クマと謁見に向かう
馬車は馬をかえながら、先を急ぐ。
急いでいるせいか、揺れが激しくお尻が痛い。
荷物を敷いても、少しマシになるくらいだった。
夜間は移動せず、途中の街に泊まり朝早くに出た。
そうすると夕方には着く予定らしい。
馬車の中では非常食で作ったクッキーを食べながら、ヴィルの国の話を聞いて過ごした。
ヴィルは五人兄弟で、お兄さんが王太子として国王陛下の補佐をしながら勉強をしている。
弟さん達もそれぞれ優秀で婚約者もいるので、安心して外遊ができるらしい。
「ヴィルは婚約者いないの?」
ずっと疑問だった。
第二王子で二十五歳だったらいてもおかしくない歳だろう。
いないほうが、不自然だ。
「私にはいない。誰を勧められても一緒にいたいと思うことはなかった。国のためでも、嫌だった。
いい加減決めろと開かれた夜会を抜け、スズに会った時私は聖石が導いてくれたと思った」
そんな話は初めて聞いた。
国に帰れば、また決めろと言われるのだろうか。
ヴィルには自由はないのだろうか。
深く聞く気分にはなれなくて、私は話を変え到着を待った。
皇都に到着すると、そのまま馬車は皇城に向かう。
皇帝陛下に謁見するためだ。
先触れを出してあるため、表の門から入り馬車を降りて城内の謁見の間に案内された。
城内はなんだか騒がしく感じた。
謁見の間の扉が開くと、玉座に皇帝陛下、その横に宰相のレオン様が控えているのが見えた。
白が基調とした部屋で眩しく感じる。
皇帝陛下は謁見の間に相応しい、煌びやかな軍服のような衣装を身につけていた。
似合いすぎていて、怖いくらいだ。
部屋の中央で公爵様は跪き礼をとり、その後ろで私は頭を下げて片足を曲げる。
「エルザード公爵、ご苦労だった。
堅苦しい挨拶はなしにしよう。本題に入ってくれ」
よく通る綺麗な声が謁見の間に響いた。
「お気遣い感謝いたします。先日のエルザード領での拐かしについてご報告に参りました」
そういうと、詳細を報告し始めた。
罪人は全員で八名。うち、六名は船で。
船以外の二名はカリストス王国の品を販売していた店主と、催事場に残っていた一名らしい。
主犯は催事場の男で、やはりカリストス王国に連れて行き売る予定だった。
露呈しにくい旅人を狙った犯行で、以前一度成功し六名を売ったことがわかったらしい。
人物の特定が進まず、カリストス王国に協力を仰いでほしいとのことだった。
それを聞くと、陛下は渋い顔をしていた。
しばらく考える素振りを見せると、口を開く。
「で、そちらのふたりは?」
どうとでもとれる言い方をした。
なにか考えがあってのことだろうか。
「こちらは、陛下もご存知のヴィラール殿下とスズ殿ですが、少々問題があり連れてまいりました」
「問題とは?」
「スズ殿は此度の件で積極的に救助活動をされ、我が領で『救国の乙女』と呼ばれております。その声はすぐこちらにも届くかと」
私にはそんなつもりはなかったのだが。
心の中でそう呟く。
「……ふむ、ではこちらで預かり検討しよう」
各々部屋を用意するので、そちらで休まれるよう、と言われ退室した。
それぞれ部屋に案内され、一息ついていると護衛騎士が侍女を連れてきた。
――フェリスだ。
「皇帝陛下が夕食をご一緒にとお誘いですので、身支度をさせていただきます」
そういうとドレスや装飾品、化粧品と用意している。
ドレスは以前着たものとは違い、サイズが私にぴったりだ。薄紅色のドレスはリボンで引き締めつつ下はふわっとしていて私好みだった。
「このドレス素敵ですね、好みです」
「良かったです。これは陛下がご用意されたようで、まだ何着かございますよ」
え、それはどうなんだろう……。
受け取ってもいいものだろうか。
そう思っている間にも着々と化粧をして、装飾品を選んでいる。
まさか、あの装飾品も……?
いくらかかっているのだろうか。
装飾品の輝きに恐怖が増す。
あれは絶対返さねば!
そう伝えようと決意を固めていると、用意が終わってしまっていた。
装飾品は赤い花の髪飾りで、首元にはそのまま銀のネックレスがついている。
緑のリボンは取られてしまったらしい。
「なんだか私ではないみたい」
以前着た時より、支度に気合いが入っているような。
フェリスは可愛いというが、見慣れない自分の姿に戸惑い落ち着かなかった。
「行きましょうか」
フェリスが護衛騎士を呼び、食堂へ向かうことになった。




