察するシロクマ
仲良さげに出て行くふたりを見送り、私は食事を口にする。
陛下はこちらを横目で見て、様子を伺っていた。
「スズ、旅はどうだった?」
空気を変えるように笑顔で尋ねてきた。
「楽しかったです!花の街の商品も魅力的でしたし、魚も美味しかったです。あ、あと景色もすごく綺麗で……」
そういうと、言葉が止まってしまう。
ヴィルと見た、キラキラした海の景色を思い出す。
ヴィルを思い出すと嫌な気持ちが湧き上がる。
「そう、それは良かったね」
陛下はなにか察しているのか、それだけいうと。
「怖い思いをさせて、申し訳なかったね。
私は事後処理とスズを『救国の乙女』にする手続きをしないとならないから、部屋まではレオンに送らせよう」
食事を終えたことを確認すると、レオン様を呼んで指示を出している。
「スズ様、それではお部屋までお送りします」
レオン様は部屋まで付き添う間も、ボーッとしている私に当たり障りのない会話で気を遣ってくれていた。
部屋に着くとフェリスが出迎えて、就寝の身支度の用意もしてあった。
お湯の張ってあるお風呂に入り、ぼんやりする。
ヴィルはどうしているだろうか。
あの桜という、女性とまだ部屋にいるのだろうか。
部屋でふたり?会話するだけ?
考えれば考えるほど、頭がぐちゃぐちゃになる。
別の事を考えようと、今回の事件について思い返していた。
私は陛下に何のお礼も言っていないことに気づいた。
陛下のあのネックレスに助けられたと言っても過言ではない、本当に御守りになった。
なので真っ先にお礼を伝えるべきだったのに、先程の食事の時に逆に謝罪させてしまった。
気もそぞろで会話が疎かになっていた?
それが伝わっていたから?
一度気になると、ずっと気になってしまう。
お風呂から上がり、フェリスに声をかける。
「あの。……夜に陛下の元を訪れるのは、はしたないでしょうか?」
「大丈夫です、私にお任せを!」
やけに力の入った返答だった。
急いで髪と寝衣を整えてくれる。
上に布を羽織り、廊下に出ると護衛騎士とフェリスも一緒について来てくれる。
執務室の前の護衛騎士に声をかけてから、扉をノックさせてもらう。
「どうかした?」
護衛騎士だと思っているようだ。
「あの、スズです。お忙しいところ申し訳ありません」
「スズ?入っていいよ」
そう言われて、護衛とフェリスをその場に残して部屋に入る。
「夜分に申し訳ありません」
「平気だよ。今日の執務は済ませたから、忙しくないし」
陛下はソファーに座り、お酒を飲んでいた。
ゆっくり休んでいる所を邪魔してしまった。
自分がモヤモヤするから、お礼をと思ってきたがそれは自己満足な気がする。
考える程自己嫌悪に陥ってしまう。
「大丈夫?なにかあった?」
心配そうに顔を覗き込まれ、申し訳なくなる。
「一息ついている所に、申し訳ありません」
「ふふっ、平気だって言っているのに。
スズは先程から謝ってばかり。
私は眠る前にスズに会えて嬉しいよ」
陛下はいつだって優しい。
自分の至らなさに涙が出そうになる。
情緒不安定になっているらしい。
「陛下、ネックレスありがとうございました。
これがあって助かりました。感謝しております」
そう言って、ネックレスを返そうとするとそのまま押し返された。
「スズの力になれて良かった。
それは返さないで、持っていてほしい。
『救国の乙女』なら尚更に、ね」
なにか身につけておいたほうがいいということだろうか。
そんなことを考えていると。
「ねぇ、スズ。彼と数日間一緒にいて、どうだった?……好きになったの?」
ソファーに寄りかかるように座って、お酒のグラスを口に当てて言う。
口元が隠れていて表情はわからない。
なぜ急にそんなことをいうのだろう。
「……自分でもわかりません」
正直本当にわからない。
嫌いではないが、好きかと言われたら友人として好きなのかもしれない。
「……先程ふたりで出て行った所を見てどう思った?」
嫌だった。
「すっきりしない気持ちだったのではない?」
「……そうかもしれません」
そう答えると、陛下はお酒を一気に飲み干した。
「……それを嫉妬というのでしょう?
スズは、それが私だったらそんな気持ちにはならないよ」
勢いに任せたかのように呟く。
嫉妬、あの女性に対して。
ヴィラールと気軽に呼んだこと?
仲のいい友人を盗られたような、そんな気持ちになっていたのかもしれない。
陛下に対する態度にも、モヤッとした。
そういうことだ。
「嫉妬、でしたか!すっきりしました」
悩みがすっきりして晴れやかな気持ちになり、笑顔で続けた。
「陛下の時もそう思ったので。友人を盗られた気分になっていたようです。凄いですね、陛下は」
尊敬の眼差しで見つめる。
陛下は予想外の事だったかのように、顔に驚愕の色を浮かべ、すぐに手で口元を隠した。
いつも余裕があり完璧な美貌の陛下の、珍しく焦ったような照れているような表情に目が釘付けになる。
老若男女誰でもおとしてしまう、そんな破壊力だった。目に毒だった。
見てはいけないものだ、と慌てて挨拶をしてから執務室を出る。
扉の前で深呼吸をする私を、護衛騎士とフェリスは不思議そうに見ていた。
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