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クマとシロクマ




「それで、ひと月どうしたい?」

「どうしたいって?

 ヴィルは国に帰ってお仕事はしないの?」

まさかずっと一緒に過ごすのだろうか。

「私はしばらくは外遊だ。

 王太子も他の王子もいるので問題ない」

 ヴィルは楽しそうだ。


「そうなんだ。

 ヴィルはなにかある?」

「他国も見てみたいが、この国を周るのもありだな」

 確かにこの国のことはもっと知りたい。

 住みやすそうな街などあるかもしれない。


「じゃあ、この国を周ってみます? 

 ヴィルもお仕事になるかも」

「では、そうしよう。

 そうと決まれば陛下に許可を取って来なければ」

 ヴィルが立ち上がるので私も慌てて、ついていく。

「私も行きます。

 荷物も残してるから」



 私が取って来るのに、と言われながらふたりで部屋からでて、執務室を目指す。






 執務室にはすんなり入ることが出来た。

 先程の話を陛下にすると渋い顔をされたものの、無事に許可が下りた。

「どこに行くか決めてるの?」

 つまらなそうに陛下が聞くと

「まだ決めておりません。

 どこかおすすめがございますか?」

 ヴィルがにこやかに聞き返す。


「……全部おすすめだ」

「そうですか。では、全部周らないと帰れませんね?」

 ふたりともにこやかに話しているのに、なんだか怖い。

 少し離れて荷物を運ぶことにした。

 その間もふたりは仲良く話している。





 側にいたレオン様に帰ってきた挨拶をして、デイル帝国の地図を借りる。


 持ってきた筆記用具でノートに模写する。

ついでに、名所や街の規模の詳細を聞きながらノートに書き込む。

ペンで色付けするとわかりやすくなり、持ってきて良かったと実感する。

こんなに早く役立つとは思わなかった。


 地図をみてわかったが、デイル帝国は海沿いの国で北側に位置しているらしい。

 



 アリシャール王国が左下に、カリストス王国が右下とこの二国が隣接している。

カリストス王国とも不可侵条約を締結しているため、今のところ争いはない。

と、レオン様が説明してくれた。


 知りたいことを全部教えてもらえてとても助かった。



 レオン様と話していると両側から影がさす。


「「なにしてる?」」


 ハモるなんてやはり仲がいい。

ヴィルと陛下は嫌そうな顔をしているが。


「レオン様に色々教えていただきました」

 そう言ってまとめたノートを見せる。



「綺麗にまとめるね。

 スズ、ここで働かない?」

 お城で働くなんて身分不相応だ。

 しかし、私が答えるより先にヴィルがいう。

「ご冗談を。スズは私の国に来る予定だ」

 そんな予定は今のところない。

 また止まらなくなりそうなので話を変えた。


「それより、いつ出発しましょうか?」

「護衛騎士はどうするの?」

「つける予定はありません。

 私としてはすぐにでも出たいが、準備等を考えると早くても明後日だろうか?」

「わかりました。

 では、明後日部屋に伺いますね。

 失礼いたします」



 そういうとさっさと荷物を抱えて、レオン様に部屋まで案内してもらう。


 後ろで仲良くなにか言っているのが聞こえた。



 

「おかえりなさいませ、スズ様」

 部屋に入るとフェリスさんの姿があった。

「フェリスさん!お久しぶりです。

 また数日お願いします」

 フェリスさんは微笑みながら、お任せくださいといってくれた。


 

 

 またもや至れり尽くせりの生活をしながら、荷物の準備をした。


 持ってきたものからノート数冊、ペン数本、イヤリング、ぬいぐるみだけ置いてあとは持っていくことにした。

救急セットも持ってくればよかったと後悔する。


 次の日ガーゼや軟膏などは借りておき、厨房を借りて非常食のクッキーを作っておく。


 これ以上必要なものが今は思いつかない。

街歩きの時に残った7万ノラで買うしかないだろう。




 長く旅したことはないので、明日出発だと思うとわくわくする。

ヴィルとふたりというのが色々心配ではあるが。


 あちらの世界ではきっと出来なかったことだ。

だからこそ、余計にこちらの世界に惹かれるのかもしれない。

クマに会えてこちらに来れて、良かった。


 感謝しなければ……と思いながら夢の中に落ちていった。




 翌日ぐっすり寝てスッキリした私は身支度を始めた。

朝食を食べて、フェリスにお礼をいうとヴィルの部屋に向かう。



 部屋に着き声をかけると、ヴィルが迎えてくれた。


「準備できたか?

 しばらくは馬に一緒に乗って行こうと思うが、いいか?」

「馬!?乗ったことないけど、大丈夫かな?」

 よく映画で見る横乗りだろうか。

バランス崩して落ちたりとか……ないだろうか。

さすがにドレスで足を開くのはないだろう。  


 いざと言うときのために、持ってきたズボンをドレスの下に一応履いておく。


 あれやこれやと準備をしていると、扉をノックする音がして陛下が入ってきた。

「スズ、もうすぐ出発でしょう?

 御守りを持ってきたから、持っていって」

 そう言うと、首にスッと腕を回された。


「……綺麗なネックレスですね。

 こんないいものをいただいていいのですか?」

 銀細工の丸い飾りがついていて、裏には紋章が書いてある。なんだか高級そうだった。


「ああ、それは御守りだからね。

 どうしようもなくなった時に見せるといいよ」

 まさかこの紋章は陛下の印だとか……?

