表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/39

宝物庫見学

「見終わったわ」


天使の羽以外の場所もじっくりと時間をかけて見たフリをして、少女は入口まで戻ると、お茶をしながら本を読んで待っていた王妃に声をかけた。

王妃は声を掛けられると、本から目を離して座ったまま少女を見て微笑んだ。


「そう。どうだった?」

「また是非見せてもらいたいわ。仕事の後でここに来たら、鋭気が養われそうだから」


日付などはしていしない。

自分が疲れたふりをしている時に、気にかけて相手から声をかけてくれるならそれが一番なので、少女は暗にそれを匂わせる発言をした。

自分の要求を通す方法は、それを口に出して言うだけではないことを、別の人間として生きた時に学んでいた。

まさかこんな知識がここで活きるとは思っていなかった。

貴族社会ではそういうやり取りがあったとしても、今の立場が平民で、しかもまだ成人もしていない少女なので、王妃も警戒することなく話を聞いている。


「本当に美術品が好きなのね。私は正直、あまり好きではないのよ。話を聞きながら見ているだけで疲れてしまうの。だけど興味がないとは言えないじゃない?だから知識はあるけど、何度も来たいとは思わないのよ」


残念ながら王妃は宝物庫に興味がないらしい。

けれど聖女が見たいというのだから付き合わない理由はないし、むしろ接待できるのは光栄だという。

公務だってやりたくてやっている事ばかりではない。

早く支度をして待たされることも多い職業なので、聖女の役に立っていると考えれば特に負担ではないから、またいつでも声をかけてほしいと王妃は言った。


「確かにセンスはどうかと思うけど、貴重なものなのは間違いないと思うわよ。私も全てを見たいわけじゃなくて、気に入ったものがたまたまあったから、それだけ見られたら充分よ」

「そうなのね。気に入ったものがあったのなら良かったわ」


少女の目から見ても王妃の言いたい事は理解できた気がした。

ここにあるものは確かに高価なものだが使い道があるものではないし、女性が興味を持つようなものはほとんどない。

よほどの美術品好きとか、専門家でもない限り、一度見たらお腹いっぱいという感覚になるところだ。



少女が見学が終わったと聞いた王妃の付き添いの人たちが、テーブルのお茶を交換した。

そして王妃は少女に椅子を勧める。


「ずっと立ちっぱなしでの見学で疲れたでしょう?少し休憩してちょうだい」

「そうですね。失礼します」


少女はそういうと自分のために用意されたと思われる席に座った。

するとすぐに少女の前にもお茶が用意される。


「せっかく聖女様とのお時間をもらったのだもの。本当はお話をする時間を作りたかったの。ここなら私もいるし、よほどの事がない限り邪魔が入る事はないと思うわ」


王妃はそう言って少女を眩しそうに見つめる。

王妃からすると、少女は聖女であり崇拝の対象なのだ。

少女は、王妃と話す事は特にないと思ったが、ふとさっきの言葉を思い出して尋ねた。


「あ、そうだわ。王妃様はこの宝物庫のこと詳しいのよね」

「そうだけれど……何かしら」

「一つだけ、大きな白い羽があったけれど、あれはそんなに大事なものなの?私には理解ができなくて」


もしかしたら王妃なら翼がここに来た経緯とか、言い伝えを聞いているかもしれない。

自分と離れている間、翼がどう扱われたのかを知りたいと思った少女は、興味本位でそう切り出すと、王妃は少し表情を曇らせた。


「ああ。あれは私達にもよくわからないのよ。でも先祖が大事にしているものらしくて、そのままなのよね。鳥のはく製の一部に見えるのだけれど、その点には触れられていないのよ。題名は天使の羽というみたいだけれど」

「天使の羽……」


間違っていない。

天使からもぎ取った翼だ。

でも、もぎ取った王族はとっくの昔に絶命しているし、その経緯は伝わっていないらしい。

だから一番情報量が多く真実に近いのは、何回か前の生で読んだ絵本か、昔話として聞かされた言い伝えということになる。

聖女を崇めているくらいだから、本物の天使から本当に翼を奪ったのなら、彼はその時点で処罰されるのが本当だと思うのだが、現に翼はここにあり、聖女を崇めている人たちはそれを返そうともしなかった。

現に全聖女の扱いといい、自分の最初の扱いといい、彼らは随分と聖女や天使といった崇拝対象を歪んだ考えで扱っているように思われた。


「でもあの羽、不思議なことに何百年も前からあるのに、色褪せることがないのだそうよ。確かにずっと真っ白だけど、これだけ厳重に管理していて、硬くて丈夫なケースに入れてあるのだもの。掃除できなくてもホコリなんて入る隙間もないのでしょうね」


普通の鳥の羽ならば色あせたりするらしい。

それなのに国宝の羽はそうならないから不思議だと王妃は言った。


「掃除もされてないの?」

「そうらしいわ。ケースが上から触ってあれだけ丈夫なのだから、きっと動かせないものなのでしょう」


大切なものなら定期的に掃除くらいするだろうと思っていたが、ここにあるものはそういうものでもないらしい。


「そうよね。もし軽いものなら、近寄ったり、誤って手が触れてしまったりしたら動きそうなものだし、もし動いたなら、その時にかぶったホコリのひとつでもついていなければおかしいわよね」


翼と再会した時、確かにきれいなままだった。

形がそのままだった事に安堵したのもあるが、とても丁寧に扱われていいるのだと分かって複雑な気分になったのだ。


「他のものは掃除しているのよね。そのまま置いてある金色の壺なんて、くもりひとつなかったわ」

「それなら定期的にお掃除は入れているのではないかしら?私はここにあるものにあまり魅力を感じないから気にしてはいなかったのだけれど」


王妃からすれば紛失をしていなければ問題ないし、別に自分が管理しているわけではないので、管理の事まで自分が気にする必要はないと考えているらしい。

確かに頻繁に人の出入りがあるわけでもなく、見せびらかすものでもなく、保管しているだけならばそれでいいのかもしれない。

王妃の言葉に少女は苦笑いした。


「王妃様は本当に興味がないのね」

「ええ。ここの物を見ているくらいなら、ドレスの生地を見ている方が心沸き立つものがあるわ。この生地でどのようなデザインのドレスを作ったらいいか、どう組み合わせたらよりよく見えるのかを考える方が有意義だもの」

「ドレスなんて、平民の私には縁のない話ね」


少女の言葉に、さらなる交流を望んでいる王妃が反応した。


「そう……。それならば今度あなたのために見立ててあげるわ」


聖女様に面会する大義名分ができて嬉しいと、王妃はお茶に口を付けながらそう言うと、少女に微笑みかけるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