シロクマside 2
応接室に着くと、王太子に告げる。
「スズは、誘拐するような君にはあげないよ?」
王太子は眉を寄せると、笑顔を貼り付ける。
「取り返しのつかない事をしたとは思っておりますが、それはスズが決める事です」
悪びれずに言いのける。
「君にスズは必要ないでしょう?」
「想う人に側にいてほしいと思うのは普通のことだと思いますよ」
「誘拐犯がなにを言ってるんだろうね?」
そう言ったところでスズが入ってくるのが見えたが、口は止まらない。
言い合っていると、クマの従者のふざける声が聞こえてくる。
「いやー、スズ様は人気者っすねー。
で、誰が好きなんですか!言っちゃいましょ?」
その言葉にドキリとする。
聞きたいが聞きたくない。"ヴィル"と紡がれたら。
「誰も好きではありません!
そもそも私の事を好きだと言っているのは、ヴィルだけですから!」
好きではない、それに安心するもやはり"ヴィル"は出てくる。
彼が戻ってくるまでは、そう思っていた。
諦めていると言った手前卑怯な気がしたから。
しかし、もうそうも言っていられないようだ。
悶々と考えている間に、スズは王太子と話してからクマを元に戻しに行く。
スズはクマに心を許しているように見えて、ついつい目で追ってしまう。
すると、王太子が直球の質問をした。
「スズは、ギルバートと仲が良さそうだけど異性として見ているんですか?」
「い、いせい?
まだ15歳でしたよね?」
全く異性とは思っていないことを確信した。
そのことにホッとした束の間、スズの顔が曇ったことに気がついた。
スズはその前従者に聞かれた時も、何故か怒っていた。探られていると思った?
救国の乙女だからだと思った?
私は慌てて否定した。
「スズ、私は違うからね。
大切に思っているだけだよ」
と言うが、伝わっていない。
それがもどかしくて口から言葉が滑り出た。
「ねぇ、スズ。彼が戻ってきてから言おうと思っていたのだけれど……私はスズが愛しくてたまらないみたい」
なんて陳腐な告白だろうか。
しかも、前置きもなく唐突に言うことではない。
スズは意味がわからないように放心していた。
こんなはずではなかったのに。
これではいけないと焦り、さらに続けた。
「救国の乙女になるのならば諦める理由もない。
本気でスズを愛してもいい?」
先程のものと大差ない陳腐さ。
焦れば焦る程言葉ではうまくいえず、後悔する。
が、スズの反応は先程と違い、顔をこれでもかと赤くして視線を彷徨わせている。
「私!レオン様を呼んできます!」
そう言うと走って逃げていった。
「きゃあー!はーずーかーしーいー!
って感じっすかねー?殿下」
「……いや、あれは違うだろ」
「卑怯な手を使ったから怒りで赤くなって逃げた可能性も……」
「「それはない」」
クマと従者は王太子の言葉を、息ぴったりで否定している。
本当のところどうなのだろうか。
「しかし、雑な告白でしたよね?」
「雑?本心をそのまま言ったからこそ、伝わったのでは?」
人の告白を雑とは、よく言える。
「気のせいじゃないですか?
僕だったらもっとうまく伝えますよ」
「では、今ここで言ってみたらどう?」
「スズがいなければ意味がありませんから」
「そう?しかし、廃嫡してもらうならもうスズに伝える機会はないね」
「残念ながらスズは会ってくれるそうですよ」
図太い神経をしているところはあの女そっくりだ。
「君にはあの婚約者がお似合いだと思うよ?」
「それは陛下では?」
「あり得ないな」
あんなものと婚姻なんて虫唾が走る。
思えば出会いから最悪だった。
最初からシドランと呼ばれるのも不快。
先触れもなく訪れ、喚く品のなさ。
迷惑を考えず、執務室に入り浸り。
あろうことか私をべたべたと触ると抱きついてくる。
どう考えても、あり得ない。
しかし、スズと一緒に戻ってきたレオンは、私はあの女と婚姻するのだと未来の話を聞いたという。
しかも、他5名の夫がいる。
その中には彼の名前もあった。
スズはこれを聞いてどう思っただろうか。
そうなるとスズは誰と婚姻するんだろうか。
「あり得ない話だ。何があってもそれだけはない」
例えスズが誰かと婚姻したとしても。
「スズ、私はスズ以外に心を奪われることはないと断言するよ」
さらにしっかりと否定しておく。
また顔を赤く染めてくれる。
「……陛下はたくさんの人の心を奪っています」
「その中にスズは入ってないんでしょう?」
「……まあ、綺麗だとは思いますが」
入っていないのはわかっていたことだ。
……顔、ね。
それでは、と顔を近づけて目を見つめる。
スズはすぐに陥落した。
今までこの顔は邪魔なものだと思っていた。
この顔で感謝するのは初めてのことだ。
スズはぶつぶつと会話をしている王太子と弟の方に逃げていく。
どうやら別れの挨拶をするようだ。
これであの王太子から、解放されると思うと安堵する。
「そうなんですね。では、道中お気をつけてお帰りくださいね」
あまりにも別れを惜しまない言葉に驚くと同時に、それで良しと太鼓判を押す。
が、従者が余計なことを言った。
「さすが、スズ様!少しも別れを惜しんであげないところが……本当に、ぷははっ
どんどんやっちゃっていいっすよー!」
そんなことを言われて、何もいわない訳にもいかないスズは付け足す。
「別れは寂しいですが、また会いに来るとおっしゃったので……」
期待させるようなことを言っていた。
弟のほうも呆れた顔をしている。
もうこれ以上は勘弁してほしくて、引っ張るように部屋を出た。
スズといると余裕がない。
引っ張られながらも弟のほうには、しっかり挨拶をしていた。
王太子とは違い、恩人のため扱いが違うらしい。




