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ポンコツクマと馬車の中



 ヴィルは朝食を食べている間も不機嫌だった。


 やはり先程逃げたのが、いけなかったのか。

素直に話すべきだろうか。


 パンを食べながら目を伏せ、悶々と考える。

チラッとカイルを見ると、また遠い目をしている。

気苦労の多そうな護衛騎士だ。



「あの、カイル。少しいいですか?」

 巻き込んで申し訳ないと思いつつも、自分ひとりでは答えが出せない。


 個室といえば、お風呂だ。

お風呂を指差し、カイルを誘導する。

護衛のため、扉は少し開けておいた。




「……あの、今朝の件なのですが。ヴィルに話すべきでしょうか?私からは恥ずかしくて」


 声を潜めたつもりだが、狭い部屋だ。

ヴィルに聞こえているかもしれない。


「……私から殿下に伝えましょうか?」

「いや、しかしヴィルがなんというか……」

 そうヒソヒソと会話をしていると。




「……もう、言わなくていい。わかった。

 しばらくひとりにしてくれ」

 ヴィルは俯きながらそう言うと、部屋から出て行ってしまった。


「わかった、とは?思い出したのでしょうか?」

「……どうでしょうか」


 カイルは護衛なのに、置いて行かれている。

追いかけなくていいのだろうか。

「今はやめておきます」

私の心を読んだように返事が返ってきた。



 ヴィルは1時間程経った頃、部屋に戻ってきたと思ったら荷造りをし始めた。


 私もカイルも唖然として、なにも言えない。

 


 ヴィルからは話しかけるなオーラを感じるが、聞かないわけにはいかない。

「……ヴィル、皇都に帰る準備するの?」


「そうだな。皇都に戻り次第、アリシャールに帰るからな。カイルは置いていくから安心しろ」


 皇都に帰ればヴィルとはお別れ?

急だ、なにか問題でもあったのだろうか。

というかカイルも連れて帰るべきでは?

疑問がたくさん浮かび、返答に困った。


 カイルは首を傾げたと思うと、すぐに顔を青くして私をお風呂に詰め込み、耳を塞ぐようにいった。



****


 

 カイルside


 詰め込んだあと、殿下の側にいくと、小声で話す。


「……あの、殿下。お話が!」

「聞かないと言ったはずだが」

 目も合わされない。


「いえ!聞いてもらわないと困ります」

 絶対に誤解されているのだ。

私とスズ様には何もない。

しかしあの言い方は、間違いなく。


「スズ様と私に恋愛感情はございません!」


 殿下は勢いよく顔をあげて、もう一度いってくれ、というのでもう一度いう。

「……は?では、朝の会話は?」

「あれは殿下が朝スズ様にはやらかした件について話していただけです」

 内容は非常に言いづらい。言いたくはない。

見ようと思って見たわけではないのだから。


「……やらかした?」

「ええ、それは盛大に。

 詳細を知りたければ、スズ様に」

 見てはいけないものだったのだ、本当に。

スズ様に申し訳ない。



「……まさか、あれは夢ではなく?」

「どれか知りませんが、おそらく」

「……スズは、嫌がってなかったか?

 泣いたり、叫んだりしなかったか……?」

「特には」


 嫌がっているようには見えなかった。


 むしろ、少し芽生え始めているような。

真っ赤になって、殿下を見つめていた。

そんなことは言わないが。


「泣かせなくて良かった……」

 殿下はそう言ってホッと息を吐いている。



 殿下は私には完璧な姿しか見せたことがなかった。

しかしスズ様のことになると、ポンコツだ。


 意外と臆病なことも分かった。

王族は本音を言わないように鍛えられる。

だから気持ちをいうのが怖いのだろう。


 もう少し、臆病な所を見せればいい。

朝のように、子供みたいにしがみついて、気持ちを全部伝える、そんな姿も悪くないと思う。


 スズ様といれば、殿下は人間らしい。

仮面をつけたような殿下はつまらない。


「殿下、スズ様としっかり話してください」

そう伝えると、お風呂に押し込んだ。



****



 何があったのか、わからないまま。

お風呂の扉が開いたかと思うと、ヴィルが飛んできた。


 気まずい沈黙がおちる。


「……スズ、すまない。

 てっきりカイルと恋人になったのかと」

「……恋人?あり得ません!」

 そんな誤解されていたなんて驚きだ。

どうしたらそんな誤解をするのか。

「……すまない。朝の事も、申し訳なかった。

 気持ち悪かっただろう、すまなかった」

ヴィルは落ち込んだように、謝る。


 気持ち悪い?

そんなことは微塵も思っていなかった。


 しかし、なんといっていいかわからない。

そんなことない、は嘘っぽい。

嬉しかった、は誤解を招く。

悩みに悩んで。

「……そんなことない」

 しか出て来なかった。

ヴィルを見ると、案の定信じていない顔だ。


「本当に!ヴィルは優しかったし、気持ちも伝わったし、好きって嬉しかったし……ん?」


 なんだか余計なことを言っているような気がする。


「と、とにかく!嫌じゃなかった!おわり!」


 嫌じゃなかった、もどうだろう?

