表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/137

再会するシロクマと必死なクマ




「スズ!!帰ってきたの?

 え、その隣の人はもしかして……」

 陛下が相変わらず綺麗な顔を驚きに染めている。

並ぶとやはり雰囲気が似ている。

ふたりとも体格がこの国では珍しくスラっとしているからだろうか。

しかし、目元が一番似ているような気がする。



 今部屋には陛下だけだ。

もちろん、扉の外に護衛騎士がいるだろうが。


「お久しぶりです、陛下。

 こちらは私の友人のシャロです。設定上ですが」

シャロは気まずそうに目を逸らしている。


「シャロ……殿、元気でしたか?

 ずっと心配してた。その髪と、瞳は……?」

「元気です、陛下。それは代償にしました。

 あっても困るものですから。これでなければ、再びこの地を踏むことはなかったでしょう」


 銀色の髪と瞳はこの国では高貴な証らしい。

皇族は皆両方か、片方持っているそうだ。

それでは、どこにも逃げられないだろう。



「そう、どうやって向こうへ?」

「それは…言わないと約束しているので。

 ご容赦ください」

 弟でも陛下だ。口調を崩さない。

それを察して陛下も普段通りに喋ろうと努力している。


「わかった。これからどうするの?」

「旅人になろうかと。ゆくゆくはどこかで商売を、しようと思っています。

 陛下の元気そうなお顔が見れて安心しました」



「……なぜ逃げたの?私のせい?」

 陛下が苦しそうに聞く。

「違います。私には向かなかった、陛下には向いていた。ただそれだけです。

 押しつけたようで申し訳ないですが。国民が幸せになれるよう、善処するのが皇族の務めですから」


「そうか。後悔はない?」

「全くありません。」

 その答えを聞いて陛下はホッとしたような、スッキリしたようなそんな顔をしていた。





「では、そろそろ私は街に行きますね。

 失礼いたします。

 スズさんもありがとうございました」

 え?と思う間もなく、部屋の窓から外に出て行った。


「……行っちゃいましたね、窓から」

 確かに扉の外には護衛がいるが。

「そうだね、困ったものだよね。

 昔から兄はああなんだ。自由のようで、よく考えて行動している」

 思い出しているのか、クスクス笑っている。

「いいお兄様ですね。」

「ああ。自慢の兄なんだよ」

 連れてきて良かった。

陛下は憑物が落ちたかのように、嬉しそうな顔で笑っている。



「スズ、ありがとう。

 本当に嬉しくて……ごめん。少し後ろ向いていて」

 言われた通り後ろを向く。


 陛下は泣いているのかもしれない。

ずっとひとりで頑張ってきたのだ、兄の分まで。

そう思ったら、振り返って抱きしめていた。

陛下は背が高い。

だから抱きついているようにしかならなかったが。


「スズ……!?」

「はっ!ごめんなさい、嫌でしたよね……」

「嫌ではないけれど、驚いた。

 私が抱きしめるほうが落ち着くかな」

 そう言って腕を回し、私を胸に押し付けた。


 これはとても恥ずかしい、近すぎる。

どちらの心臓なのか、ドクドクと激しい。

いっぱいいっぱいでなにも聞こえなかった。

ノックの音も陛下の返事も。


「は?」と言う声も。



「スズ!!」

 そう、叫ぶ声が聞こえてハッとする。

顔を上げるが離してもらえない。

「あの、陛下?」

「ああ、ごめん。ありがとう」

 陛下はなんだか困った顔をして笑っていた。


「ヴィル、帰ってきたよ」

軽いだろうか、と思いつつもそれしか出てこない。


「帰ってきてくれるとは思わなかった……。

 だが、なにしてる?

 なんで抱き合っていた?」

 ヴィルがなぜか少し怒っているようだった。


「……そんなことが言いたくて待っていたの?

