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カフスボタンとサングリア



クマside



「……最低だ」

 ベランダで夜風に当たりながら、ひとりごつ。


 陛下への嫉妬でスズに当たってしまった。

私はもういらない、そう言われるのが怖かった。

だから必要以上に話したくなかった。

自分勝手だ、改めてそう思う。



 男の自分から見ても、陛下は完璧な人だ。

だからこそ、一緒にいてほしくなかった。

もし、スズの可愛さに気付かれてしまったら。

私は勝てる自信がない。

地位も、見た目も、才智も……中身も。

陛下に勝るものは持っていないのだから。



 スズが泣いてしまった時も。

身を引いて、私を焚きつけた時も。


 正直器の大きさが違うと思った。


 ああは言っても、スズが陛下が好きだと言えば、あっという間に周りを整えて守るのだろう。



 このままでは、陛下に負けても当然だ。

誰もこんな自分勝手な人間を好きになったりしない。


 明日スズに謝って、陛下を元の姿に戻したら、きちんとスズの話を聞こう。

……たとえ、陛下を好きになったと言われても。



 そう、心に決めるとスズの侍女に会いに行った。



「朝起きてスズがほしいと言ったら渡してくれ。

 言わなかったら捨てていい。

 ただ、私からだとは決して言わないでくれ」


 そう頼んで、聖石で出したものを手渡した。

侍女は困ったような顔をしていた。


 私には目を冷やせるものを用意することしかできない。

もし、嫌悪していたら名前も聞きたくないだろう。

そう思って伏せてもらうことにした。

ただスズの役に立てればそれでいい、今はそれだけでいいんだ。



 明日会いたい、と思うが同時に会いたくないとも思う。怯えられてしまったら、目も合わせてくれなかったら。

そう考えると、弱気な部分が顔を出す。


 自分の行いの結果だというのに。


 そんなことを考えていると、寝ることも出来ず、外の景色が変わる様をぼうっと見ていた。




 昼頃になると、レオン殿が袋を抱えてやってきた。

そうして袋の中のシロクマを置くと、スズに声を掛けるためか、また出て行った。


 

「随分とやつれてるね」

シロクマは私の顔を見ると、皮肉を言う。

 全く睡眠を取っていないため、そう見えるだろう。

「昨夜はありがとうございました。

 おかげで、目が覚めました」

このシロクマがいなければ、もっと追いつめて、もっとスズは取り乱したかもしれない。


「それは良かったね。

 スズがなんて言うかは知らないけれど」

やはり泣かせたことには怒っているらしい。

自分が逆の立場でも許せないので、当然だろう。




 その時、扉が叩かれた。


 心臓がドクドク、と嫌な音をたてる。

立ち上がり出迎えると、スズと目があった。


 スズは目も腫れておらず、元気そうで安心した。


「ヴィル、大丈夫?」

こちらを見ると心配そうに声をかける。

スズは優しすぎるんだ。

嫌な思いをさせたのに、そんな風に心配するなんて。

だからこんな男に、執着される。


「平気だ。昨日はすまなかった。

 嫌な態度をとって、悪かった」

私が謝るとなぜかスズも謝る。

スズはなにも悪くないのだが。


 陛下には果物をもらったらしい。

それに胸がチクチクするのを感じた。


 それを誤魔化すように、ジャケットに入れていた本もスズに渡した。

私が聖石を使って作用しないとも限らない。

それに元はスズのものだ。

返しておくのがいいだろうと思ってのことだった。


 それを見た陛下は過去の話をし始めた。

陛下の兄の本だとは知らなかった。

昨夜聞いた通りの話を聞いて、スズを失いたくないと、より一層思った。



 陛下の一言で、元に戻す儀式を始める。


 手を置いてもらい、心の中で聖石に呼びかける。

『元に戻してくれ、もう大丈夫だ』

そう願うと、すぐにシロクマから人間に戻った。


 スズが嬉しそうに笑っているのを見ると、また胸がチクチクする。

 ふと、いつの間にかスズの手元の本が光っているのが視界に入る。



 まさか。

嫌な予感が、胸をよぎる。


 慌ててスズに触ろうと思っても、触れない。

取り乱すことのなかった陛下さえも、必死に触ろうとしていたが触れない。



 スズは一生懸命なにかをいっている。

しかし、今はそれどころではなかった。


 

 なぜだ!

デイル帝国の執務室行きだけではなかったのか!?

2度目もそこにしか繋がらなかった。


 では、なぜ。聖石か?

向こうの世界では聖石が使えなかった。

逆は反応するのか?