絶対に無くしてはいけない御守りを手に入れてしまった気分だ。首にかかるネックレスを重く感じる。


「……ありがとうございます。

 大切にしますね」

しかし、親切心で御守りをくれたのだ。

きちんと感謝を伝えておいた。


「スズ、気をつけていってらっしゃい」

 そういって笑うと陛下は部屋を出て行った。


 ヴィルにはなにもなくてよかったのだろうか。

まあ、陛下のほうが立場は上だと思うが。


 ヴィルは複雑な顔をしている。

見送ってほしい訳ではないが、自分だけスルーされるのも微妙な気持ちなのだろう。


「ヴィル、出かけよう!」

そんなヴィルに声をかけると裏門に行くことにした。




 裏門に馬の手綱を持って待っている人がいる。


 光に当たると赤っぽい髪をしていて、姿勢が綺麗だ。細すぎず、しっかり筋肉がついている。

 帯剣しているので騎士だろうか?


「カイ、待たせてしまったな。ありがとう」

 カイというらしい。

ヴィルはその騎士のもとに駆け寄っていく。


「いえ。本当におひとりで行く気ですか?」

「ああ。もう男には居てほしくない。どうしてもと言うなら隠れてやってくれ」

「まさか、殿下がそのような方だとは……」

「私もしらなかったな」


 声を潜めて会話していて私には聞こえない。



 馬は茶色で立派だった。

私が知っている馬よりも大きい気がするが、同じ馬なのだろうか。


 ヴィルは話を終えると私を抱えて、馬の鞍に横乗りで乗せてくれた。


 そのあと、ヴィルが後ろに飛び乗る。

荷物も引っ掛けてくれた。

「カイ、あとは任せた」

そういうと手綱を握り、馬を歩かせ始めた。

 


「大丈夫そうか?」

 近い。思っていたよりずっと近い。

耳元で喋るのはやめてほしい。

馬よりもそちらに意識がいってしまう。



「頑張るよ」

 ……色々な意味で。

近くにいるヴィルからはいい香りがする。

緊張して汗がでてきている私は臭くないだろうか。

いつもは気にならないことが、気になってしまう。

私はとにかく話して誤魔化すことにした。



「先程の男性は?」

「……あれは、私の護衛騎士だ」

「一緒じゃなくていいんですか?」

「心配しなくていい」

 そう言われるとなにも言えない。



「どこに向かうの?」

「海のほうにいこうと思っている」

 えっと、皇城がデイル帝国の真ん中あたりでで上の方に行けば端はみんな海……だったはず。


 海なんて久しぶりに見る。


「まあこの馬でも2日ほどかかると思うが。その間に街などに寄ろう。スズが最初に宿泊する街を決めてくれ」

この馬でも、ということはやはり特別なのだろうか。

メモを思い出しながら考える。

少し大きい街で花が特産の街があったはず。


「リシアの街に行きたい。花の街」

「わかった。では、リシアを目指して進もう」

 なんだか楽しみでワクワクしてきた。

こんなふうに誰かと一緒に旅をするなんて初めてだ。



 それからは見えたもののことを教えてもらったり、ヴィルと話をしながら進む。

馬の上から見る景色はいつもと違って楽しくて、私ばかり楽しんで申し訳なく感じた。


「私乗ってるだけでごめんなさい」

「スズが乗ってるから楽しいんだ。

 馬でのんびり進むのも楽しいな」

 そういうヴィルは本当に楽しそうに笑っていて、私はホッとした。



「あの水辺で休憩しよう」

そう言ってヴィルは先に馬から降りると、私を抱えておろしてくれる。

「ありがとう」

体重だけが心配だ。重くないだろうか?

それを聞く勇気はないのだが。



 馬がおいしそうに川の水を飲んでいるのをぼんやりと眺める。

こんなに外でのんびり過ごすなんて、いつぶりだろうか。日差しは暖かくて気持ちいい。


 立ちながらボーッと日向ぼっこをしていると、ヴィルが隣にやって来る。


「スズ、お昼にしよう。持ってきたんだ」

そう言って座れそうな石を探すと、上にハンカチを敷いて座らせてくれる。

細やかな気遣いが嬉しい。

だが、王子はヴィルのほうなのに、とも思う。



 ヴィルは鞄から包みを出して、お昼の準備しているようだ。


「スズ、どうぞ」

ヴィルがパンを差し出してくれる。

パンを見ると塩漬け肉が挟んである。

「おいしそう!いただきます」

下品だろうかと思いつつも、かぶっとかぶりついた。



「んー、おいしい!

 外で食べると特別な感じするね」

 もぐもぐしながらヴィルのほうを見ると、ほんのり赤い顔をしている。

「ヴィル、どうしたの?体調悪い?」

私は心配になって聞く。


「いや、可愛いなと思っただけだ。

 初めてふたりで食事するので、パンと塩漬け肉、香草をもらって、今私が仕上げたんだ。少しでも特別にしたくて。……まあ、挟んだだけだが」



 ヴィルの気持ちが嬉しい。

王子だから、そんなことしなくていいはずなのに。

「嬉しい。ありがとう、ヴィル」

嬉しくて顔が赤くなりそうなのを、誤魔化すようにパンを食べる。



 ふと横を見ると、ヴィルもかぶりついているのが見えた。

いつもと違いシャツとパンツのラフな格好をしているのに、とても絵になる。

それがなんだか格好良くて見惚れてしまった。

「スズ、あんまり見ないでくれ」

ヴィルが照れて頬が赤い。

いつも見せない顔になんだか胸がさわさわした。








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