クマ印の護身用
「さあ、行きましょう。
騎士様、お願いします」
私は赤クマが飛んでいかないように、ギュッと抱きしめた。
台車はぶつからないよう人を避け、かつ素早く駆け抜けていく。
案内をしながら、あのお店を目指した。
少し離れたところで降ろしてもらい、騎士に台車を預かってもらった。
カイル、こと赤いクマを抱っこしながら、お店まで走った。
怪しまれないように全力で。
お店に着いたら、勢いよく扉を開けた。
ハアハア、と息を切らしながら立っている姿は、急いだように見えているだろう。
「……戻りましたっ!」
少し息を整えて、そう言うと。
店員もお客さんも、皆こちらを安堵の顔で見ていた。
お客さんの中にはもう寝ている者もいるようだ。
ヴィルだけが信じられないものを見るような顔で、こちらを見ている。
「旦那様、お薬はこちらです」
鞄から持ってきていた酔い止めを出して渡す。
「……」
ヴィルは言葉が出てこないようだ。
「相棒のクマもきちんと持って参りましたので、機嫌を直してください」
そう言って、半ば押し付けるようにクマを渡した。
「ああ、助かるな」
なんだか棒読みではないだろうか。
「では、食事をいただきますね」
おにぎりと味噌汁をもぐもぐと頬張る。
ように見せるため、口に入れて隠れて吐き出した。
注目されている今、食べないわけにはいかない。
「もし、休憩がしたくなった方はあちらにお部屋がごさいますので、ご自由にお使いください」
店員が皆に呼びかけている。
ちらほらと向かう人達が見えた。
船に乗せるのだろうか?
「旦那様、私達も休憩しませんか?」
ヴィルを誘うと、少し嫌そうな顔をしながらも頷いてくれた。
「そうだな、案内してもらおう」
店員の案内で店の奥に進むと、裏口から船に乗らされる。
「船は休憩用で動かないのでご心配なく」
人の良さそうな顔でサラッと言っている。
絶対に嘘だと分かっているからいいが、知らなかったら騙されるだろう。
船中に入ると、個室に案内された。
「こちらでごゆっくりお休みください」
そう言って店員は去っていった。
「で?なぜ戻ってきた?」
ヴィルは声を小さくして問いかけた。
「私はヴィルを助けると約束したから」
それを聞いて、ヴィルはため息を吐く。
「カイル、言い訳を聞こうか?」
赤いクマは無言だ。
「話せるのは知ってるからな?」
「……色々と申し訳ございません」
「私がカイルに頼んだから怒らないで」
そう言ったことで、更に機嫌が悪くなったような気がする。
ヴィルはもう一度深い溜息を吐くと。
「もうわかった。一刻も早くここから出る」
すべてはそのあとだ、と声が聞こえた気がした。
「私もうひとつ聖石に頼みたい。いい?」
話を変えるように、ヴィルに確認をとる。
「任せる」
それだけ答えたヴィルは、溜息ばかり吐いている。
私は聖石にあるものをイメージしながら願うと、ポンっと目の前に現れた。
スタンガンとガムテープだ。
これなら戦えなくても身を守れるはず。
ただ、不思議なことにふたつとも可愛いクマ印つきだった。
「これは?」
「スタンガンといって押したら電気が流れて体が痺れるの。そのあとガムテープで縛る」
バチバチさせながら、説明した。
電気が伝わっているかは、疑問なところだが。
「えげつないものだな……」
「護身用だからね。
これで何があってもヴィルを守れるよ」
ヴィルはその言葉に顔を顰めた。
「駄目だ。スズを守るのが私の役目だ。
私を守るためには使わせない」
ヴィルが真剣な目で、私を説得しようとする。
私だってヴィルを守りたいのに、聞いてはくれない。
ふたりで言い合っていると、見かねたように赤クマが間に入った。
「スズ様、私が死んだらあとはスズ様に任せます。
だからそれまでは守られていてくれないと、その時に殿下を守ることができませんよ」
カイルの言葉にハッとした。
今はカイルがいるのだから、カイルの役目だ。
クマだとしても、私が出しゃばるべきではない。
「……申し訳ございません」
「クマの武器はスズがもっておけ。
それで自分を守るんだ。いいな?」
しっかり頷く。自分を守らないときっと私を守ろうとヴィルが犠牲になるだろう。
そうすれば、カイルも危険に晒される。
自分を守ることがヴィルを守ることになる。
そう思うと一層気持ちが引き締まった。
「ここから出たあと公爵邸に行って動いてもらえないか頼んだから、そのうち動きがあると思う。
それまでに無力化した方がいいかな?」
スタンガンを見せながら、簡単に説明して聞く。
「確かに踏み込まれて、他の客が人質になるのは避けたいが」
「カイル、私が抱っこして歩くので、これをすれ違い様にバチッとお願いできますか?」
「他の仲間に気づかれたらどうする?
スズでないと駄目なのか?」
「バチバチして歩くよ。
私がひとり残るのも不安でしょ?」
「……わかった。気をつけて行け」
ひとりにするよりいいと思ったらしい。
結局私もヴィルを守れるので、意気揚々とカイルを抱っこすると、部屋の外に出た。
廊下を歩きながら人がいないか見てまわる。
角で店員だった人を見つけて、話しかけた。
「すみません。お手洗いはどちらでしょう?」
そういうと同時に赤クマがバチッとした。
このままだとそのうち動けるようになる。
急いで手と足をガムテープで縛る。
「な、なにを!?」
騒ごうとするので、赤クマは口も塞いでいた。
隅の方に寄せて、次に向かう。
途中で5人に出会ったので、同じ方法で縛った。
船は15部屋ほどあるらしい。
客室は見ていないが、計6人無効化した。
少しは戦力を削ぐことが出来たと思うので、部屋に戻ることにした。