向こうの世界……まさか。先程の言葉。

『元に戻してくれ、もう大丈夫だ』

クマをとは言っていない。

スズも元に戻そうと思っているのか!?

曖昧な言葉は危険だ、そう知っていたはずなのに。

余計な事ばかり考えていたせいだ。



 慌てて聖石を見ると、もうほとんど透明になっている。


 この聖石は緑色の濃さで溜めた力の量がわかる。

呼びかけるも、反応はない。

間に合わない。


 やめてくれ

やっと素直に話をしようと思ったところだ

ここで離されたらもう会えない


 願っても願っても、スズは無情にも消えてしまった。


「うそだ、いやだ、スズ

 私を置いていくな

 まだなにも伝えてないだろう

 どうして……」


 体に力が入らず、床に座り込む。

陛下はソファーにもたれかかり、表情は窺えない。


 立ちすくんでいたレオン殿は私たちを見ると言う。


 「スズ様は、部屋の棚をみてとおっしゃってました。感謝の気持ちだからと。あんなに必死に訴えていたのです。見ないといけないのではないでしょうか」


 その言葉に、私と陛下はふらふらと立ち上がり、スズの部屋を目指す。


 部屋に着くと、あの侍女が出てきた。

「部屋にある、棚を見たい」


 侍女はそれだけ言われて、状況がわからず困惑しているが、陛下がいうので断れない。


 急いで部屋に入り、棚を見ていく。

すると、奥の方のひっそりとした棚に、なにか置いてあるのを見つけた。


 カードにはヴィルへと綺麗な字で書いてあった。

スズの字だ。




『昨日は泣いて取り乱してしまい、ごめんなさい。

 陛下をクマにしたことを怒って嫌われてしまった?それとも、最初から好かれてなかった?あのキスも、ただの決まりで渋々だった?

 好きな人とするのが夢だったのに、そうでない人に決まりでされてしまったから悲しかった?

 色々考えていたら、なぜか泣いていました。

 ヴィルにはもう私が必要ないのかもしれません。

 でも、私はヴィルが居てくれたから少し強くなれたと思う。だから、感謝を込めてこれを贈ります。陛下と街に行った時見つけたの。あ、ヴィルの色だって。安物だから駄目かもしれないけど、喜んでくれると嬉しい。ヴィル、ありがとう』


 スズが必要ないなんてあり得ない。

あのキスだって、したくてしたんだ。

スズにとっては好きな人ではないが、私にとっては好きな人とのキスだった。

私とてはじめてだったんだ。

 

 そう言いたいのに、言いたい人がいない。


 

 手の中にある包みをあけると、緑色をしたカフスボタンが入っていた。


 スズは陛下と出かけていても、私のことを考えていた、忘れてなんていなかった。


 勝手に決めつけてあんな態度とって。

どうしてもっと優しく出迎えなかったのか。

そうしたらこんな形でもらうことはなかった。


 きっとスズが街の話をしながら、とびきり可愛い笑顔で渡してくれた。

  

 そう考えたらもう涙が耐えられなかった。

みっともなく胸に抱えると泣いてしまった。





シロクマside

 

 スズが消えた。

兄と同じように、突然に。


 あの男と婚姻するとしても姿が見れればそれでいい、そう思っていた。


 スズがいい残した言葉を頼りに部屋に行けば、カードが2枚置いてあった。

隣の包みはあの日に買っていたものだろう。

私のものはメッセージカードしかなかった。


 自分でスズは心の中だけと決めたにも拘らず、嫌な気分になった。



 

 シドラン皇帝陛下へ

『昨日はお見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません。果物はとてもおいしくいただきました。

 街に出掛けたとき、街の人は幸せそうで話を聞いて尊敬しました。こんなにも努力家ですごい人がいる、私も頑張ろうと思えました。

 陛下は毎日気が抜けず、大変だと思います。

 もらった果物でサングリアを作りました。毒はいれてませんが、念のため毒見をしてもらってください。陛下が、ホッと一息つける時間になれば嬉しいです』


 私のも用意してくれていた。

スズが私のことをそんな風に思っていたなんて、知らなかった。

御礼を言いたい相手が居らず、悔しさに唇を噛んだ。



 侍女にスズが作ったものを取ってくるように頼む。


 取ってきた瓶には、赤色の液体と果物がコロコロと入っていて見た目も美しい。

飲むのがもったいないが、グラスに入れ口に含む。



「鮮やかで甘酸っぱい。

 はじめての味だ。

 まるで、スズのようだね」と笑ってしまった。



 スズを諦めるなんて出来るのだろうかと、隣で泣いている男を見ながら思った。





 

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