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聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


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貴族のもくろみ

少女が治療を始めると、傷は見る見るうちにふさがり、そしてきれいな肌に戻っていった。

天使の力ならば一瞬で治せるような浅いものであったが、前の聖女の力を考えると、一瞬で治すわけにはいかない。

楽に治せると思われるわけにはいかないと注意されているのだ。

だから彼女を手本に弱々しく力を使って、前の聖女と同じようなキラキラしたものを出しながら、治る経過が見えるよう少しずつ治療を進めていった。

最悪こうすれば、治療を止めてほしいところで監視役の男が何かしら言いながら止めに入るだろうという計算もあったのだ。


「すごい……!」

「なんと素晴らしい!」


治っていく様子を見ていた当事者の二人はそれぞれ声を上げた。

一応彼の皮膚にキラキラしたものが降り注いで、それが少しずつ傷を治していくように見せかけているので、目に見えるキラキラが聖女の力だと思っているはずだ。

本当は傷を少しずつ直しながら、元聖女が民衆の前で出していたキラキラに似たものを真似して一緒に出しているだけなのだが、こうしておかないと監視の男の目も欺けないと思ったのだ。

少女はそうして時間をかけて治し、無事に治療を終えて、力を使うのを止める。

それからさも疲れたような仕草をしてから少年に声をかける。


「いかがでしょう?」


その声に我に返った二人は体のあちらこちらを確認し始めた。

もちろん、その体には傷一つ残していない。

本人も痛みはないと言い、体を確認した父親もきれいになった肌を見て感嘆の声を上げていた。

監視役の男ですら、一瞬、感心したように声を上げたくらいだ。



傷が治っている事の確認を終えたところで、治療を依頼してきた父親が少女に言った。


「あなたはどちらかのご令嬢ではないのですか?」


少女はその意味を瞬時に理解できないかのように、男の方を伺う。

すると、男は口を少し動かしてから首を横に振った。

少女に読唇術ができるわけではないが、何となく言いたいことが理解できたので、再び忖度して答えを出す。


「ご令嬢?ああ、えっと、私は平民って答えたらいいのかしら?」


非常にわざとらしい言い方だが、答えに迷ったところからも、相手に意味すら理解できない平民と印象づけることに成功したらしい。

きっとこれがどこかのご令嬢だった場合、家格が合えば良いお付き合いをとか、目の前の少年と婚約をとか、色々面倒なことになりそうだというのは分かっていた。

それは今世で学んだことではないが、転生をしてもまだ王家やら貴族やらが残っているのだから、過去の経験から根本的な制度は変わっていないだろうと判断したのだ。


「そうでしたか。何とも惜しい……」


貴族ではないと知ると、男性は悔しそうにそう言った。

その言葉からもやはり男が聖女と縁を結ぼうとしていたことがうかがえる。

聖女が平民だとわかって引いたところを見ると、やはり狙いは聖女と息子の婚約、そして地位の向上といったところだったようだ。

だから家格が合わないので息子との婚約は諦めた、別の方法で聖女を取り込むことを考えなければといったとことだろう。

少女が男を見ながらそんなことを考えていると、割り込むように監視役の男が彼に声をかける。


「では、お約束通り、お願いいたします」

「こちらをお受け取りください」

「たしかに」


そうして少女の前で治療の対価のやり取りが繰り広げられた。

別に悪い事ではないが、目の前で見せられるといい気はしない。

前の聖女の時もきっと同じようなやり取りがあったのだろう。

本来ならばその治療費は、治療を行った彼女の手元にあるべきものだったはずだ。

だが、これは王族や、その周囲の者の手に渡るだけなのだろう。

そして聖女を手元に置くための警備や、家族を人質にするための人件費、そして彼らを活かすための最低限の生活に振り分けられるに違いない。

だからそれを理解している一部貴族は、対価とは別に聖女宛のものを持ちこんだのだ。

そうしなければ聖女の手に何も残すことができないのだから。

きっとそうした貴族は、本当に聖女の存在に感謝していたのだろうと、男たちのやり取りを見ながら少女は思った。


「新しい聖女様も素晴らしい能力をお持ちのようですね。交代後、最初にお目通りが叶って光栄に思います。もし何かございましたら、うちの息子とご縁をいただければ都合を付けさせていただきます」

「伝えておく」


会話を終えた依頼主は、改めて椅子に座る少女に向き直った。


「また何かございましたら、よろしくお願いいたします」


そう言うと最後に少女に向かって頭を下げた。

そしてずっと黙っている少年にも頭を下げさせて帰っていった。

依頼主は監視の男に、息子とご縁をと言っていたので少女の予想は当たっていたらしい。

彼はまだそのご縁というのを諦めておらず、もし平民の少女である聖女を、貴族の養子にして格上げした際はと思っているのだろう。

同時に、家から出すことになっては意味がないと考えてか、自身の家の養子に迎えるつもりはないようだ。

少女は部屋を出ていく彼らを黙って見送りながらそんなことを考えていたのだった。



少女の仕事は終わったが、しばらく椅子に座ったまま動かないようにと言われ待機となった。

一応、一日一人しか治療を行わないことになっているが、何か例外があって、またここに誰か来るのかもしれないと思った少女は監視役の男の指示に従って、黙って座っていることにした。

しばらくそうしていると、再び正面のドアが開いた。

そしてそのドアを閉める事もせず一人の男性が中に入ってきて、監視役の男に告げる。


「確認してまいりました」


そう言うと報告した人物は空けっぱなしのドアから出ていき、今度はきちんと閉めていった。

どうやら伝令に来ただけらしい。

少女が何を確認したのか分からないため動かずじっとしていると、監視役の男が言った。


「彼らが門を出たそうなので、聖女様はお部屋にお戻りください」

「ああ……。わかったわ」


どうやら確認したというのは訪ねてきた貴族がここから去ったことだったらしい。

ここに来る時も、この鉄球が見えないようにとか、余計な動きをするなとか言っていたのだから、彼らに聖女の足に鉄球を付けて働かせていると知られないようにするため措置なのだろう。

もしかしたらこの先もこのような確認が終わるまでこの席から動けないのではないかと不安になるが、まあ、それは仕方がない。

そこは彼らに従うしかないだろう。

とりあえず初仕事を無事に終えた少女は、やはり男に監視されながら、用意された部屋に戻ることになるのだった。

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