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紺クマの策略とクロクマ



 陛下が許可したため、私と紺クマはソファーに腰をおろす。


 レオン様とスイさんはそれぞれ主の側に控えていた。



「で、この数時間の間になにがあったの?

と聞きたいところだけれど置いといて。

そのクマはなに?

まさかまた抱っこした、とか言わないよね?」

陛下がヴィルのようなことを言う。


 抱えはしたが、抱っこはしていない。

首を振って否定し、紺クマに自己紹介を促す。


「カリストス王国の第三王子、ギルバート・カリストスと申します。この度の件は、我が国の者の仕業の疑いがあったため、馳せ参じました。誠に申し訳ございません」


 やはり頭がいいのだろう。クマのくだりはなかったことにしている。


「ふーん、なぜ君が?」

 陛下は訝し気に問いかける。


「……スズ様は私の部屋に現れたので、匿っておりました」

 間違ってはないが、端折りすぎでは?

まあ、そうとしか言えないかもしれないが。


「では、スズを誘拐したのは誰?」

 単刀直入な問いだ。


「……我が国の王太子だと思われます。

 しかし、証拠はございません」

 皇帝陛下を相手にしっかり受け答えをしている。

将来有望な殿下だ。


「証拠がない、ね。国の秘術でも使ったのかな?」


「その疑いはありますが、確かめる方法はございません」

 陛下は慎重に見極めている。



「ところで君は表に出ていないと思うのだけれど、どうして?」


「私は国で忘れ去られた第三王子と呼ばれ、軟禁状態のため出ておりません」


「その理由は?」


「5年前国王様の正妃である王太子のお母様に無礼を働いたため。と聞いております」


「……嵌められたということ?」


「おそらく。しかし、そちらも証拠はございません。ですので、まだ生きているのかと」

 そんな事情があったとは。

王族は少しの油断もできないらしい。

あの王太子はかなりクロだと思われた。




「こちらの国としては、どうにか証拠を掴みたい。

 なにか思いつく方法はない?」


 国の秘術が関わると手出しが難しい。

陛下は藁にもすがる思いで殿下に尋ねた。

また私が拐われたらたまったものではない。



「ひとつだけ。逆にこちらが秘術を使い、自白を待つ方法です。幸い、私の手元にそれがあります」


「軟禁状態だったのに?」


「紛失したと報告し、私の従者に預けておりました。国の者は従者の存在を知らないので、疑われもしませんでした」


 15歳でこんなに用意周到とは恐れ入る。

疑いをかけられた時は10歳だ。

あの王太子は自分より出来る人間だと気づいて、排除しようとしたのだろう。


 陛下も感心したように殿下を見ている。


 

