紺色のクマとシロクマの御守り
食事も終わり、考える。
ピンチの時にはいつもクマがいて助けてくれた。
……まあ、先程危ない時にもクマが写っていたが。
「殿下はクマのぬいぐるみになれたりしませんか?」
「……はあ?何言ってんだ、お前」
哀れむような目で見られたが、めげない。
「願いが叶う石とかないんですか?」
「……願いが叶う、ねえ。なくはないが、使ったことはない」
「え!!あるんですか!?」
飛びつかんばかりの勢いで聞き返す。
「一応王族だからな、今は軟禁状態だけど」
え、この部屋に軟禁されているってこと?
なかなか大変な状況だったらしい。
「預けているんだ。……スイ、出てこい」
そう、誰かの名前を呼ぶと。
「ダメじゃないっすかー、ちゃんと口説いておかないと逃げられますよー」
間延びした喋り方をする地味な見た目の男が、天井から降ってきた。
20代くらいだろうか。全身が黒くてよくわからない。
「……口説く必要がどこにあるんだよ!」
「えー?見惚れてたじゃないっすか!」
「……もうお前は黙れ。
預けていたものを置いて離れてろ!」
「はいはいー、ではまたー」
そう言って懐からなにかを出すと去っていった。
「……はあ。うるさい奴だが俺の唯一の味方だ。
許してやってくれ」
殿下はスイさんの前では子どものようだった。
本当に信頼しているのが伝わる。
無理に大人びて話さなくてもいいと思う。
「で、これがそれだ」
出されたものは携帯電話の形をしている。
紺色なのは髪の色に合わせているのだろうか。
「国の秘術に関わるから、詳しくは話せない。
ただ繋がった相手を呼びよせることはできると言われている」
まさに、私がされたことだろう。
「他にもできるんですか?」
「どうだろうな。
試しに祈ってみるか?」
そう言って、携帯電話を開くと徐にボタンを押す。
なにをしているかは聞かないようにしておく。
そうして、ボンっと音がしたと思うと。
--目の前に紺色のクマが座っていた。
「……は?嘘だろ?」
クマは自分の手を見て、プルプル震えている。
その反応は年相応である。
「出来ましたね」
簡単に出来てしまった。
上の方でブフッと笑いを堪える音がしたが、聞こえなかったことにした。
現れたのは紺色のふわっふわなぬいぐるみだった。
まだ成長途中だからだろうか。
いつものクマよりひと回り小さかった。
「小さくて可愛い……」
そう呟くと「それは禁句ですよー」と声がして。
慌てて嘘です、と付け足した。
疑わしい目で見られている気がするが。
殿下は決して小さくはない。
私は154センチだが、それより10センチくらい高い。見た目からしてまだ15歳前後だろう。
まだまだこれからだ。
「これでこっそり抜けられますか?」
「やらねぇよ!?
抜け出してどうする気だよ!」
なんだかクマになってからプリプリしている。
それもまた年相応でいいかもしれない。
どうするかなんてひとつしかないだろう。
「それはもちろんデイル帝国に帰ります」
--その言葉を言った瞬間。
首元にあるネックレスが熱を持ち始めた。
なんだろうと、手に取ると紋章が光っていた。
まるであの時の本のように。
もしそうならば。
紺クマを掴んで腕に抱える。
「なにしてんだ!?」
紺クマは騒いでいるが気にしない。
光が増して異変を感じたスイさんが降りてきて、携帯電話を取るとこちらにやってきた。
「スイさん、手を!」
急いで従者と手を繋いで、離せと騒ぐクマをしっかり掴む。
眩しい光が辺りを覆うと、次に目を開けた時には。
ーーまた陛下の執務室だった。
周りを見渡すと、座って執務をしていたレオン様が唖然としてこちらを見ていた。
「……スズ様!?
至急陛下を呼んで参ります」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がると、どこかに出ていく。
紺クマはこれ幸いと腕から抜け出て、スイさんは人前に出ることを良しとしないのか、隠れようとしている。
そうこうしていると、壊れそうな程激しい音を立てて扉が開いた。
「スズ!」
陛下はひどく焦った様子でこちらに駆け寄ってくると、そのままの勢いで抱きしめられた。
「スズ、……戻ってきて良かった。
いなくなったと聞いてどれ程心配したか。
どこも怪我はしていない?」
いなくなったことは気づかれていたらしい。
陛下が泣きそうな声で良かった、と繰り返す。
腕は力強いのに耳元で聞こえる声がとても優しく響き、安心して涙が滲む。
怖かった、不安だった、そんな気持ちが溢れた。
そんな私が分かるのか抱きしめながら頭をぽんぽんされる。
と、安心とともに羞恥がやってくる。
忘れがちだが、陛下のお顔は美しい。
なんだかいい匂いもするし、困ってしまう。
陛下に抱きしめられるのは二度目だが、前よりも緊張する。
「あの、陛下。もう大丈夫なので……」
「そう?もう誰にも誘拐されないようずっと抱いているのもいいと思ったのだけれど」
割と本気で言ってそうなのが怖い。
「私には陛下のネックレスがあるので平気です!」
離れない陛下の腕の中で、ぶんぶんと首を横に振る。
「……役に立てた?」
「はい、とっても!
教えてくだされば良かったのに」
「確証はなくてね、使えなかったら困るでしょう」
それはそうかもしれないが。
「陛下。そろそろ、いいでしょうか?」
レオン様の声が聞こえた。
そこで初めて思い出した、連れが居たことを。
公衆の面前で恥ずかしいやりとりをしていたことを。
茹でダコにでもなるのでは、という勢いで顔に熱が集まる。
「ご、ごめんなさい……」
腕が緩んでいたので、さっと逃げ出すと部屋の角で顔を隠して蹲る。
恥ずかしい。恋人でもないのに、抱きしめられて安心していたところを見られていた。
一体私は何をしているのだろう。
その姿を見て、陛下の頬が緩んだことを私は気づかない。
「殿下もあれくらい情熱的になられたらなー」
「……うるさいな」
「そうしたらあの反応してもらえますよー?
あのふたり、あれでできてないんですよー?」
「……」
あの従者は遠慮がない。
いつの間にか隠れるのをやめたらしい。
うっすら聞こえているから反応に困る。
陛下にもそんなつもりはない!
赤みが引いたので立ち上がると、振り向き様にスイさんを睨んだ。
「睨まれちゃったー、あは」
ケラケラ笑っている所を見ると、なにも効果はない気がして溜息を吐きたくなった。




