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憤るクマ


 ヴィルside



 デイル帝国の皇帝陛下の執務室に飛ばされるとはおもってもいなかった。

罰を受けるのが自分だけで済めばいいが、スズが罪に問われるのは避けたい。


 床で捕まりながら、どれが最適か考える。




 すると、スズが探している声が聞こえた。

クマではない私に気づいていない。

「スズ、大丈夫だ。私はここにいる」

スズは半信半疑な顔をしながら聞いてくる。


「……そうだと言ったら?」

スズは距離をとるのか?と続ける勇気はない。

しかし、戻れてよかったですね?と、困ったような他人行儀な言葉を聞いて察してしまう。


 ああ、クマじゃなくなれば、やはり距離をとるのか、と。


 こうなると覚悟していたはずだったが、胸が痛くて、言葉が出ない。




 そんなことを考えていたら、皇帝陛下を忘れてしまっていた。


 皮肉を言われ、名乗りたくない名前を名乗る。


 先程考えていた、信用を得るための一手を持ち出す。

しかし、噂通りのお方はそれだけでは許さなかった。


 スズを条件に出されても、頷くしかないのだ。

できるだけ、早く戻ればいい。

そう思い、グッと我慢した。



 ふたりきりになってもスズは他人行儀な口調で話し続ける。



 スズに聖石を渡そうとしても断られる。

預けておきたい、と言ってやっと受け取ってもらえたが、心配は尽きない。


 もし、万が一、あの皇帝陛下となにかあれば……。

本の通りのあの容姿と物腰の柔らかさ、頭の良さは私にとって脅威だ。

私には勝ち目はないと思う。


 スズは礼儀作法をとても気にしていた。


 スズに聖石を渡そうとしても断られる。

預けておきたい、と言ってやっと受け取ってもらえたが、心配は尽きない。


 関わって欲しくない、その気持ちがでてしまった。


「ああ、誰にも会わなければ必要もない」

むしろそうしてほしい、と呟いた。

「あ、そうですよね。失礼があってはいけないですし。浅慮でした」

「そういう意味でいったわけでは……まあ、会わないに越したことはない。おそらくだが、あの本に書かれていた王子はシドラン皇帝陛下だ。……美丈夫だっただろう?」


 否定しないとわかっていながら、聞いてしまう。

「そうですね。とても綺麗な方でした」

そう言われると、焦った。




 聖石を預けるのに決まりなどない。

ただ、スズの中に私の存在を残したかっただけ。

自分勝手な、卑怯な方法だった。


 スズは疑いもせずに、可愛い反応をする。


 本当は聖石をつけて、手の甲にキスするだけのつもりだった。

だが、口にと勘違いするので、欲が出た。

スズからなどできないとわかっている。

断れないようにするためだったが、はじめてだから、なんて言われると思わなかった。


 もう、待てなかった。


キスをすると真っ赤になったスズが可愛くて、顔を隠そうとする手を捕まえて、何度もキスをする。

一度だけ、そう思っていたのに人の欲は際限がない。



 ノックの音が響いた時、ハッとする。

夢中で唇を重ねてしまったことに気づいた。


 ボーッとしているスズに言う。


「スズ、私のことだけ考えて。

こんなにキスしたから、もう忘れられないだろう?

 ……すぐに戻る、待っていてくれ」



 忘れられないのは、私のほうだ。


 だが、スズも思い出してくれと願いを込めて、そう囁く。

聖石の緑色にも気づいて、さらに私で埋め尽くされると、なお良い。



 名残惜しいが、挨拶をして扉の外に出ると。


 心臓が早鐘を打っていて、そこで蹲み込んでしまった。

ふぅ、と息を吐いて落ち着けると、早く帰るために立ち上がる。




 夜通し、馬で駆ける。

この馬はとても早く特別な馬だった。

早朝には国王陛下に許可をとり、そのまま議会にかける。

相手は大国で、戦を望んでない者が多くすんなり通ったため、夕方には証書を手に入れる。


 今から帰っても夜中だろうか、と思いながらも早く会いたくて荷造りの用意をする手を止めない。


 ふと、ジャケットの中に本があるのに気がついた。

ひょっとすると、また同じ場所にいくのでは、と試してみることにした。

スズがしていたように模様をなぞる。



 すると、あの時と同じように光り始め……。

その光が弾けると。




 ーー皇帝陛下の執務室にいた。



 しかし、そこに皇帝陛下はいない。

宰相だという男からスズと街に行っていると聞いた。


 ーークマになって。



 クマは私だけの特権だと思っていた。


 クマだったら、スズは気を許す。

もしかすると、私がクマだった時のように、皇帝陛下に接しているかもしれない。


 もしかすると、皇帝陛下も……。


 そう思ってしまったら、部屋で待つことはできなかった。



 裏門まででて、帰ってくるのをひたすら待つ。

宰相に、まだなのか何度も尋ねながら。



 馬車が到着し。やっとスズの姿が見えた。


 スズもこちらに走ってくる。

……腕にクマを入れた袋を抱えながら。


 

 それを見たら、感情が抑えられない。


 普通に返事をしたつもりだが、冷たくなったかもしれない。


 なぜ、どうして。

クマだったら誰でも抱っこするのか、そう口から出そうだった。


 早くそこの男に渡してほしい、そう思い袋を取ると。


「それは駄目!」

 離さない、と言わんばかりに取り返された。

それを聞いたら、もうとまらない。


「駄目とは?スズが抱えないといけないのか?レオン殿に抱えてもらえばいいのでは?」

こんなことがいいたい訳ではない。

自分勝手な言い分だと分かっている。しかし。


 会いたくて急いで帰ってきたにも拘らず、スズは。

私だけだったのだろうか。

街歩きは楽しかっただろうか。

皇帝陛下に惹かれてしまっただろうか。

離したくないほど。



 ーー私だけが知っていたはずだったんだ?



 見かねた宰相が袋を取ると、スズは私から逃げるようにそのあとを追いかける。



 もう何も考えたくなかった。







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