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シロクマside 3


 腕を引き、部屋を目指して廊下を歩く。


「陛下?どうしました?」

「どうして、スズは鈍いの」

 いや、鈍いくらいがいいのだろうか。

下手に好意に気づかれても困るかもしれない。


「普通だと思うのですが」

「……私は今日初めて、あんなにも心配する彼の気持ちが分かったよ」


 スズは意図せずに、男の心を奪う。

 だから、男が近づくだけで不安で不安で仕方なくなってしまう。


「私はそんなにも頼りないですか?」

「違うよ。スズは可愛くて魅力的すぎて。

 男を惹きつけるのが心配なんだよ」

 灯に群がる虫のように惹き寄せてられてしまう。


「信じてないでしょう?……だから困る。

 男には少し素っ気ないくらいでいいよ」

 本当にそうしてもらいたい。

男に気遣いなんて不要だ。




 そんなことを話しているとあっという間に着いてしまった。


 スズが部屋に入ってから戻ろうと待っていると、中にいたらしい侍女が目を輝かす。

「すぐに!準備いたしますので!

 陛下はこちらでお待ち下さい」

 

 絶対に勘違いをされているのがわかる。

夜の11時にふたりで部屋に戻れば、そう勘違いしてしまうかもしれない。


 大人しく座って待ってみた。


 しばらくして、侍女が出てきたかと思うと。

「私は朝まで、いえ、呼ばれるまでは部屋にはいりませんので!ご安心ください!

 陛下の想いが伝わって良かったです。

 では、失礼いたします」


 やはり勘違いされている。

が、訂正する前に嵐のように去っていってしまった。


 あの侍女は私がドレスや装飾品を贈ったのを知っている。気持ちを察していたのだろう。

この間の夜の訪問もあの侍女の計らいかもしれない。


 そんなことを考えていると、スズがでてきた。

ハッとしたのを見ると、私が居ることを忘れていたのだろう。


 可愛らしい寝衣を着ているのに羽織り物がないせいか、お風呂上がりだからなのか。

普段見ない姿に心臓が早鐘を打つ。


 スズはフェリスがいないとわかると、自分で羽織り物を探して羽織っている。


 スズが戻れば帰るつもりだったが、滅多にないふたりきりの状況に帰りがたくなった。


 せっかくだからとお酒に誘うとスズはすぐに誘いにのってくれる。

ふたりきりで男に誘われたらのるなと釘を刺したかったが、私がした手前言えない。


 スズには男に対する危機感がない。

だからこの格好でも出ようとする。

自分が彼のような心配性になりそうだ。



 ソファーに並んで座ると、いつもより近い距離にドキドキする。


 スズにおすすめのさくらんぼのお酒を注ぐと、おいしそうに飲んでいた。

「それなら良かった。私のお気に入りだからね。

 スズに貰ったお酒に近いでしょう?

 嫌な事があっても、スズを思い出して幸せな気分になるんだよ」


 そう言うと、どうしていいかわからない顔をしてなかったことにされる。

少し落ち込むが顔には出さない。


 スズのようだと思うから、好きだとはなおさら言えない。


 スズは私が飲んでいたお酒を、同じグラスで口にした。

間接キスになるのだが、気づいているのだろうか?


 アルコールが強かったようで、渋い顔をしているスズにクラッカーを差し出す。


 そのまま食べて、というとスズは躊躇いながらも、ぱくりと食む。

その姿がとても可愛くてもっと手ずから食べさせたくなったが、断られてしまった。


 残念だけれど、スズがおいしそうに飲んで食べてをしている姿を見ているだけでも幸せな気分になる。


 しかし、かなり飲んでいるような気がするけれど、大丈夫なのだろうか?


