞いた『六つの宝石と救国の乙女』の本について。
その話の中で結ばれる六人について。
そのうちのひとりである皇帝陛下の現状。
同じくヴィルの聖石についてと現状。
少しでも手掛かりを掴みたくて。
殿下ならば、違う視点でなにか見つけてくれるのではないか、と頼ったのだ。
聖石について話すのは気が引けたが、誓約書も用意した上詳細は言っていないので許してもらいたい。
「……」
話を聞いて殿下は黙り込むと、脚を組む。
真剣に考え込んでいるようだ。
「なあ。あの携帯電話を持っているか?
確認したいことがあるんだが」
スマフォなら一応持ってきた。
急いでポーチから出すと、ロックを開いて渡す。
殿下はその画面を見て、眉を顰める。
「……確実ではないが、可能性は高い。
それでもいいか?」
「お願いします!」
私ではなにもわからなかった。
少しの可能性でも知りたい。
「今ここに5つのクマがいるだろ。
これは6人のうちの5人を表してるのではないかと思う」
私が電波マークだと思っていたあのクマだ。
そう言われてみれば……。
緑、銀、紫、赤、黒と並んでいる。
緑はヴィル、銀が陛下、赤がカイル、黒はユティアーム殿下。
紫は……もしかしてレオン様?
瞳が紫だったような気がする。
順番は出会った順だろうか?
「となるとだ。俺が秘術でアリシャールに飛ばすのは簡単だが、その後が問題になる。
だが、これが正しくセルゲイ兄様に出会えば携帯電話が完成すれば……わかるだろ?」
完成すれば秘術と同じように自分の身を守るすべになる。そして国の移動もできる。
なおかつ、陛下を元に戻す事も出来るかもしれない。
「それと、もうひとつ。
本当に桜という女がその物語の主人公なのか、という疑問だ」
「ここに喚ばれた、ということはそうなのでは?」
「いや、そうとも言えないだろ。
物語の中での事件を解決していないんだ。
ひとつ狂えば、すべて狂う。
それが物語というものだろ?」
公爵領の事件は私が解決してしまった。
それによって、人々の認識が変わる。
デイル帝国の救国の乙女だと呼ばれる。
その事件ひとつとっても、物語はガラリと様相を変えるだろう。
私が成り代わってしまった可能性も出てくる。
このスマフォの存在も可能性を高くする。
桜様が皆に出会っているとしたら持っていてもおかしくないのに、聖石を使っている。
「桜様がそれに気づいたとしたら……」
「ああ。あの行動の意味も理解できるだろ。
だが、お前はハーレムを望んでないんだろ?」
全く望んでいない。
逆ハーレムなんて全力拒否である。
「絶対遠慮したいですね」
「えー、ハーレムいいじゃないっすかー!」
スイさんが自然に入ってくるから驚く。
「皆を平等に愛するなんて可能なんでしょうか。
それに王族の方々がいますが、子はどうやってわけるのでしょうか?」
「……それは、特徴が出るだろ」
殿下に目を逸らされる。
「スズ様ー、生々しい話をしないでくださいよー」
なまなましいっ!?
現実的な話をしたまでですが!!
「現実的に困るでしょう!」
私は間違ったことは言っていない!
「殿下の夢を壊すのはやめましょーよー」
「……おい。俺は望んじゃいねえよ」
殿下は従者相手だと更に口が悪い。
「おーわー!にっげろー!!」
従者は怒られると嬉々として逃げて行った。
殿下はため息を吐くと、こちらに向き直る。
「で、カリストスに行くか?
それともアリシャールか?」
「カリストス王国にお願いします」
一か八かではあるが、可能性があるなら賭けたい。
そのほうがふたりを助けられる確率が高くなる。
「わかった」
そう言って携帯電話でメールを打ち、送信ボタンを押した。
「ギルバート殿下、ありがとうございます」
途端に光に包まれ、目が開けていられなくなる。
「気をつけろよ」と殿下の声が聞こえたと思うと。
ボスンっと柔らかい何かの上にお尻から落ちた。
「いたたた……」
柔らかいといえど、衝撃で痛い。
「ここは一体……?」
周りを見渡すと、藁、藁、藁。
蔵のように薄暗い場所に藁がたくさんある。
一体どこに落とされてしまったのだろう。




