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赤毛のクマ

 



 扉から出ると悟られないよう視線を動かしてカイル様を探す。

 

――目があった。


 宿の方角に小走りで進んで石壁に隠れる。



「スズ様」

 すぐにカイル様が追いついてきた。

「ヴィルが、睡眠薬が、」

 いいたいことが上手くいえず、メモ帳を見せる。


「……宿屋へ行きましょう」

「ヴィルは、ヴィルは大丈夫でしょうか!?」

「人攫いならば命は取られません」

「……違ったら?」

「……」


 沈黙が答えだろうか。

 ヴィルが死んだら、私のせいだ。

 私があの店に行ったから、紙をもらったから。

 このまま自分だけ逃げるなんて絶対嫌だ。

 ヴィルの他にもお客さんがいた。

 動けるのは私だけだ。

 ヴィルも助けるって約束した。



 しかし、カイルと私だけでは圧倒的に力が足りない。唯一、可能性があるとしたら……。


「カイル様。公爵様に会うにはどうしたら良いでしょうか?」

 カイル様が目を見開いている。

「礼を欠くことではありますが、公爵邸に行けば、或いは」

「行きましょう、時間が惜しいです」

 公爵邸の場所はノートに書いたはずだ。

頭の中で必死に思い出す。


 カイルと一緒に走り出した。


 すると、少し先に昨日の食堂のおばあさんが木の台車を押して歩いているのが見えた。

「すみません。食堂のおばあ様、その台車貸していただけませんか!?

あとでしっかりお代を払いますので」

 無理を言っているのはわかっている。

おそらくこれから食材の調達に行くところだろう。

最悪営業が出来なくなってしまう。


 しかし、他にいい案も思い浮かばないので、必死で頼み込む。


「……いいわ、持って行きなさい」

 良いはずないのに困ったように笑い、そう言って台車を差し出してくれた。

優しさに涙が出そうになる。


「……ありがとうございます。

あとで必ず返しに行きます」

 そうお礼をいうと、カイル様の方を向く。


「私がこれに乗ります。

 全力で駆け抜けてください。

 私は足が遅いので、お願いします」

そう伝えると、カイル様は思いっきり押して走りだした。

 ノートに書いた地図を思い出しながら、右に左にと指示を出して街中を駆け抜けていく。

異様な光景に人々の視線を集めているが、気にしてはいけない。


 公爵邸の門の前に着いたとき、門番は私達を唖然とした顔で見ていた。

そんなことは気にせず、用件を伝える。

「至急、エルザード公爵様にお取次お願いいたします!緊急の為、ご無礼をお許しください」

「どこの誰かわからないものを、取り次ぐことはできない」


もっともすぎる返答に、取り付く島もない。

……証明するものは何もないのだ。



 やはり無理があったか、と俯くと鎖骨にシャラとあたるものがあった。


 慌ててそれを引っ張り出し、門番に見せる。

「これでお許しいただけますか?」

 門番は訝しみながら、それを見ると血相を変えて取り次ぐよう、中の騎士に伝えている。



 しばらくすると、エルザード公爵様本人が走ってくるのが見えた。

申し訳ないが時間がないので、助かった。

話に聞いていた通りの、厳格そうな人だ。

高齢の方を想像していたが、まだ40代くらいに見えた。


「緊急事態にて、ご無礼をどうかお許しください」

「よい。それを見せてくれ」

 私はそれを引っ張り公爵様に見せた。


 ――あの銀のネックレスを。

皇帝陛下本人しか使えない紋章がついている。



「……間違い無い。それで、何が?」

 話が早くて助かる。

 私は説明が下手なため、カイル様を呼ぶ。

「カイル、状況を」

 公爵様の前で敬称をつけたらおかしいので、そこだけ気をつけた。

 カイルは、順に説明をしてくれた。

その場に居なかったのに、素晴らしい説明力だ。

 ヴィルがいることはややこしくなるので、黙っておいた。


「……管理が行き届いておらず、申し訳ありません」

 公爵様は謝罪すると、すぐに叫ぶ。

「今すぐに騎士を集めろ!罪人を逃す訳にはいかない。突入の準備をしろ」


 公爵家の騎士達に指示を出している。



「スズ様は公爵邸にてお待ちください」

 カイルが私にそう言った。

「いいえ、私はひと足先にカイルと行きます。

 私には助けたい人がいるのです。

 そのために、手伝ってくださいますか?」

「しかし、それでは命令に背くことになります」

「私が言ったといえば、ヴィルはカイルには怒りません」

「……それは、まあそうかもしれませんが」

「それに詳しくは言えませんが、カイルであってカイルでないので!」


 そう告げると公爵様のほうを向く。


「公爵様、相手はカリストス王国の者の可能性がございます。港の船を監視し、運び込まれるまで待っていただけると逃さないかと。私は囮になりますので、あとをお願いいたします」

 そう言って、持っていた地図を渡す。


公爵様はその言葉に驚き、眉を顰める。

「いや、貴女はこちらでお待ちを」


「大切な人が捕まっております。

 それに、忍び込むことは抜け出してきた私にしかできないことです。

 カイルを連れて潜入するのでご心配なく」


「……くれぐれもお気をつけください」

 公爵様は納得していないようだが、しばらく考え込むと許可してくれた。

「はい、失礼いたします」

 そうして行きと同じように台車に乗ろうと思ったが。……秘策ができる保証がない。

 先にできるか試してから行くべきだろう。





「申し訳ございません。

 ……やはり、騎士様をおひとりお貸しくださいませんか?

 時間がないので、台車を押して街中を駆け抜けてほしいのですが」

 

 そういうと、公爵様はわかった、とひとりを指名した。


 若く体力のありそうな優しそうな顔の人だった。

街中を駆ける分、街の人に誘拐だと誤解されないようにという配慮だろうか。


「これから起こることは、他言無用でお願いしたいので公爵様だけ残っていただけませんか?」

見せたくはないが、疑念を持たれたくない。

他の騎士たちは公爵様とカイルと私だけ残して離れる。



「では、カイル。いきますね」


 カイルと向き合い、聖石に願う。

『カイルをクマのぬいぐるみにしてください』



 ーーすると、カイルが光りだした。




 ボンっと音がすると見事にクマになっていた。

赤毛のクマでかっこいい。剣もミニマムになっていた。騎士服というのが、怪しまれないか少し心配ではあるがなんとかなるだろう。


 無事に使えて良かった。


 

「ほう?確かにこれを連れて忍び込む事は貴女にしか出来ぬな」

 公爵様は目を開いて驚きながら、納得していた。

 

 それからは、それを抱っこして台車に乗り、騎士に駆け抜けてもらう、という計画だ。

 


「え、こういう方法ですか?なぜ、クマ。

 間違いなく私は怒られますよね?

 着いた瞬間から、場が凍りますよ」

 カイルは今から未来を心配している。


「大丈夫です。ヴィルは優しいですから」



「……それはスズ様にだけです。

あの嫉妬深いお方がこれを許すわけがない」

 となにやら呟いていたが、私には聞こえなかった。







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