 人の国で、ひと月半も」

 そう、陛下に言われるとヴィルはバツが悪そうに目を逸らした。



 って、ひと月半!?そんなに経ったの?


「遅くなってごめんなさい」

ひと月半も待たせてしまった。

忙しいはずなのに、だから怒っているんだと血の気がひく。


「いや、悪かった。違うんだ。

 私より先に陛下に会って、抱き合ってるので動揺してしまった。

 スズ、ふたりで話がしたい」

 私はちらりと陛下を見る。


「いいよ、いっておいで。

 荷物は置いておいていいから」

 ヴィルはなんだか不満そうだ。

「では、失礼いたします」

 ヴィル行こう、と促して部屋から出た。





 歩きながら気になっていたことを尋ねる。

「私が来たって、知っていたの?」

 ヴィルは執務室には近づかないようにしている。

知っていてきたと思うほうが自然だ。


「レオン殿が呼びにきた。扉の外で聞こえたと」

 そういえば、レオン様には会っていない。

扉の外にいたなら声をかけてくれれば良かったのに。



 そんなことを話しているとヴィルの部屋に着き、ソファーに座ると、久しぶりの再会に緊張してきた。


「スズ……会いたかった。

 戻ってきてくれて本当に嬉しい。

 あの日のこと、きちんと謝らせてくれ。

 申し訳なかった」


「なんであんな態度を?」

 聞きたいことを聞く。


「……嫉妬した。早く会いたくて急いで帰ったが、スズはいなくて。クマの陛下と街歩きしていた。

 私のことは忘れて陛下が特別になったのだと」


「嫉妬?特別?」


「ああ、私はスズが好きだ。向こうにいる時から好きだった。だから不安になったんだ。

 陛下はあの通り美丈夫だろう。

 スズは隙だらけだから、放っておくとすぐに騙されて絆されてしまう」 


 へ!?好きってそっち?人間的な意味じゃなくて?

なにかの間違いでは……。

そして、なんだか失礼なことを言われている気がする。


「え!?じゃああのキスは?」


「したかったから、した。

 私とてはじめてだった」

そう言い切られると恥ずかしい。

ヴィルも初めてだった、それが少し嬉しい。

恥ずかしさで視線をうろうろさせる。


 あの日を思い出してしまって顔が熱い。


「……そんな顔するな、したくなる」

 そんなこと言われると余計に顔が熱くなる。

「安心しろ。スズが好きになってくれるまではもうしない。だから、早く私を好きになってくれ。

 他の男に奪われる前に」



 ヴィルはどうしても私が惚れられ、絆される前提で話したいらしい。

私はいままで告白されたこともないし、モテない。

こんな経験はないのだ。

なんと言ったらいいのかわからない。



「私戻れなかったらこの国の街で働くつもりで……。

 だから、気持ちには応えられないと思う。

 ヴィルは王子様だし、不釣合いだよ」

 私の気持ちをそのまま答える。


「……街じゃないといけないのか?」

「生きていくにはお金を稼がないと」

「クマだったらいいのか?」

「クマとは結婚できないよ」

「……私が他の誰かと婚姻してもなんとも思わないのか?」

 そう言われ、想像するとなんだか嫌な気持ちになる。だけど、それはきっと寂しいからだと思う。


「それは寂しいけど……仕方ないよね」

その答えを聞くと、ヴィルはしばらく考え込む。



「では、これはどうだろう?

 私にひと月ほど時間をくれ。その間にスズが私を好きにならなかったら、諦める。もし、好きになったら私の国へ一緒に来てほしい」


 え、それは、え?

好きになる?ひと月で?

好きになったら……怖い未来しか待っていない。


 王子との結婚なんて全力で回避したい。

それくらいならクマと喜んで結婚する。

しかし、ここで断ってもヴィルは納得しないだろう。


「……わかった。でも、キスはなしですよ!」

あんなキスは、即怖い未来行きだ。


 なんとしてもひと月、絶対耐えて回避する!

私はそう、決意した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