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クマを抱えた救国の乙女



 部屋に戻ると、ヴィルは待っていたのかすぐに駆け寄ってきた。

「怪我してないか?なにもなかったか?」

 なんだかヴィルはどんどん過保護になっている気がする。


「大丈夫だよ。カイルもいたし」

「それは良かったな」

 といいながら眉を顰めている。

なにか気に入らないみたいだ。


 そうしていると、外が騒がしくなってきた。

騎士が乗り込んだのだろうか。船がグラグラ揺れて気持ち悪い。

 

5分くらいしたところで、扉をノックされる。


「失礼いたします」

 扉を開けると、エルザード公爵家の紋章をつけた騎士がふたり立っていた。

「貴女は……!ご無事でしたか。

 騒動は鎮圧いたしました。

 外に避難をお願いいたします」


「わかりました。ありがとうございます」

 ホッとして、お礼を伝えるとふたりと一匹で船の外へ出た。


 そこでは、騎士団の団長だろうか、指揮をとっている。

食事をしたお客さんも集められていた。


 こちらに気がつくと、近づいてきて胸に手を当てて礼をされる。

「お陰様で怪我人を出すことなく、鎮圧することができました。感謝を申し上げます。

公爵邸にご案内するように申しつけられております。あの者と共に行動していただけますか?」



 そう言われて見た先には、台車を押してくれた騎士がいた。こちらを見て安堵している。

「はい。私ひとりでは何もできませんでした。助かりました。皆様に感謝をお伝えください」

ヴィルとカイルは空気になっていた。


 


 ヴィルとクマのままのカイルを連れて、騎士の方へ向かいお礼を言う。


「先程はありがとうございました」

「ご無事で安心いたしました。

 こちらの台車はどうしましょうか?」


 食堂のおばあさんに借りたものだ。

営業妨害をしたのだから、手持ちの5万ノラでは足りないだろう。

とりあえず、台車を返さないといけない。

「公爵邸に向かう前に、食堂に寄って返したいのですが……」

承知しました、と言うと私達を連れて歩く。




 道行く人々には、台車でクマを抱えて駆け抜けたことが知られているのか注目されている。

それとも、異色の組み合わせで目立っているのか。

綺麗な男性とクマを抱えた女性、公爵家の騎士。

嫌でも目立つ気がする。




 やっとの思いで食堂に着き、中に入ると誰もいない。

食事が出せないからか、おばあさんは奥で椅子に座って本を読んでいた。

本から顔をあげて驚いているおばあさんに、申し訳ないと思いながら話しかける。



「おばあ様、お借りしていた台車を返しに来ました。ありがとうございました。後日お金を持って来ますので、今は手持ちの5万ノラでお許しいただけませんか?」

 そういうと、おばあさんは首が取れんばかりに、横に振る。


「お金なんてとんでもない!『クマを抱えた救国の乙女』にそんなことしては、バチが当たってしまうわ!」

「救国の乙女!?誰のことですか!?」

クマを抱えた、とついているのがなんだか嫌な予感をさせる……。



「貴女よ!他国にはそう呼ばれる方がいる、と。

 感謝を込めて、そう呼ばれ始めているわ」

 なんでそんなことになっている。

慌てて騎士を見ると、目を逸らす。



「あの、どうしてでしょう?」

「……実は、あのあと街の方から質問責めに。

 突入に気づかれる訳にはいかないので、国を救ってくれるお方だ、と」 



 あのあと、とは台車から降りたあとだろう。

だが、私は国なんて大層なもの救っていない。

ただヴィルを助けに行っただけだ。

気持ちはわかるが、嘘はいけない。


「訂正してもらうことは……?」

 ヴィルが初めて口を開き、騎士に尋ねる。

「目撃者も多数いますし、無理かと」

 その答えを聞いてヴィルは不安そうな、不愉快そうな顔をしている。


 ――沈黙が流れた。

 



