03 With daily work and failure(日々の仕事と失敗と)
私に宛がわれた部屋と店舗は大きく離れていないので、二両編成の路面機関車に追い抜かれつつも三十分ほど下町の歓楽街を歩けば、昼営業もやっている勤勉な大衆酒場に辿り着く。
せめてもう少し近ければ睡眠時間が増えるのにと、内心で愚痴など漏らして裏口を潜り、女給の更衣室に入ると先客がいた。
「おはよう、リズ… って、なんか顔色が悪いみたい、大丈夫?」
「あ、うん、気にしないで、ただの寝不足だから」
ほぼ同時期に身売りされて、二等市民の扱いで都市に連れて来られたシンディが眉を顰め、心配そうに覗き込んでくるけど… 私達に労働拒否の自由はない。
所有者が耐久消費財を長持ちさせるような感覚で、休ませた方が良いと判断したならまだしも、自身の意志で仕事を休むことは実質的に不可能だ。
碌な公的支援も受けられない身で下手に “飼い主” の機嫌を損ね、間借りしているアパルトメントから放り出されたら、生きていくのは困難を極めるだろう。
(… 正規の市民権を購入するため、頑張って貯金しないと!)
きゅっと両拳を握り締めて気合を入れた後、店舗のロゴが刺繡されたベージュ色のエプロンを私服の上に着用して、定食の仕込みに取り掛かったものの……
連日の疲労が祟ったのか、カットレットに使う豚肉を白身魚の粉で塗したり、幾つか纏め持ちした空グラスを落として割ったり、空回りして料理人の一等市民に怒鳴られてしまう。
いざ正午になって店内が混み合うと、飛び出た椅子の足に引っ掛かり、揚げ芋のチップスを食事客にぶちまけるという惨事も。
「うぅ、厄日だ」
「はぁッ!? 巫山戯てんじゃねぇぞ! 俺の方が災難だよ!!」
怒り心頭な客人が責任者を呼べと騒ぎ立てたので、謝罪に加えてクリーニング代も渡してきた料理長の所有者が憤り、無骨な手で私の頬をはたく。
無給の深夜残業を少し減らしてくれたら、睡眠不足に起因したミスも減るのにと思うけど、こちらにも非があると考えて “本日分の減給” にも口を噤んだ。
「…… 自分の失敗は棚上げするのにね、あいつ」
「聞かれたら巻き添えだよ、シンディ」
小声で慰めてくれた同僚の少女を笑顔で諫め、書入れ時の接客業務に勤しむ。
その忙しさも片付いて先輩女給と一緒に賄いを頂き、やがて仕事帰りの飲み客が増えてきた頃合いで、見慣れない英国紳士風の人と露出が多い……
もとい、動きやすさを重視した服装で、鞘付きの革製レッグリングを太腿に嵌め、二本のダガーナイフを納めている荒事稼業の若い娘が入店してきた。
私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、縁のあった物語は応援してあげてくださいね。(*º▿º*)