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クマと道中

 



 外が明るくなって眩しくて目を覚ますと、ヴィルの背中にくっつくように寝ていた。


 驚いて飛び起きてしまった。


 起こしてしまったか心配したが、ヴィルは動かない。台に置いてあるヴィルの時計を見ると5時10分だった。



 ここでは時計は高級品で一般の人は使わない。

太陽の位置で判断するらしい。


 私にはわからないので、ヴィルの時計が頼りだ。



 すっかり目が覚めてしまったので、起きて身支度を始めることにした。

髪をハーフアップにしてみると、顔に髪が当たらず快適だ。


 ヴィルが起きたらお茶を頼みに行こうと思うが、7時になっても起きてこない。

「疲れてるのかな」

申し訳ないと思い、そのままにしておく。



 私は暇なので、先日書いたノートを見て勉強することにした。


 これから行く予定の海沿いは公爵領だ。

エルザード公爵は厳格なお方で忠義に厚い。   

領民からも慕われていて、公爵領は港町としてとても栄えている。


 海産物の加工や塩の精製もしているが、交易も盛んなので、商会も多い。

珍しい商品もたくさんありそうだ。

海産物を食べるのも楽しみである。

着いたらどんな魚があるのかメモしたい。


 そうしていると、ヴィルが起きてきた。

まだ少し寝癖がついている。


「おはよう。

 すまない。遅くなってしまったな」

「おはようございます。

 大丈夫、よく眠れたようで良かった!」

やはりベッドで寝て正解だろう。一安心だ。

「……まあ」


 パタパタと持ち運び用のボトルとカップにお茶を頼みに行く。


 その間、パンを皿に用意する。

テーブルにつき、持ってきてもらったお茶と一緒に食べ始めた。


「昨日寝相悪くなかった?

 蹴ったりしてない?」

「……大丈夫だ」

 色々な思いを飲み込んだような言葉だ。

言えないほど悪かったのかもしれない。

「それならいいんだけど」

そう言って、心の中で謝罪しておいた。


 パンを食べ終わり、身支度をしているとヴィルが思い出したようにいう。

「昨日練り香水を渡し忘れてしまった。

 私がつけよう。髪をあげててくれ」

そういうと香水をあけて手に取っている。

ヴィルの手が触れてくすぐったい。

「髪をおろして」

言う通りおろすと、髪になにかが触れる。


「ヴィル?」

「これでいいだろう。可愛い、よく似合ってる」

 ヴィルが前から私を見て、また恥ずかしくなることを言う。


 なんだろうと思い、鏡の前に行くと、花が模された緑色のリボンが結ばれている。

「ヴィル、これ……?」

「スズにお礼だ。よかったら旅の間つけて欲しい」

「ありがとう。大切にするね」

ヴィルは満足そうに笑い、ふたりで宿屋からでた。


 

