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聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


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国王の罪

宝物庫から放たれる強い光と、祝福のようなものが降り注ぎ光景を見た見張りが、異常事態が起きていると国王に報告へ向かった。

彼の話によると、遠目なのでよくわからないが、急に強い光が宝物庫の方から放たれて、キラキラしたものがその上に降ってきた。

それはまるで聖女様が民衆を前に癒しを与えている時に似ていたという。

見張りがそんな報告をしているところに、今度は宝物庫からは王妃の護衛をしている者が来て、宝物庫の国宝の一つがなくなったと報告をする。

国王はほぼ同時に行われたこの報告を聞き、立ち上がった。

今、予定では宝物庫には王妃と聖女がいるはずだ。

平民の聖女はともかく、王妃を失うわけにはいかない。

王妃の安否も確認しなければならないし、国宝の紛失も一大事だ。

国王はすぐに、多くの護衛を連れて、自ら宝物庫に足を運ぶことにした。



「これはいったい何があったのだ」


王が到着した時もまだ宝物庫は強い光が残っていた。

眩しくて目がしっかりと開けられないくらい強い光のため、中がよく見えないくらいだ。

宝物庫の扉に配置されている警備の人間は、眩しそうにしながらも持ち場を離れることなくそこに立っている。

国王が状況を確認するが、彼らはただ見たままを報告するしかできない。


「最初、中で大きな音がして、その音で異変に気がついた王妃様の護衛が様子を見に行きました。すると国宝がなくなっていると、様子を見に行った護衛が声を上げたので、王妃は残った護衛と様子を見に行き、私たちはその内容からここから国宝を盗んだ人間を逃がさないよう見張りを強化したのです。王妃様の護衛が国王に報告に行くとここから出ましたが、他の人間はここを通っていません。そのため、犯人はまだ中にいるだろうと皆で警戒をしていました。しばらくして急に強い光が部屋一面に広がって窓が割れました」


代表して報告をした警備の言葉に他の警備の人間も同じだと首を縦に振った。


「では、国宝はここから外には出されていないのだな。王妃はどうした。ここに来ていたはずだが」

「王妃様は国宝の様子を見に奥へ行かれました。護衛がついています。ですがここからその様子は見えませんので……」


入口から天使の羽根の保管場所は死角になっている。

だからその場所に行った護衛の様子も王妃の様子も入口からは見えないのだ。

ただ光だけは上から降り注いで入口まで届いたのだという。


「わかった。引き続きここからは誰も出さぬように!」


国王は警備の人間にそう告げると、宝物庫の奥へ進むことにした。




王妃は横倒しになったケースの前に立っていた。


「大事ないか!」


国王が王妃に駆け寄ると、王妃は国王の方を見てうなずいた。


「ええ。私は……」


そう言いながら、国王から視線を外して失われた国宝のあった場所に視線を戻した。


「どうしてこのようなことに……」

「私にも何が何だか……」


王妃も何があったのか分からない。

自分は入口で本を読んでいただけだし、その間、誰も出入りさせなかった。


「確かそなたは聖女と一緒にここに来たのではなかったか?」


王がここにいない人物に気がついて、王妃に詰め寄る。

その様子を見た天使は、王妃が責められるのは申し訳ないと感じて思わず声をかけた。


「これは私の片翼よ。返してもらうわ」


その声を聞いた者たちは、声の主を見ようと一斉に上を見た。

そこには神々しい光を放ち、翼を広げた天使が、手を伸ばしても届かない天井近くにいた。

その光景に皆が呆気に取られていたが、我に返った国王は天使に言った。


「どうか降りてきて我々の話をお聞きください」


国王が天使を見上げてそう言うのを聞いた天使は、不快感を露わにした。


「降りたらまた、あなたたちは私から翼を奪い、聖女という肩書を与えて王族の奴隷のように扱うのでしょう?」

「そんな恐れ多い事は……」


そう言いながらも国王は目を泳がせた。

ここにいる天使は自分の翼を返せと言って、宝物庫の翼を取りにきた。

だから再度翼を奪わないと言っても信用されない事は分かる。

さらに過去二人の聖女に対しては平民だからという理由で軽視してきたため、天使の詩的にも心当たりがあった。

もちろん相手は天使なのだから相応に遇するつもりだが、逃げられないように画策しなければならないとは考えている。


「あら、だって前聖女は家族を人質に奴隷のように扱われていたわ。あなたたち人間からすれば聖女も天使も変わらないのでしょう?」


前聖女の話を知られているのかと国王の表情はさらにひきつった。

この天使はすでに全てを知っていて、何を言っても無駄だと悟ったのだ。

国王が黙りこむと、一部の護衛や警備の人間が動揺した。

国王が聖女に行った事は一部の人間しか知らない。

王妃が知らなかったのと同じで、護衛や警備をしている人間の中には聖女の待遇が悪い事を知らない人も多くいたのだ。

そして知らされていない多くの人は、聖女は国に庇護される存在だと信じていた。

国が大切に扱っているからこそ、国民はその奇跡の力の恩恵を受ける事ができるのだと。

けれど今、目の前にいる天使は、国王が聖女を大事に扱わなかったと言った。

そしてこれを国王は否定しなかった。

つまり国王は天使の言い分を肯定したということだ。

彼らは思わず国王をちらっと見た。

それから再び天使に目をやると、次の言葉を待つのだった。



天井近くにいる天使は、まるで宝物庫の天井に描かれた壁画のようだ。

壁画と違うと皆が認識できるのは、その翼が動いたり、動いた翼の風を受けて服や髪がなびいているからだ。

そして天使から放たれる光は落ち着いてきたものの、天井付近にある窓からは太陽の光が降り注ぎ、天使の上に降り注いでいる。

皆がその神々しさに当てられて天使を見上げたまま言葉を失っているのを見て、天使は窓の方へと移動しようとした。

話が終わったのなら天に帰ろうと考えたのだ。

けれど外に出ようとした天使を見て国王は慌てて声をかける。


「ああ、天使様、このままどこかへ行ってしまわれるのか」


尊敬しているのか、利用しようとしているのかわからない国王に引きとめられた天使は、ため息交じりに答えた。


「そうね。これ以上、あなたがた王族の身勝手な振る舞いに振り回されたくはないし、そのような者が出ないことを祈ることにするわ」


また手の届く位置に降りたら同じような目に合いかねない。

だから天使は彼らの手の届かない高さを維持しながら会話を続けるのだった。

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