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聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


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チャンスの到来

王妃が宝物庫に入る許可をもらってきたのはその数日後だった。

今日は王妃と会うことになるけれど、着なれない重たい服より、動きやすい服の方がいい。

でも失礼にならないような物を選ばなければならないと考えた結果、少女は聖女の衣装を着ることにした。

聖女は治療のために様々な動きをするため、聖女の服は飾りも少なく、服の形をきれいに見せるためにつける下着などもないため、動きを妨げるようなものがない。


「今日はお仕事があったのかしら?」


部屋で王妃を聖女の姿で向かえると、急な仕事があったのかと申し訳なさそうにしていたが、少女はそれを否定した。


「そうではありません。今日は宝物庫を見せてもらえるという事なので、動きやすく失礼のない服をと考えた結果、これが一番という結論になったのです。宝物庫の中では立ちっぱなしになるので」


宝物庫の中の移動は自分の足だ。

だからできるだけ軽装で歩きやすい靴がいい。

外から見られる立場ならば堅苦しい恰好をして、それを周囲に見せつけながら見なければならないかもしれないが、ここに入れるのはごく一部の人間だけだ。

それに作品を見ている最中に座れるような椅子があるわけではないので、疲れて座るのなら床になる。

ドレスで床に座るのは厳しいが、聖女の服ならば体をかがめたり膝を曲げたりしやすい服だし、場合によっては地面に座って人を診る事もあるのだから問題ないだろう。

そう考えたのだと伝えると、王妃はため息をついた。


「そういうことだったのね。今度動きやすい服を頼んだ方がいいわね」

「いえ、服はたくさんありますから充分です。それに外出するわけではないですからもったいないです」


この先、自分が外出を許されるとしたらそれは巡業の時だろう。

だが巡業ならば、それは仕事なのだから聖女の服を着用する必要がある。

つまり外でドレスを着る事はないということだ。

もし自分が聖女の役目を終えて解放されることになったとしても、まだ成長過程の少女の体型はきっと変化するのだから無駄になる。

着る機会のない服などもらっても仕方がない。


「そう?必要になったらいつでも言ってちょうだいね。この間のドレスの方が身が残っているから、採寸なしですぐに作ることができるはずだから、手配するわ」

「わかりました」


おそらく必要になる事はないが、それを伝える訳にはいかない。

服は帰った後で完成することになるので、自分が袖を通すことはないだろうと思われる。

だから必要ないのだが、理由もなく申し出を断るのは失礼になる。

なので穏便に話をまとめることにした。

おそらく王妃の今の返事から考えると、勝手に服を作って送ってくる事はないだろう。

そう思うと少し気が楽になった。



そんな話をしているうちに宝物庫の前に到着した。

前と同じように騎士が預かった鍵で宝物庫のドアを開け、少女と王妃と侍女と護衛が中に入った。

そして扉の内外に警備の人間が立つ。


「どうぞ見てきてちょうだい。今日も私はここで読書をしているわ。疲れたらここで休憩をしながらお茶をしましょう。お茶をしてからもう一度見に行ってもらっても構わないわ」


服装の事で立ちっぱなしでもいられる動きやすいものという話をしたためか、王妃が使っているところを休憩所代わりに使っていいと言いだした。

正直言えば、平民の少女なので動きにくいのは苦手だけれど床に座ることにも、長く立っていることにもさほど抵抗はない。

宝物庫を見て歩くくらいで疲れて動けなくなるようでは平民として働き生活をすることなど不可能なのだ。

だが、生粋の貴族である王妃はそれを知らない。

それに善意でそう言ってくれているのだからやはりここは素直にお礼を言っておき、必要に応じて甘えさせてもらうべきだろう。


「はい。ありがとうございます」


少女は気遣いをしてくれる王妃に感謝を伝えると、宝物庫の奥へと進んで行った。

それを見た王妃は椅子に腰を下ろし、侍女に持たせていた本を受け取ると、静かに読書を始めるのだった。



天使が向かったのは翼のところだった。

早く、もう一度、そこにある事を確認したい。

幸いにも前回と同じで、護衛たちは王妃の周りを固めていて、少女を見張るものはいない。

ただドアに背を向けて建っている警備の人間がいるので、彼の眼に少女の行動は間違いなく映っている。

だから不審な行動をとれば彼らに気付かれてしまうだろう。

そのため少女ははやる気持ちを隠しながら、警備や護衛から見える位置にいる間は、さも飾られた装飾品を見ているように見せかけながら歩いていたが、彼らの死角に入ってからはまっすぐに翼の方へと駆け出した。

床には絨毯が敷いてあるので、多少走っても音が出ることはないし、今日の服装に合わせてヒールのない靴を履いているので走るのも余裕なのだ。

そうして目的の場所に着いた天使は、ケースに手を置いて上から覗き込むようにじっと翼を見た。


「よかった……」


きれいな形で、前に見たのと同じように置かれている翼を見た天使は、大きく息をついた。

ここにあったものが違うものだったり幻だったりしたら、また最初から情報を得て探さなければならないところだった。

二回見る事ができたのだし、これは間違いなく本物だ。

目の前に翼があることに安堵した天使は、改めて翼を囲むケースの周りを歩きながら、これをどうしたら取り出せるのかを考えるのだった。



宝物庫の下は絨毯になっている。

少女が翼を見下ろし、歩きながら翼を覗き込んでいた時、ふとわずかな違和感を覚えた。

そのため立ち止まってじっくり見ると、ケースの内側の絨毯部分にへこんだ跡がある。

透明なケースに反射する光の加減かと思ったが、しゃがんで角度を変えて見てもその跡は消えない。


「これって、動かした跡かしら?絨毯に細い線みたいな食い込みがあるわ」


ガラスの下になっている部分に跡がついているという事は、このケースが動かせるということだ。

いつのことなのか、何人がかりでなら動かせるのか、それとも偶然ついたものなのかは分からない。

ただ、跡が残っているということは、このケースが動いた時期が比較的最近の可能性がある。

これが何かの突破口になるのではないか。

そう考えた聖女は、翼の周りのケースをなめ回すように観察するのだった。

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