「詳細は伏せますが、偽の情報を流して誘導します。動きがあれば、あとは陛下にお任せします」


「では、それでお願いするよ」


「はい。疑念が残らないようスズ様に証人になってもらいたいので、お借りします」


 そういって部屋の隅に行くと、スイさんが懐から風呂敷のような布を出すと私たちを隠す。



「これって繋がった履歴とか残らないんですか?」

 声は聞こえるので言葉を濁しながら、疑問に思ったことを口にする。


「残らない、スズ様のは違いますか?」

 丁寧な言葉遣いにムズムズする。


 自分のスマフォを出して開いてみる。

いつも履歴が残る電話マークを探し、押してみると黒いクマの履歴が出てきた。


「私のは出てくるみたいです」

「では、まどろっこしいのはやめてこれを使いませんか?陛下のお許しがでればですが」


 私は布から出て、陛下の隣に座る。


「あの、これを押すと犯人に繋がると思うのですが、どうでしょうか?」

 スマフォの画面を見せながら言うが、我ながら通じるとは思えない説明だ。


「ては、応接間に呼び出して待たせている間に押すというのは?」


「警戒して出ない可能性もありますが、やってみる価値はあると思います」

 殿下がそう答えると、レオン様が動く。


「では、用意ができ次第私は王太子殿下に声をかけ、桜様を行かせないよう相手をしておきます」


「早い方が怪しまれないだろう。

 もう夜だが仕方ない。今すぐに実行しよう。

 用件は公爵領の件とでも言ってくれ」


 チラリと見た時計は8時半をさしていた。



 ****



 皆がそれぞれ、動く。

私と陛下、紺クマは応接間の隣の部屋で待機した。


 予め応接間の調度品を動かして、中の声が聞こえるようにしておいた。

これで電話をかけるタイミングを図る。


 スイさんはここだけの話、諜報活動もしているそうなので、応接間に忍び込むらしい。



 レオン様が計画通り呼び出しに行き、そわそわしながら待つことになった。




 声が聞こえる位置で座っていると、侍従の案内でユティアーム殿下が応接間に入る音がする。


「陛下をお呼び致しますのでしばらくこちらでお待ち下さい」

 そう言うと侍従は部屋を出て行く。


 護衛騎士も扉の前で控えているので、部屋にはひとりだけだ。



 こちらの声は応接間には聞こえないとは、聞いているがドキドキする。



 陛下が私の肩を叩く。

それが合図だった。


 私と陛下は聞こえるその場所から離れ、紺クマはそこに残る。


 スマフォを開き、何かあったときのために陛下と手を繋ぐ。


 黒いクマの電話マークを押すと、発信された。


 ――クマクマ、クマクマ、クマクマ……

 呼び出し音がおかしくないか。

しかし、今は気にしている場合ではない。


 そう思いながら、スマフォを握り締めていると。



「……スズ?強引な事をしてすみません。

セルゲイとちゃんと一緒にいますか?」


 怖いはずなのに、私を案じるような声を出すからあまり怖くはなかった。

ただ、少し罪悪感がある。

 


「なぜ私にこんなことを?」

「僕の地位を盤石なものにしたくて。

 でないと駄目なんだ」


 ユティアーム殿下の声は追い詰められているように聞こえた。


「殿下はそれを望んでいるのですか?」

 何度か一緒に話したりしたが、そんなことを望んでいるようには思えなかった。

この国からなかなか帰らないところを見ると、むしろ帰りたくないのではないか。


「……母上は望んでいる。

 異母兄弟を陥れてまで僕を王太子にしたんだ」


 母親がやっていたとは。

それは息子のことを軽んじていると思う。

貴方には勝てないと言われているようなものだ。


 信じてほしい人に信じてもらえないのは辛いだろう。


「もうやめませんか。こんな卑怯な方法をとっても得られるのは一時の安寧のみです。それよりも、支えてくれる味方を増やすほうがより良い王太子になれるのではないでしょうか?」


 無責任に聞こえるかもしれない。

しかし、人にはどうしても向き不向きがある。

出来る人を頼る、それも必要なことだと私は思う。


「……スズはこんな僕を知っても側にいてくれますか?」

 その時なぜか陛下が手をぎゅっと握った。


「殿下は人を思いやれる方だから、いつも周りを気遣っています。それに気付いてる人はたくさん側にいますよ」

 私だってお茶会のとき、何度助けられたかわからない。気遣いの人なのだ。



「スズは、救国の乙女になるんですよね?」

 急になにを言うのだろう。


「予定では」


「絶対になってください。でないと、僕困ります」

 困る?


 陛下がさらに手をぎゅうぎゅうと握って、私を厳しい顔で見つめている。

何がいいたいのか分からず、首を傾げる。


 陛下はため息を吐くと、スマフォを取り上げた。


「今からそちらに行くから」

 それだけ言うと私にスマフォを返し、すぐに応接間に向かって行く。

私と紺クマは、その姿を慌てて追いかけた。



 応接間に着くと、ふたりはソファーに座りながらにこやかに話していた。


「誘拐犯がなにをいっているんだろうね?」

「ちゃんと罪は償いますよ、スズが許してくれるまで」

「償い?スズは望んでいないと思うのだけれど。

 側にいるのは怖いと分からない?」

「それはスズに聞きます」


 いや、にこやかなのは顔だけだった。


「いやー、スズ様は人気者っすねー。

 で、誰が好きなんですか!言っちゃいましょ?」

 いつの間にやら現れたこの従者は、本当にいただけない。



「誰も好きではありません!

 そもそも私の事を好きだと言っているのは、ヴィルだけですから!」

 好き勝手言われるのでふんっと鼻息を鳴らし答えて、近くにいた紺クマを触って癒しを求める。


 クマは殿下にバレたくないのか、静かにおとなしくしている。



 陛下と殿下はなぜだか苦悩の表情をしている。



「いやん、こわいっすねー?」

 従者はおどけながら、紺クマをつついていた。

私は変なことは言っていないはずだ。

釈然としない気持ちを抱えながら、クマを触って癒されていた。






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