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09 Lady's pride and reality problems(淑女の矜持と現実問題)

 なお、家政婦(ハウスメイド)のお仕事も特段の指示は無いみたいで自由裁量、これから働くことになる屋敷の間取りを把握して、蒸気機関式の小型圧縮機を内蔵した冷蔵庫の中身も確認した後……


 せっせと掃除をしていたら、前日よりシャワーを浴びてなかった事もあり、()()()()嗅覚が鋭いと(うそぶ)くディーに捕まって、私は一進一退の攻防を続けていた。


「~~~っ、だからッ、お風呂くらい、ひとりで入れますって!」


「いや、あのアパルトメントに浴槽はなかったし、使い勝手も分からないだろ? ついでに髪を洗ってやろう。遠い昔、白の賢者(ホーエンハイム)によくして貰ったんだ」


 今度は自分の番だと意味不明なことを(のたま)い、強引に私の衣服を()ぎ取ろうとしてくる。


 純粋な力では敵わないため、必死の抵抗も虚しく下着まで奪われた挙句、全てを白日の下に(さら)されてしまった。


(うぅ、お嫁にいけない。しかも、()くだけ()いてノーコメントとか… うん、絶対に許さない、許すまじ!)


 香草の浮かんだ湯船に肩まで浸かりながら、此方(こちら)の裸体には微塵も興味を示さないまま上機嫌で髪だけ丁寧に洗い、さっさと退室した似非(えせ)紳士に恨み言を重ねる。


 されど愚痴は長く続かず、諸々の不満は暖かいお湯に溶けて、何やら間延びした吐息が零れた。


「ゆっくり、お風呂に入るの… 何年振りだろう」


 人ならざる怪異の類が見えるために気味悪がられ、厄介者扱いで親戚中をたらい廻しにされていた頃は自重する習慣があったし、独立都市に来て以降だと寄宿舎代わりのアパルトメントにあったのはシャワー室だけ。


(…… 血の繋がらない、知らない人の方が優しいとか、本当に救えない)


 そう言えばディーと大衆酒場で一緒にいた荒事稼業の黒猫さん、明らかに人の皮を被った怪異だったけど…… 彼に関してはまだ良く分からない。


 医師という立場上、顔は広そうだから人外とも交友があるのか、自身も類似した存在なのか。


 取り留めなく考えつつも長湯していると、浴室の様子を(うかが)いにきた似非(えせ)紳士の足音が近づいてくる。


「リズ、のぼせてはいないか?」

「大丈夫です、もう出ますから」


 夕食の支度もあるので、ざばりと水音を鳴らして立ち上がり、浴槽の真横に置かれていた脱衣籠の上に載っている白いバスタオルを掴む。


 風邪を引かないよう、念入りに髪と身体を()いて衣服も着込み、掃除の途中だったので付けていたエプロンを(まと)って浴室の外へ出た。


 真偽眼と呼ばれる金糸雀(カナリア)色の瞳が身近な怪異に反応して、一瞬だけ煌々(こうこう)と明かりを灯したことに無自覚のまま―――

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