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聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


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宝物庫での再会

王妃との約束から数日後。

王妃は本当に国王から宝物庫に入る許可をもらってきた。

ただ、その条件として、信頼できる王妃と騎士たちが同伴すること、という条件を出されたのだという。

天使としては確かに一人で確認したいところではあるが、一度目は確認だけなので問題ないと判断した。

確かに身元不明な平民の少女を国宝の眠る宝物庫へ簡単に入れる訳にはいかない。

大人しく相手の事情に配慮しておけば、次の時にも容易に許可をもらうことができるようになるだろう。

だから誰がいても構わない。

まずは先々の事を考えて、存在を確認することが大切だ。

元聖女の話が本当ならば、探し物がこの宝物庫にある可能性は高いが、それだって本物かどうかわからない。

何か別の理由があって保管されている別の物という可能性もあるのだ。

それでも期待しすぎてはいけないとわかっていながらも、天使はこの日を楽しみにしていた。



当日、騎士だけが迎えに来て、入口で合流すると思っていた王妃自らが、騎士を伴って聖女の部屋へと迎えに来た。


「王妃様までご一緒なのですか?」

「ええ。あの後、また同じことになっていないか心配だから部屋の様子を見ておきたかったの」


どうやら見ていないところでまた足枷をされているのではないかと心配をしてくれたらしい。

しかし王妃に近い使用人がいるところでそんなことをすればすぐに王妃の耳に届いてしまうので彼らはそれをしなかった。

おかげで聖女は普通の軟禁生活を送っている。


「おかげさまで問題ないわ。それに使用人までいるし。私平民だから使用人なんていても、どうしていいかわからないくらいだけど」


過去に貴族令嬢に生まれ変わった事があるので、彼らに何を頼んでいいのかなどは分かるが、今世では平民なのだ。

ここにいる使用人はおそらく貴族。

幸いにも聖女という肩書のあるおかげで彼らが表だって嫌な顔をすることはないし、王妃もそういう人は選んでいなかった。

ただ、頼みにくいので、お茶を飲みたくなったらお湯を沸かし始めようとして、使用人側から、後はこちらでやりますと言ってもらうようにしている。

傲慢な態度を取らないようには気を付けているので、使用人との関係は、その環境に不慣れな謙虚な聖女と、聖女を尊敬する貴族のご令嬢といった感じで、割とうまくいっているのだ。


「よくやってくれているようで嬉しいわ」


天使が王妃にそんな話をすると、彼女は使用人にそう言った。

そして確認できたことに満足したのか、本来の目的を果たすと王妃は再び少女の方を向く。


「準備をして待っていたということは、楽しみにしていたのでしょう?そろそろ移動しましょうか」

「はい」


少女の返事を聞いた王妃が、自ら案内をすると先頭を歩き始めたので、天使は慌てて王妃の横を追いかけた。

そして王妃に追いつくと、少女は天使の横、少し後ろの位置をキープしながらついていく。

そうしているといつの間にかその周囲を騎士が囲んでいた。

使用人たちは、部屋に残って頭を下げて私たちを見送ったのだった。



宝物庫の前で王妃たちが見守る中、騎士の一人が預かった鍵で扉を開けると、その目の前には美術館のような光景が広がっていた。

宝物庫というのだから倉庫のようなものなのかと思っていたが違っていて、高い天井、高い所にある窓、そして美しく棚に並べられた品々、そして歩くところも広く取られている。

ここにある宝物を見に来るのは王族なのだから、辛気臭かったり、歩きにくかったりしてはいけないのかもしれない。


「これが宝物庫なの?何だか美術館にでも来たみたい」


少女が驚いてそう言うと、王妃はそれを喜んでもらえたと捉えて嬉しそうにうなずいた。


「そうね。けれどここにあるものが美術館に並ぶことはないわよ」

「貸し出して、公開したりはしないの?」


この場所を公開することはしなくても、単品で貸し出して皆に見せたりすることはないのかと聞くと王妃は首を横に振った。


「しないわ。それだけ貴重なものしかここにはないということよ。もし持ち出して、途中で事故や盗難にあったら取り返しがつかないもの。それに、場所が知られていても、なんだかんだでこの場所が一番安全よ。常に万全な警備に守られているのだから」