言ってから気付いても後の祭りだ。


「……嫌ではなかった?」

 ヴィルは確認するように、聞く。

「おわりだから戻ろう」

 なんとかしてこの話題を終わらせたい。


「それだけ、教えてくれ」

「……嫌ではなかった、かも?」

認めたくなくて、濁しに濁す。


「そうか」

 ヴィルはそういうと、背中を向けて蹲っている。



 後ろから見えるヴィルの耳は赤くて、なんだか心臓がきゅっとした。

 


 ふたりでお風呂から出ると、カイルは心底安心した顔をしていた。


 ふとヴィルを見ると、目が合ってしまい恥ずかしくて逸らした。


「あのー。甘い雰囲気を出しているところ申し訳ないのですが、先程公爵家より連絡がありました。

予定を早めて午後にでも出発したいそうです」

カイルがヴィルに報告をする。


 しかし、甘い雰囲気ってなに?

そんなものは断じて出していない。


「では、荷物をまとめたら昼食を食べるか」

 ヴィルはサラッとスルーした。

「昼食ならこの間の食堂に行きたい。

 やっぱりお礼がしたいの」

わかった、というと皆で素早く荷物をまとめた。


 一ヶ月の予定が、四日で帰ることになるとは。

もっと色々な所に行って、見て、食べて、をしたかったし、するつもりだったのに。


 そんなことを考えながら、荷物をまとめて三人で食堂に向かう。

 


「こんにちはー」

 挨拶すると、おばあさんがでてきた。

私を見て、驚いた顔をしている。

「昨日はありがとうございました。

 今日は食事をお願いします」

 そういうと、三人分の塩焼きを頼んだ。


 焼き上がるのを待つ間に、おばあさんにお礼を渡そうと話しかける。

「お金は断られてしまいましたが、これなら受け取ってもらえませんか?」

 困った様子のおばあさんに、鞄から髪飾りを出して差し出す。

「もちろん、売ってしまっても構いません。

 価値はわからないですが。駄目でしょうか?」

 向こうから持ってきていた髪留めだ。

 水色の花が散りばめられたデザインで、おばあさんの白髪に似合うと思う。 


「有難くいただきます。大切にするわ。

 ありがとうございます」

 私の気持ちが伝わったのか、おばあさんは髪飾りを手に取ると、胸の前で大切そうに抱えた。

「本当に助かりました。感謝しています」

 そう感謝を伝えていると、おじいさんが串に刺さった魚の塩焼きを持ってきてくれた。


「ありがとうございます。いただきます!」

 そう言って齧り付いた魚はパリッとしていて、骨も食べられる。

これが一番美味しい食べ方だと思う。

最近向こうでは、あまり売れてなくて食べられない。

あっという間に食べ終わると、おじいさんとおばあさんに見送られて食堂を出た。



 荷物を持って石畳の道を進む。

と言っても私の荷物は殆どカイルが持ってくれているから、歩きやすい。


 しかし、街の人の視線が痛い。

例のアレだろうか……。

全力で否定したいのに、できないのがもどかしい。


 公爵邸が近くなると、救国の乙女様ー、と声も聞こえるようになった。

 どうしていいかわからない私は無視も出来ず、頭を軽く下げて会釈する。


 足を早めてやっと公爵邸の門についた頃には、疲れ切っていた。


 門に馬車が止まっている。

その側に公爵様が立って、騎士団団長と話しているのが見えた。


「急遽出掛けることになり、申し訳ない。

 すぐに馬車に乗って出立しよう」

公爵様がそういうと皆が動き出す。


 馬車はふたつあり、ひとつは公爵様、もうひとつに私とヴィルが乗ることになっているようだ。

公爵様と別で安堵した。

無理に会話をしようと疲れてしまうだろう。



 カイルは騎士と一緒に、馬に乗って護衛するらしい。馬車は騎士を引き連れて出発した。



 ヴィルは馬車に乗りながら、色々教えてくれた。

窓から見えるものや、通る街の話。

気になっていた『救国の乙女』についても聞いてみた。


 『救国の乙女』とはカリストス王国に現れると言われている伝承の存在らしい。

 なぜカリストス王国なのかはわからない。

歴史上一度だけ存在したとカリストス王国に記録が残っている。

どうしたら現れるのか、詳しくはカリストス王国しか知らないそうだ。


 『救国の乙女』は特別な位置づけで、複数の夫を持つことができる。

例え、それが他国の王子であっても。

 『救国の乙女』は奇異な力を持ち、豊富な知識を持つため、国の発展に繋がる。

以前カリストス王国だけが発展することに不満が募り争いが起き、混乱が生じた。


 その経緯があったことで、そう決められたらしい。

ただ、現れた場所がどこの国かで、本拠地は決まる。

他国の人間は婿のような立場になるらしい。


 そこまでしても、あやかりたいということだ。

それだけ特別に扱われる存在で、大抵の希望は通ることになるそう。



 私はとても恐ろしい存在だと思った。

国家機密は守られるのだろうか。

籠の中の鳥になったりしないのか。

望まない婚姻をさせられないのか。


 すべては本拠地のトップの人間によるということだろうと思う。



 私が今そう呼ばれることは決していいことではなさそうだった。

 "現れる"という表現も気になる。

 ヴィルは私がそう呼ばれることについては、言及しなかった。

 

 馬車が進むこの先になにがあるのか。

不安に駆られて、気が重くなってしまった。



 

 




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