クマは逃したい
海辺から離れて街中を歩いていると、カリストス王国のお店を見つけた。
店先の商品を眺めると、お米が置いてある。
店内には醤油や、味噌など私にとって懐かしいものがあちこちにあるのが見えた。
私が知っているものと同じものだろうか。
すごく気になる!
喉から手が出るほど欲しい……!
しかし、そんな荷物を持つ訳にいかず、小さな瓶に入った醤油をひとつ買うことにした。
店番をしているのは若そうな男の人だ。
そういえば、言葉は共通なのだろうか?
ヴィルに小声で聞くと、三カ国は同じ言葉を喋るらしい。
安心して支払いができる。
「500ノラです」
意外と良心的な金額だ。
貴重で高いかと思っていたが、そうでもないらしい。
そんなことを考えつつ、手持ちのお金から支払った。
「ありがとうございます。
今日はこちらの催し物もありますので、ぜひ」
と、私に紙を手渡す。
手に持っている紙を見ると、
『焼きおにぎりとお味噌汁で昼食にしませんか』
と、どんっと大きく書いてある。
その下は催し物の内容と場所の詳細だ。
どうやら焼きおにぎりとお味噌汁を振る舞ってくれるということらしい。
「行ってみるか?」
ヴィルがそう言ってくれたので、勢いよく頷いた。
お店の方にお礼を言って外に出ると、その場所を目指して歩く。
入り組んでいて迷子になりそうだったので、紙に描かれている地図に印をつけながら歩いた。
「あった!」
その建物は他と同じように石造りで、あまり目立たなかった。
お店の裏は港で船がたくさん並んでいる。
言われなかったら家だと思って入らないだろう。
中に入ると食堂のようになっており、ちらほらとお客さんが見えた。
「いらっしゃいませ。紙をお持ちですか?」
店員さんに確認を取られたので紙を見せると、私たちは中に入ってテーブルにつく。
お金は要らないようだ。
しばらくすると、焼きおにぎりと味噌汁がワゴンで運ばれてきて、それぞれ配膳された。
味噌汁はほかほかと湯気がたち、美味しそうだ。
焼きおにぎりをパクッと食べる。
なんだか思っている味と違い、しょっぱい。
が、久しぶりのお米で嬉しい。
「スズ、感想を書いておきたいから、紙と書く物を貸してくれるか?」
ヴィルがそんなことを言うなんて珍しい。
「いいよ」
と、小さいメモ帳とペンを貸す。
ヴィルは受け取るとさらさらとなにか書いている。
「スズも書いておくか?」
そう言ってそのまま渡される。
不思議に思い、メモ帳に視線を落とすとーーー。
睡眠薬入りだ。食べるな。
私が機会を作るから、落ち着いて外へ。
この店の周辺にカイルがいるはずだ。
見つけて、宿屋に逃げろ。
万が一に備えて、聖石も渡しておく。
力は溜まっていないが、足しにはなるはずだ。
私もすぐあとを追う。
――そう書いてあった。
突然の事態に、恐怖と不安でいっぱいになる。
唇が震えそうになるのを、必死で抑える。
怪しまれる訳にはいかない。
残すヴィルを危険に晒してしまうから。
ヴィルはおにぎりを咀嚼しながら、怪しまれないようテーブルの下で聖石を渡してくる。
受け取りたくない。
しかし、そうしたら怪しまれるのはわかる。
指先の震えを止めるように、ギュッと受け取った聖石を握り締める。
「ああ、なんということだ!
欠かさず飲むべき薬を宿に忘れてしまっただと!
早く取ってきてくれ!死んでしまうだろうが!」
ヴィルは大声で怒鳴るように叫ぶ。
私が止められないように、それを選んだのだろう。
ヴィルは迫真の演技で、知らなければ騙されてしまうだろう。
怒鳴られている姿を見て、同情されるくらいが出やすくなる。
「……申し訳ございません。
すぐに取って参ります、お許しを」
そう言うと椅子から勢いよく立ち上がり、店員に頭を下げて扉を目指す。
ヴィルの剣幕を見ていたからか、誰も止めない。
むしろ店員も同情するような眼差しを向けている。
行って帰るまでに眠ることはないということなのか。
先程のやり取りは全く疑われておらず、戻ってくると信じているのか。
心臓はバクバクと煩い音を立てていて、力が抜けそうになりながらも、無事に外に出た。




