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聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


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聖女の治癒力

「ねぇ、聖女の力ってどんなことができるの?広場で見たのは治癒の力よね?」


少女は先ほどの広場でのことを思い出して尋ねると聖女目を見開いた。


「え、ええ。よく分かったわね」


聖女が驚いていると、少女はさも当たり前のように言った。

そしてせっかくだから色々聞いてみようと話し続ける。


「まあ、そのくらいは……。他にも何かできることはある?」

「城を守る結界を張ったり、あとは個別に治癒が必要な方の対応をしているわ」


少女は個別に治療をしていると聞いて少し納得していた。

広場で感じた彼女の力はとても弱い。

あれでは傷一つ一回で治すことはできないだろうと思っていたが、その力を一ヶ所に集中することができるのならば効果は上げられる。

聖女はそうして怪我人の治療などをしているらしい。

でもそれならばなぜ広場であのようなことをしたのかわからない。


「普段は個別に?じゃあ何でさっきは皆に使ったの?」


少女がその疑問を聖女にぶつけると、聖女は苦笑いして、少女にその意味を教えた。


「あれはパフォーマンスなの。私の治癒能力は使う時に細かい光を発するので、本当に治療をする時はそれを治療する箇所に集めないといけないんだけど、その治療を見た王族の方が、巡業の時は治療で力を使わないのだから、それをばら撒いて民衆に感謝されてくるようにと」

「皆が良くなるならそうだけど、あれじゃあ、疲れが取れた、体が軽い、少し痛みがなくなったわ、程度よね?」


本当にそれで民衆は感謝するのだろうかと思ったが、確かにあの広場にいた時、体が軽くなった、動かしやすくなったと大喜びしている人がたくさんいた。

確かに医者にかかるにも大きなお金が必要になるし、薬を買うこともできない人が多い。

そんな中で完全に治らないまでも、体が楽になれば随分と違う。

それを無料でたくさんの人に振る舞ったのだから確かに聖女は感謝されるべき存在だ。

でもそれならば一人一人を治して回ればいいのではないかと思わなくもない。

だがそれはきっと彼女のこの扱いとも関係しているのだろうと、少女はちらっとドアに目をやった。

一方の聖女は治療の魔法であることだけではなく、その効果の程度まで当てられて困惑していた。

けれど的確に言い当てている人に隠す必要はないとつい本音をこぼした。


「その通りよ。集中して使う力を拡散しているから、効果も弱くなってしまうの。ああいう風にできるようになるまで訓練までさせられたわ。それになんか私の力って使っている時は光るから、そこで奇跡が起こっているって分かりやすいみたい。だからパフォーマンスとしてそれを皆のところに降らせることで民衆を喜ばせてくれって」

「なるほど」


あの治療の効果をきらきらとばらまく練習をさせられたらしい。

それはパフォーマンスのためなので、より神々しく見えるようにとか、光の撒き方はもちろんのこと、挨拶の言葉から仕草まで厳しくチェックを受けているそうだ。

治療や結界の話も、彼らができないから聖女に依頼しているはずだ。

だから民衆にそんなパフォーマンスまで強要される謂われはないはずである。

けれども聖女はそれを拒否することなく努力して、こうして治療の力を、その光をコントロールできるまでになった。

なぜ彼女はそこまで頑張れたのだろうと少女が思っていると、聖女は正に聖女らしい答えを言った。


「例えその力は弱くても、そこにいた人に効果はあるみたいなの。聖女の存在を神格化するのが王族たちの狙いみたいだけど、私としては悪いことをしているわけではないから従っているというのが正しいわね。だって貴族は王族にお金を積めば私が治療できるけれど、お医者様に見せることすらできない民衆に、聖女の私は治療をしてあげることができないもの。だから表に立つことで、少しでもたくさんの人の体が楽になるのならって思って頑張ることにしたの」

「……すごいわね。なんか今の言葉を聞いただけで尊敬できちゃう。あなたは本物の聖女様なんだなぁって、すごいなぁって思った」


本当ならば家族と仲良く暮らしていたはずの少女が、こんな窮屈な生活を強いられながら、他の民衆のことまで案じている。

一方の王族は彼女に最低限生きるために必要なものは与えているが、貴族からお金を取って治療しているようだから、どうせそれを自分たちの懐にしまいこんでいるのだろう。

なんと、どこまでも卑しい者たちなのかと少女は考えているうちに、つい本音が漏れた。


「つまり、すごい力を持つ聖女がこの国にはいて、その聖女は自分の手の中にある、そんな自分たちはすごい、という流れを作りたいわけね。そうしないと維持できないくらい貧弱ということか」


部屋に響いた声に聖女は驚いて思わず周囲を見回した。

もちろん部屋には他に誰もいないし、窓の近くにも人の気配はない。

ドアから人が入ってくる様子もないのでおそらく誰にも聞かれていないだろう。

ここで見つかってしまうことも危険なのに、さらに王族の悪口を言っていたとなれば少女がこの後どうなるか分からない。


「あの……そこまででは……。あと、外には見張りの方もいるのであまり……」

「そうだったわね。ごめんなさい」


声に出すつもりはなかったので大きさなども全く気にしていなかった少女は小声で謝った。

そんな少女に聖女は笑みを浮かべて言った。


「でも、少し気が楽になったわ」

「何で?」

「私にはこうして普通に話せる人は近くにいないし、私が思っていたことを簡単に言葉にまとめて出してしまうんだもの。私の代わりに話を広めてほしいくらいよ」


今までの話を聞いた限り、常に監視された中で生活していることは想像できる。

だから聖女には気安く愚痴を言えるような相手もいないということなのだろう。

少女はそれを察して、でもあまり期待させないよう言葉選びながら言った。


「まあ、今の私は一介の平民少女だから、そんな私が言ったところで周りは信じないと思うけれど……。話のネタにはさせてもらうわ」

「ありがとう」


彼女もただ平民の少女にそこまで期待はしていない。

けれど、そういう話が少しでも広まれば、望んで聖女にという人は減るかもしれないし、その力を知られず幸せに暮らせる人が増えるかもしれない。

だから少女が素直に話のネタにしてくれると言ってくれたことは、素直に嬉しく思ったのだった。

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