確かにここにあるものを運ぶ際、事故や盗難の可能性はある。

それに貸し出しや展示が明らかになれば、出発はともかく戻りは狙われやすくなるだろう。

荷物を運び出す様子は美術館の出入口を見張っていればわかるし、荷物の向かう先がこの場所ならば、その荷物が国宝だとわかるのだから、きっとそこを狙われる。

それに盗難がなくとも事故や破損の可能性だってある。

本当に大切だからこうしてしまいこんでいるのだろうから、貸し出しはしないと言われればそうなのかもしれない。

ただ、ここが万全な警備かといわれると少し考えるところがある。


「万全な警備ね」


思わず引っ掛かった事を口にすると、王妃はその根拠を説明した。


「そう。それに例え入れたとしても、何かを持ち出して出るなんてできないわ。だから中に入れてあげることができたのよ。まず宝物庫の出入口はあの一ヶ所だし、採光のための天窓はあの高さだもの。登るなんて不可能でしょう?さらに敷地から外に出るまでにも多くの警備の目があるのだから、ここにあるものを持って外に出ることなんてできないわ」

「……そうね」


否定しても仕方がない。

そして否定することで警備を強化されるのは困る。

だから少女は王妃の意見を肯定した。


「そんなわけだから、ゆっくり見て頂戴。自分のペースで見たいでしょう?私はあのテーブルでお茶でもしているわ」


そう言って王妃は入口にあるテーブルについた。

いつの間にかそこにはお茶が用意されている。


「ありがとうございます」


お茶をして待っているという王妃に一応お礼を伝えると天使は早速、中の確認を始めることにしたのだった。



「確かにこれは、国宝級ね。金も宝石もたくさんついていて、ギラギラしてるもの。センスはともかく、価値だけは高い、そんなとこかしら?」


不敬になりそうな言葉をつぶやきながら、美術品に目を向けているように見せつつ、周囲の状況もしっかりと確認した。

出入口が最初に入ってきた一ヶ所しかなく、ドアの近くにあるテーブルでは王妃がお茶をしているのだから、人に見つからず物が盗まれる事はないと過信しているのだろう。

それに見ている限り、見つからないように運び出せるような物はここにない。

どれもこれも、少女が持ち出そうとしたら腕に抱えなければならないような大きなものばかりで、そもそもこれらが金属でできているのなら持ち上げるのも困難だ。

これならば入口以外の警備を緩めたくなる気持ちもわかる。

そして守るべきは平民ではなく王妃なのだから、警備は王妃に集中している。

だから天使は思っていたより落ち着いてゆっくりとそれらを見る事ができた。



そしてついに天使は目当ての物を発見する。


「これ……。間違いないわ」


久々に見た自分の片翼はあの時もぎ取られたままの姿だった。

しかしその羽根の周りを透明なものが覆っていて、手で触れる事ができない。


「随分と頑丈なケースに入れられているのね。見えているのに触れないなんて」


目の前にある自分の翼、もう少しで手が届きそうなところにあるのに、透明なものに阻まれてそれは叶わなかった。

それはとても悔しかったが、ここに長い時間留まるのが良くない事は分かる。

ここにいる全ての人間に、自分の目的を知られるわけにはいかないのだ。

だがこれは大きな収穫だ。

何度も転生を繰り返し、そしてついに場所を突き止める事ができたのだ。

今日はそれだけで充分、そう思うしかない。

天使は名残惜しいと思いながらも渋々その場を離れた。そして不自然にならないよう、その先に並ぶ国宝もじっくり見るフリをして時間をかけると、一周して入口まで戻ったのだった。

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