「スズ、そろそろお酒やめて水にしよう?」

 そういってもスズは、まだ飲みます!と聞かなかった。スズは意外と飲めるらしい。


 心配だけれど、新たな一面を知ったようで嬉しく感じた。




 しかし、それからのスズはふにゃんふにゃんして赤くなっていた。

会話はできるし意識はあるけれど、何言ったのかきっと明日には覚えてない。


 そう思うと悪い考えが浮かぶ。


「ねぇ、スズ。

 ヴィラールとしたって本当?」

 なにかは言わない。

 きちんとかかってもらはなくては困る。


「ふぇ!?にゃんでひってるの!?」

 呂律がまわっていないし、いつもみたいに他人行儀ではない喋り方が新鮮だ。


 赤い顔をさらに赤くして唇に手を当てている。

スズは簡単に引っかかってくれた。


 ……その先は聞かないほうがいい、そう分かっているのに口は動いた。

「……キス、したんでしょう?」

唇に手を当てたのは、そういうことだろう。


「……あれは、ゔぃるがきまりだってゆって。

 はじみてにゃのにいっぱいすゆし、つぎはねぼけてゆし」

 ……ほら、聞かないほうが良かった。

 知らないほうが良かった。

 胸が苦しい、ムカムカする。

 グラスを手に取ると、不快感を流すようにお酒を飲み込む。


「……キスだけ?」

「にゃ?そいねと……あ!おひめしゃまだっこ」

「……そう」

 添い寝。お姫様抱っこ。キス。


 どれも私はしていない。

彼はあれでも一応王子なのだから、そういうことはしないだろうと高を括っていた。

きっとスズはキス以外も初めてだったのだろう。

 


「……スズはヴィラールをどう思っているの?」

 酔っている相手に卑怯だ、そう思いながらも聞いてしまう。

「うんー、かっこいい、やしゃひい、たのひい、

 あまい、きしゅもやしゃひい」

 優しい、キス。イライラして余裕がない。

「あまい?」

「あまいことばいっぱいゆう」

 私は言えてない。


「でも、へいかも、きれー、やしゃしい、あんしん、たのし、あまえたい」

 私?

 安心とはいい意味だろうか……

 甘えたい、とは?

「へいかは、いつもわたしにあまい。

 だかりゃ、べっどにはこんでくれる?

 ねむたいにょ」

「……ふふ、仰せのままに」

 そう言うとソファーに座るスズを抱えて、お姫様抱っこをする。


「たかい、しゅごい、しゅごい」

 スズは怖いのか服を掴んでいる。

彼より身長が高いぶん余計に怖いかもしれない。

そう考えて、また少し落ち込んだ。



 寝室に入りベッドに座らせると、目線を合わせるために膝を折る。

「へいかもいっしょねる?」

「いや、それはスズの意識がある時にするよ」

 きちんと拒否できる時でないと、起きて嫌でしたと言われては辛い。


「きしゅは?」

「……それもスズの意識がある時にね」

 意識がある時でないと、駄目だ。

 何言ってるかわかってないのだから。

 自分に言い聞かせるように頭で繰り返す。

「ふふふ、へいかおやしゅみなしゃい」

 スズはいきなり私の頬を両手で挟むと、唇に唇をくっつけた。


「きしゅ、おれい」

 驚きすぎて、言葉が出ない。

私は皇帝を務めるのに精一杯で、色恋には縁がなかったのだ。初めてのキスをスズからするなんて、思いもしなかった。


「わたしのせい、へいかずっとげんきにゃくて、ごめんなしゃい。わたし、ちゃんとかんがえてりゅ。まっててくれる?」


 支離滅裂ではあるがいいたいことはわかる。

スズは私のことなど気にしてないと思っていた。

ずっと他人行儀な態度で、彼に話すようには話してくれない。縮まらない距離があった。


「待つよ、いつまでも。

 スズと一緒にいたいからね」


 そういうと、スズはころんと横になり、すぐに寝息たてていた。



 明日にはきっと忘れているだろう。

それは寂しいけれど、スズにとってはいいのかもしれない。

きっと、キスをした自分を責めてしまうから。



「おやすみ、スズ」

そう呟き、横に水を置いて部屋を後にした。




 

 

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