表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

10 Exclusive behavior and antibiotics(排他的行動と抗生物質)

 ()(かく)、風呂上がりの姿で厨房付きの居間へ戻れば、さっきまで多目的用の棚に飾られていた顕微鏡を家主が(のぞ)き込み、碩学(せきがく)達が使う円形状の硝子容器(シャーレ)に入った土? を観察していた。


 その手元には西欧社会よりも百年以上、蒸気機関文明が進んでいると噂の異国(カダス)で執筆された専門的な医学書。


 何だか邪魔をするのは(はばか)られ、こっそりとキッチンへ足を運ぶも、すぐに気付かれて琥珀色の瞳を向けられてしまった。


「それって庭の土ですか、Dr.(ドクター)ディー」

「あぁ、薬の材料になる “放線菌” を採取しようと思ってな……」


 頷いた彼は1753年以降に広まったリンネ式階級分類に()いて、特定の属に含まれたグラム陽性菌が土壌に存在する場合、他の微生物が少ないと発見した異国(カダス)碩学(せきがく)に言及する。


 その御仁は研究対象の細菌が何らかの()()()を出して、自身の競合相手を()()()()()()と考え、菌類等の繁殖を抑える新たな抗生物質に辿り着いたらしい。


(分からない、ちっとも分からない)


 “偉人の猿真似をしているだけさ” と呟き、土(いじ)りに没頭し始めた彼を放置して、蒸気圧縮による気化熱冷却など利用した冷蔵庫を開いた。


 晩御飯のリクエストを確認するまでもなく、食材は(たら)と鶏肉、野菜しかない。


 まぁ、問題ないかとフライパンに油を引いて温め、塩胡椒を擦り込んだ(たら)の切身に小麦粉も(まぶ)して投入、更に英国の家庭料理であるチキンスープを作っていく。


 それにパンも添えたのだけど… いまだ食卓は顕微鏡と彼に占拠されていた。


「すみません、ご飯の用意ができました」

「そうか、ご苦労だったな、リズ」


「「…………………」」


 お互いに無言で待つこと十数秒、接眼レンズから目を離す素振りすらない相手に若干の苛立ちを覚えてしまう。


 短い時間で色々とあり、徐々に遠慮が無くなっているのも背中を押して、少々強い言葉を掛ける。


「お夕食の時間です、自重してください、自重しろ」

「ふむ、長引かせては料理が冷めてしまうか、致し方ない」


 生活能力の無さを露呈するような言動で、(ようや)く商売道具を片付け出した彼と夕飯を済ませれば手持ち無沙汰となり…… 何となく、ソファーに転がっていたタブロイド紙を手に取った。


 “昏睡状態のブラウン氏、死去” と見出しの打ってある一面の記事が目に留まり、ざっと内容を読み進める。


 何でも、先月から数名ほど立て続けに眠り続ける人が出ており、食事の摂取も(まま)ならないため、数日で衰弱死に至るそうだ。


 どの犠牲者も連日の()()に悩まされていたとの文章を見て、背筋に名状し(がた)い寒気が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おお! 何やら動きが出てきましたね! 眠り続ける!? 何事ですかね! 場所的に眠り病は関係ないと見ました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