「とりあえず、公爵邸に向かいましょう」

 騎士が切り替えるようにいった。


 皆が頷くと、私は再度おばあさんにお礼とまた来ることを伝えて食堂をあとにした。



 食堂からは、公爵家の馬車に乗せてもらい移動する。さすが、公爵家の馬車だけあり、あまり揺れなかった。


 あっという間に、公爵邸の門をくぐり、建物が見える。

先程は焦っていたため、何も思わなかったが邸宅は大きく、石造りで西洋風だ。

小高い丘になっているのか、街と海が見えて島のお城のようだと思った。



 そんなことを考えているうちに、馬車が止まる。


 ヴィルが先に降りて、手を取りエスコートしてくれた。そんなことは初めてで恥ずかしい。


 邸宅の中に入り、豪華だが華美ではない廊下を横目で見ながら歩く。

公爵家の家令はひとつの部屋の前に立つと、ノックをしてお連れしました、と声をかける。


「どうぞ、こちらに」

と扉を開けて中へ促す。

こちらのマナーに疎いので、躊躇う。

あの時は緊急事態だから気にせず行動してしまったが、今は違う。


「失礼いたします」

 とヴィルが先に入って引っ張ってくれた。


 部屋は応接間だろうか?

高級そうな調度品に慄きながら、顔に出さないように気をつける。



「救国の乙女殿、ご無事で何よりです。

 そちらのソファーにどうぞ」

 公爵様まで知っていることに恐れ慄く。

誰か本当に、訂正してくれないだろうか。

 そう思いながらもお礼を言うと、ヴィルに倣い腰をおろす。


「この度は、お力添えいただき感謝を申し上げます」

 助けてもらったお礼を述べる。

「感謝をするのはこちらの方です。

 捕縛までしていただき、お陰様で素早く人々を保護することができました。

 感謝してもしきれません」


 公爵様に頭を下げられ、困ってしまう。

正直、自分の立ち位置が全くわからない。

「どうか、頭を上げてください。

 私ひとりでは何もできませんでした。

 公爵様のおかげです」


「そちらが貴女が助けたいとおっしゃっていたお方ですか?」

 そういうとヴィルのほうを見る。

「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。

 アリシャール王国第二王子、ヴィラール・ミシャリオスといいます」

「これは失礼いたしました。

ルイズ・エルザードと申します。

 ヴィラール殿下がなぜ救国の乙女殿と?」

「私の婚約者なのです」


 ヴィルがそう答えると、公爵様は顔を顰めてなにやら考えているようだった。


「此度の件は、カリストス王国も絡んでいるため、聴取ができ次第、皇都に向かわなければならない。

 その時には、救国の乙女殿にもご一緒してもらうがよろしいですか?」

 私のことだが、私に聞いてない。

 いつまで救国の乙女と呼ばれるのだろうか。


「ええ、では私もご一緒させてもらいます。

 それと、私の婚約者をそのように呼ばれては困ります。スズとお呼びください」

 ヴィルがいてくれて良かった。

 私では訂正することができなかっただろう。


「それは失礼いたしました。

 しかし、いくら呼び方を変えようとも、人々の認識は変えられませんよ」

 貴族らしい会話とはこういうものだろうか。

お互いに牽制し合っているように聞こえる。

空気になることに徹することにした。



「スズ殿、本日よりこちらに滞在されてはいかがですか?いつ出発してもいいよう準備も出来ますし、宿屋も救国の乙女を泊めるとなると、気が気でないと思います。

 それに婚約者といえど、ふたりでは体裁が悪いのでは?」

 

 空気になりきれなかった。

 どうするのがいいのだろう。

 私としては宿屋に帰りたい。

 だが、今までのようには出歩けないだろう。

 ヴィルをちらりと見ると、笑顔が引き攣っている。


「……今日のところは宿屋に荷物もありますし、そちらで休ませていただきます。

 明日以降はお言葉に甘えさせてください」

 間違っていないだろうか、冷や汗が出る。


「では、そのようにご用意いたします」

 公爵様は笑っているが、怖い。



「私達はそろそろ失礼します」

 そう告げてヴィルは礼をし、私を引っ張るように扉から出た。


 家令に玄関まで案内してもらい、馬車を借りてそそくさと街に戻った。






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