 馬の宿屋に行って馬を受け取り、お金を払う。

馬は餌を沢山食べたようで元気そうだ。

そうして、昨日と同じように馬に乗せられ、揺られる。今日も天気が良くて気持ちいい。


 今日は寝ないぞ!と、ヴィルと話をする。


「ヴィルは海に行ったことある?」

「あるな。この国ほどではないが、アリシャールにも港があるんだ」

「へえ!泳いだりするの?」

「泳ぐ?魚を取りに入ることはあるそうだが……」

「娯楽で泳ぐことはないんだね。

 向こうでは暑い時期には海で遊ぶんだよ」

「溺れないのか?」

「水着着るし、浅瀬でぷかぷかすればいいし」

「水着?」

「うん、最低限の布で軽い素材だから溺れにくいよ」

「最低限の布?」

「隠さないといけないところだけ隠すの。

 胸とかお尻とか。まあ、お腹は隠したり隠さなかったり」

「……スズはそれを着て海に行ったのか?」

「え?私はそんな友達も居なかったし、子どもの頃に家族で行ったくらいだよ」

「……それはよかった」

 ヴィルはなぜかホッと息を吐いている。


「海に行くのは久しぶりだから楽しみ」

 その調子でヴィルと色々な話をした。



 途中、休憩をとり非常食用に持ってきていたクッキーを少し食べた。


 それからもヴィルの国の話やあちらの世界の話を、しながら道中を過ごす。


 こんなに会話が尽きないのは初めてで、ヴィルといるのは楽しいなと思った。



 夕方に公爵領につき、宿屋を探す。

栄えている港町だけあり、あっさりと二人部屋が見つかった。


 荷物を置き、街に出ると夕方にも関わらずたくさんの人が歩いていた。


 今日はお昼にクッキー数枚を食べたきりなので、食堂に入ることにしようと話していた。

なので、食堂を探しながら歩く。



 石造りの街並みがおしゃれで、歩いて探すだけでも楽しい。

海沿いの街なので、食堂もたくさんある。


 その中でもこじんまりとした食堂を見つけて、そこで食べることにした。


「こんばんは、入ってもいいですか?」

ヴィルが中に座っている男性に声をかける。


「どうぞ〜、お好きな席に座って」

恰幅の良いおばあさんがにこにこして案内してくれた。ご夫婦でやっているようだ。



 メニューはやはり魚料理が多かった。

刺身はなかったが、塩焼き、煮魚、揚げた魚、色々ある。

「私、煮魚が食べてみたい!」

「そうか、魚の唐揚げも頼んでみるか?」

そういうとおばあさんに頼んでくれる。

パンと野菜も追加していた。


 しばらくすると運ばれてくる。


「お待たせしました。

 唐揚げと、煮魚、パン、野菜ね」

どれも美味しそうで、量もがっつりある。

食べきれるだろうか。



 煮魚は白ワインで煮てあり、あっさりしていてアクアパッツアのようでおいしい。

唐揚げも塩味でぺろっと食べられた。


 醤油が恋しい気もするが、これはこれでいくらでも食べられそうだ。

「おいしいねぇ」

 頬に手を当てもぐもぐと食べる。幸せだ。

「そうだな」

ヴィルもおいしそうに食べていた。


 ふたりでしっかり全部食べて、ヴィルが奥のおじいさんにお会計をしてもらっている。



 ヴィルがお金を払っている間、おばあさんとお話しをしながら待つ。


「あなたたち、ここへ来るのははじめて?」

「はい、とてもいい所ですね」

「そうね。……でも、気をつけてね。

 ここの所、変な噂を耳にするから」

「変な噂?」

「ええ、旅の方が荷物を置いたまま姿を消すって」

「それは妙ですね」

 どこかに連れ去られたのだろうか?


「でしょう?まあただの噂かもしれないけれど」

「気をつけますね。

 ありがとうございます」

 ヴィルが戻ってきたので、おばあさんにお礼を言うと食堂から出た。



 ヴィルに先程のおばあさんの話をする。

「連れ去られたのかな?」

「どうだろうか。自ら姿を消した可能性もある。

 まあ、気をつけるに越したことはない」


 道が暗くてなにもかも怖く感じてしまい、ヴィルの服を掴む。


 これを吊り橋効果というのだろうか。

心臓がドキドキして、ヴィルと離れたくないと思う。

ここから発展する恋もあると言う。


「大丈夫だ。なにかあってもスズだけは助ける」

「それは駄目。ヴィルも助ける」

恋愛感情かはわからないけど、ヴィルのことは大切に思っている。


 私だけ助けるなんて絶対してほしくない。



 そのあと、無事に宿屋に帰り、お風呂に入る。

昨日と違いベッドがふたつある。幸せだ。

布団に入るとすぐ寝てしまった。



****


 クマside




 ーースズがぐっすりと寝息をたてて寝ている。




 それを確認すると扉の鍵を開け、声をかける。


「……カイル、入ってこい」

 そういうと扉から静かに入ってくる。


「本当にずっとついてくるとはな。

 カイルに頼みがある。

 もし、なにかあればスズを助けろ。 

 私は自分でどうにかなる、聖石もあるしな」


 まあ、まだほとんど色はないが。

スズが聞いた話にそう頼むと決めていた。

なにかあった時、スズだけは守りたい。

そのためにはカイルに頼るしかないのだ。


「それは……!

 殿下は、アリシャールに必要な方です」

「スズはあの皇帝陛下のお気に入りだ。

 どちらを優先すべきかわかるだろう?

 国にスペアはまだいる」

そう言えば、カイルが反論しないと分かっている。

恨まれて戦争を仕掛けられても困るだろう。


「……」

「いいな?」

「……承知いたしました。

 スズ様の安全を確保したあと戻ります」

「ありがとう」

戻らなくていいと言いたいが、怒るだろうと口には出さなかった。


「……スズ様のこと本気なんですね。

 身分が釣り合いませんよ」

「わかっている。

 押し切る方法もなくは無い。

 今はそれよりスズに振り向いてもらいたい」

でなければ、スズと婚姻など出来ないのだから。


「……」

 カイルが遠い目をしている。

「なんだ、その顔は」

「道のりは長そうだと」

 見ている限り友人の域を出ていないとカイルは呟く。

「……はあ」

 言いたいことが手に取るようにわかり、否定できなかった。



 スズが寝返りをうつ。


「もう休んでいいぞ」

 カイルにそう告げると挨拶をして出て行った。



 自分のベッドに腰掛け、呟く。


「スズ、好きだ。

 だからしっかり男として見てくれ……」




 ――まさか、鍵を閉めた音で目が覚めたとは思わず。


 




 

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